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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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おまじない

 うーん、彼女はどうしたんじゃろうな?

 わしらの目には目を閉じて、耳を澄まし始めたようにしか見えなかったのじゃが……、いきなり糸が切れた人形のようにカクンと崩れ落ちたんじゃよな……。

 そして、それに続いてティアもクラッとふらついたようじゃが、何とか持ち直したのう。しかし、ロンたち4人も彼女と同じようにカクンと崩れ落ちたのう。


「ア、アリスッ!? ロン、タイガ!? おい、トール、フェニもなのか?! しっかりしてくれ!!」


 唯一無事じゃったティアが周りに起きていることに驚きを隠せずに、慌てふためき――アリスの肩を揺すり始めた。


「アリスッ! アリスしっかりしてくれ! あたしの声が聞こえないのか!? アリスッッ!!」


 必死に彼女の肩を揺するティアだが、彼女は身体に力が入っていないのかカクンカクンと首が揺れ……仕舞いには口から涎が垂れ始めておった。

 ぶっちゃけ、悪戯するなら今状態じゃな。ここに居るのがティアではなく、ドブじゃったら子供は見ちゃダメな展開になっておったじゃろうな……。

 そして、揺すっても返事が無い彼女に、どうしたんだと思いつつ……ティアはロンたちにも同じように声を掛け、肩を揺すったが反応が無かった。

 ……いや、口元に耳を近づけると、ぶつぶつと小さい声で何かを呟いているのが分かった。


「ししょう……、なぜこんなことを……こんなじゃどうを……いや、これがふつう? あたりまえのことだったのか……?」

「ちち……うえ、いきなりどうして……はかいじゃなく、せいさんをするなんて……どうしてだ……」

「おじー……ちゃ、ん。なん、で……あたらし、い……かぜ……? おじー、ちゃ……ん。にあ、って……な、い……」

「そ、そんな……おじさまが……、いろんなまほうを……わすれずにつかってるなんて……ゆめよ、ゆめにきまってるわ……」


 虚ろな瞳でそんなことを呟いている4人をティアは見ながら、いったいどうしたんだと困惑しておった。

 そんな中、突如彼女の身体が光だし……一瞬、彼女の身体を燃やしたのじゃった。


「う、うわっ!? な、なにが……? ア、アリス……?」


 驚いたティアは恐る恐る彼女に近づき、声を掛けた。

 その声に反応し、彼女は振り向いたが……まだ意識がはっきりしていないのかボーっとしながらティアを見ておった。

 しばらくボーっとティアを見ていると、見られていたティアは恥かしくなったのか頬を染めて目線を逸らしたのじゃった。

 そこでようやく彼女は意識がはっきりし始めたのか、瞳に光が宿り始めた。


「……ティア?」

「ア、アリス……良かった、急に崩れ落ちたから心配してたんだ。身体は何とも無いか?」

「身体……ですか? ……特には問題は無いようですが…………どうしたんですか?」

「あ、ああ……実は――」


 そう言うと、ティアは彼女に何が起きていたかを説明し始めた。

 それを聞いていた彼女は相槌を打つように頷き、なるほどと呟いておった。


「……ティア、実はつい先程……地上に上がったときに、誰かに見られているという感覚を感じたんです。そしたらその瞬間に、意識を失い……自分が持っていた常識がまったく違う世界に居て、それをアタシは不思議と思っていませんでした。……もしかして、あなたがフィーンに見られたときも、そんな感じだったのではないですか?」

「え? あ……いや、あのときは正直、いろいろ合って頭がこんがらがっていたし……胸にこれを埋め込まれた痛みもあって、かなり朦朧としていたんだ……、すまない」

「い、いえ、謝らないでください……。まあ、きっとこんな感じだったと思います。もしくはそれ以上だったのかも知れません。そうでなければ、ティアもアタシたちみたいになるはずなのですからっ」


 ……ドヤ顔で問い掛けたら、普通に謝られたので彼女は顔を赤くして一方的に締め括りおった。

 まあ、普通に格好良いこと言ったと思って見当ハズレだったり的外れな返答をされると……恥かしい物じゃよな。

 そして、ティアのほうはそんな彼女の言葉にどう返事をすれば良いのか見当が付かなかったらしく……はあ。と頷くだけじゃった。

 ある意味こういうのも追い討ちじゃと思うんじゃがな……。


「こ、こほん……では、どうにかしてこの4人にも掛かっている効果を打ち消さないといけませんね。ですが、この常識を狂わせる視線はこの世界樹周辺だと……場所が関係なく来るということみたいですから、普通に《浄化》などを使っての異常回復を行ったとしてもまた同じようになるかも知れませんね……」

「そうなのか? ……いや、今回はあたしも大丈夫だったが、次もう一度視線を受けて、大丈夫という保障は無い……ということか」

「はい。……いっそのこと、《土壁》を作ってその中に《浄化》で聖なる空間でも作りますか」


 呟きながら、彼女は獣人の国で行った方法を考えるが……効果が無かった場合は魔力の無駄遣いになってしまいかねない。

 だったら……どうするべきかと考えながら、彼女は色々と頭の中で考えたのじゃった。

 けれど、答えは出ずに……ぶつぶつと呟いているロンたちを彼女は見ておった。


「見る、見られる……だったら、見られないようにする……うーん、良い方法が無いですね……」

「……見られないようにする方法だったら、おまじないであったりはするが……今の場合は意味は無いだろう?」

「おまじない……ですか? いえ、無いよりはマシだと思いますから、教えてもらえませんか?」


 彼女がそうお願いすると、ティアはおまじないの内容を彼女に教えてくれたのじゃ。

 ちなみに内容は、子供らしいおまじないの一つで……丸を描いて、その中に大きな眼を描き、最後に丸にバツを引くと言うものじゃった。

 それを聞き終えて、彼女もまあ試すだけ試してみるか……といった表情で周囲を見渡したのじゃった。


「……そういえば、地面に棒で描くよりも蜘蛛の糸で一気にやったほうが楽だし、速い……ですよね。思ったら実行してみますか」


 呟きながら、彼女は明赤夢の<蜘蛛糸作成>を使って、おまじないの図を地面に描き始めたのじゃった。

 明赤夢に魔力を送ると、素早く……そして滑らかに、『聖』の属性を与えられた光り輝く蜘蛛の糸が振袖から放たれていき……彼女たちを囲むように地面に丸を描き、眼を描き、最後に×が地面に付けられた。

 直後――、眩い光がおまじないを描いた丸を囲むようにして立ち込めてきた。


「「……え?」」


 いきなりだった上に、子供だましだと思っていた物が何故に光り輝くと心から思いながら、彼女たちは唖然としていたが……ロンたちの身体がブルリと振るえ、その場で倒れてしまっていた。

 ……当てにしていなかったはずのおまじないが、どうやら力を持ってしまったようじゃな。

 そんなことを心の片隅で考えつつ、彼女たちは4人が目覚めるのを待っていたのじゃった。

 やばい、かなりぐだってるかも……。


 でも、当てにしていないというか、効果が無いだろうと思っていた物がある条件下で本当の力を発揮するとかって良いですよね。 

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