簡単だったから分からなかったもの
「う……ここは……? そうだ……あのゲスを倒すために行こうとして……師匠が飛び道具万歳と……」
「父上が……凄く良い笑顔で…………畑を耕して……」
「お茶……しか、飲まない、お、おじー、ちゃんが……、ジュー、スを……飲んで……」
「お、伯父様が……、スラスラと色んな魔法を忘れずに使って……」
目覚めた4人が口々にそう言って、胡乱な瞳でキョロキョロ周りを見渡し……同時にこの言葉を口にしたのじゃった。
「「「「ゆ、夢……?」」」」
「いえ、多分皆さんの常識をぶち壊すような幻覚だったんだと思いますよ」
彼らの言葉に彼女はそう言ったが、彼らが口にしたイメージを頭の中で想像して、苦笑しておった。
というか、そんな四天王は嫌過ぎる……!
そして、彼女の言葉で漸く頭の回転が回り始めたのか、4人が4人とも見ていたものが現実ではないと知って……ホッと息を吐いていた。
一息吐いて気持ちが落ち着いたのか、彼らを代表してかロンが彼女に向き……訊ねてきた。
「……いったい、自分たちに何があったんだ? それに、光っているこれはいったい……?」
「えーっと……、それについては今から説明しますね。……って、あら?」
「う、うーん……、オレはそらをとぶんだー……。ちちゅうをもぐるようにできてないんだー……」
うなされながら、フェーンが枯れたリアードの花からもぞもぞと這い出てきたのじゃった。
というか、隠れて居ったんじゃな……。
「フェーン……、アンたちに付いていかなかったのですか……?」
「お、おまえかー……? オ、オレはちちゅうにもぐるんじゃないぞー……」
「そうですね、フェーンは空を飛ぶ妖精ですからね」
「そ……そうだぞー……。……あ、とべたー! オレはちちゅうじゃなくてそらをとぶんだー!」
どうやら、フェーンも同じように常識を崩されておったらしいのう。
ちなみにフェーンの中のイカレタ常識では妖精は空を飛ぶのではなく、地中をモグラのように移動するといった感じになっていたのじゃろう。
それを表すかのように、フェーンは凄く嬉しそうにパタパタと彼女の目線辺りまで飛び上がっておった。
そんなフェーンを見届けてから、彼女はロンたちに何が起きているかを語り始めたのじゃった。
「俄かには信じられんが……、だが自分たちに起きていたことがゲスの行おうとしていることだと言うことだけは分かった……」
「あ、ああ……正直、あのまま父上のあの姿を見てたら、オレも農村ライフな日々を受け入れていたかも知れねぇ……」
「わた、しも……あのおじー、ちゃん……が……ふつーに、思えてた……」
「正直言って、あれはヤバイと思ったわ。それよりも、あんたが言ってた……というよりも、行ったことのほうがウチは気になるんだけど?」
4人が4人とも、見ていたことを思い出して顔を渋らせておったんじゃが……フェニが突っ掛かるように彼女を見たのじゃ。
いきなりフェニが突っ掛かるように顔を近づけてきたため、彼女は驚き足を一歩後ろへとずらした。
そこで自分が前に出すぎているのに気づいたフェニは、咳払いをしながら足を後ろに戻して行きおった。
「し、失礼したわ……。けど、あれは何をしたのよ!? どう見ても、普通に魔法を使ったわけじゃないわよねっ!?」
「えぇっと……、実のところ、アタシも良く分かっていないんです。ただ……糸に『聖』の属性を込めて、おまじないをしただけで……」
「おまじ、ない……?」
「は、はい……、こう……丸を描いてその中にちょちょいのちょいと絵を書き込んでいって――って、どうしました?」
彼女が問われたことを平然と答えると、フェニは静かに聞いていたが……徐々に顔色を青くさせながら、頭を抱え始め、その場にしゃがみ込んだのじゃった。
どうしたのかと心配そうに見ていると、突然頭をガシガシ掻き始め、顔を真っ赤にしておった。いったいどうしたんじゃろうな?
「ああもう、バカ! バカ! 何でこういうことに気づかないのよ、ウチのバカ!」
「え、えーっと……フェ、フェニ?」
「あんた……気づいていないみたいだから言っておくわ! ウチらが使える魔法は自分の身体だけじゃなかったってことなのよ!!」
苛立ちながら答えたからか、フェニは彼女に指を突きつけながらそう叫びおった。
そんなフェニの言葉に彼女は最初首を傾げておったが、フェニの言った言葉を噛み砕き始めたのじゃった。
「自身の身体以外で魔法を使う方法……、例えばあの魔込石みたいな道具に入れておくとかですか? いや、それだと数に限りがありますよね……。じゃあ、文字とか絵に描――あーーーーっ!!?」
「そうよ! 絵に魔力を与えて、魔法の効果を使えばいいのよ! あまり知られていないけど、設置型魔法であるトラップマジックが良い例じゃない!!」
そう言って、フェニは悶々と自分の中に出来上がった理論を形にすべく……ぶつぶつと呟き始め、それを周りは一歩引いた目で見ておった。
じゃが、そんなフェニよりも、彼女のほうが内心頭を抱えておった。
うん? 何故彼女が頭を抱えておるのかじゃと? それはじゃな、彼女……いや、彼の世界の創作物……所謂、異世界系の話を題材にした読み物や漫画という絵で描かれた本にそういう魔方陣と呼ばれる、魔法を呪文以外で使う方法が描かれておったんじゃ。
要するにじゃな、知ってる知識だから広まっている物だろうと考えて、まったく気にしていなかった結果がこれなんじゃよ。要するにウッカリということじゃな。
その場でひっくり返って転げ回りたいのを必死に堪えつつ、彼女はジッとしておった。
それからしばらくして、フェニが考察らしき物をし終えたらしく、こちらへと向き直った。
「とりあえず……やり方はわかって、理論も理解出来た……けど正直言って、バカみたいに魔力を消費する方法みたいよ。
使う人が居たとしたら、それはただのバカか魔力に自信のあるバカってことね。それに、どんな絵を描いたらどんな効果が起きるかなんて分からないよ」
とても身も蓋も無い言葉じゃった。
ちなみにトラップマジックは魔方陣に似て非なるものという感じです。