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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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ゆうしゃ=???

※アリス視点です。

 飛び起きるようにして、アタシはベッドから跳ね起きた。

 気持ちが良いくらいに寝ていたのだろうか、部屋の窓からカーテン越しに差し込む闇色の光は朝であることを告げていた。


「え……? あ、あれ……夢? でも、それにしたって、リアルすぎたし……」


 呟きながら、アタシはベッドから降りて、カーテンを開け放った。

 窓からは闇色の光が照らし出す崩壊した街並みが見え、モンスターの唸り声や人々の叫びが木霊したアタシは何時もどおりの一日が始まることを思っていた。

 ……あれ? これって、何時もどおりだっけ……?


「何か、変……?」


 何だろうか……こう、喉の奥に魚の骨が刺さっているような、犬がニャーと鳴くのを見ているような、こうじゃない感は……。

 そう考えようとし始めた辺りで、部屋の扉が叩かれ……中にお母さんが入ってきた。

 すると、頭の中がグニャリと歪み、アタシはアタシのなすべきことを思い出した。


「起きたのね、アリス。さ、今日も何時ものようにゆうしゃとして、人間どもを殺しに行って来なさい」

「うん、分かったよ。お母さん」


 アタシはゆうしゃだ。ゆうしゃは、モンスターの仲間であり、人々を殺す存在なんだ。

 だからお母さんの言葉に従って、アタシは服を着替えると何時ものように肉を断ち切るのに便利な大剣を握り締めた。

 始めのころは重くてあまり振り回すことが出来なかったけど、今ではもう簡単に振り回すことが出来る自慢の逸品だった。

 ……あれ? アタシの使ってる武器って、これだったっけ?


「何か、こう……もっと身体の一部になってるぐらいに使いやすかったような――ダメだ、思い出せない」


 思い出そうとするアタシの頭を黒い霧が立ち込めて、答えを見失わせていく。

 答えの出ないそんな状況にヤキモキしつつ、アタシはまだ生き残っている人間を探していた。

 けれど、ホンニャラッカの街は殆どの家が倒壊しており、生きている人間が居そうな気配が無かった。


「居ないなー。やっぱり少なくなってしまったからなー……、やっぱり別の街に行くほうが良いのかなー」


 呟きながら、周囲を見ていると……向こうのほうから悲鳴が聞こえてきた。

 その悲鳴を頼りに、アタシは駆け出した。すると、しばらくして……モンスターに襲われている人たちが居るのを見つけた。

 多分生き残っていた街の人が何処かの街に避難をしようとしているところを襲われたのだろう。

 オオカミタイプのモンスターが、必死に逃げるおじさんの脚に噛み付くと面白いぐらいに転倒してしまい、周りに助けを求める中で、ゴキリと首を噛み砕かれて苦悶の表情で絶命し……仲間と共に脂ぎった肉や、血に濡れて新鮮な臓物を美味しそうに食べていた。

 別の場所では、普通の物より巨大なスライムが逃げようとしていた子供を呑み込んで、顔だけを出し……それ以外の箇所は体内に入れており、シュワシュワと徐々に体液によって消化されていく悲鳴を聞きながら、楽しそうにプルプルと震えていた。

 巨大なトカゲが、赤ちゃんを抱いて逃げる母親を追いかけ、獰猛な口を広げた瞬間に……誰かが助けてくれることを信じて赤ちゃんを投げ捨て、クッチャクッチャペキペキと音を立て、口の端から血を滴らせながら食べられていた。

 泣き叫ぶ兄弟を鳥タイプのモンスターが足で掴み、空高く持ち上げ……5階の建物の高さほどまで飛ぶと、それを手放し……ベチャリと音を立てて、泣き叫ぶ兄弟は透明な涙の代わりに真っ赤な血を流していた。そんな柔らかくなった兄弟の肉を啄ばむために、鳥型モンスターは地上へと下りて行く。

 そんな見慣れた光景を見ながら、アタシは子供みたいに頬を膨らませた。


「あー、出遅れちゃったかー。アタシの分は残ってるかなー?」


 残念そうにアタシは呟きながら、モンスターが人々を蹂躙する真っ只中へと大剣を振り回しながら、悠々と進んでいった。

 すると、アタシに気づいた人間が助けを求めるどころか、恐怖に怯えて逃げ出したが……そういう人たちは別のモンスターに殺されていた。

 当然だ、人間の敵であるゆうしゃに助けを求めるわけが無い。


「どうして逃げるのかなー……。ちゃんとアタシに処理させてよねー……あ、まだ居たー」


 それはトカゲに母を喰われた赤ちゃんで、投げ付けられた痛みからか……それとも母親が死んだのに気づいているのか悲鳴染みた泣き声を上げていた。

 そんな赤ちゃんに向けて、アタシは大剣を構えた。こういう子を潰すとプチって良い感じに色付きの水風船みたいに赤くはじけるんだよねー。

 クスクスと笑いながら、アタシは泣き叫ぶ赤ちゃんに構えた大剣を振り下ろした。

 そこで漸く、アタシの存在に気づいた赤ちゃんは泣き叫ぶのを止めて、あーうーとアタシに向けて笑いかけて手を動かしていた。そんな赤ちゃんをアタシは笑いながら叩き潰――――違うッ!!


「違うッ!! こんなのは……こんなのは間違ってるッ!!」


 気が付くと、アタシは大剣を赤ちゃんではなく、アタシの行動を楽しそうに見ていた……仲間であるはずのモンスターを薙ぐような形で切り払っていた。

 突然のことで驚いたモンスターたちは、斬られた痛みに悲鳴を漏らしていた。

 その間に、アタシは大剣を暴れるモンスターたちのほうに力いっぱい投げ付け、アタシに手を差し伸べている赤ちゃんを抱き上げ……逃げ惑う人々とモンスターの間に立った。

 突然のことでモンスターも人々も戸惑っていたけれど、今なら分かる。

 この世界の掟である……『ゆうしゃは、モンスターの仲間であり、人々を殺す存在』……それは違う。間違ってる!


「ゆうしゃは……、ゆうしゃは人々を護り、世界を救う存在なんですっ!!」


 声高々にそう叫び、アタシは迫り来るモンスターたちに向けて、練り上げた魔力に『聖』と『火』の属性を与えて、一気に解き放った。

 瞬間、硝子が砕かれたように、暗黒の世界が割れ――、アタシの狂っていた頭の中に立ち篭っていた霧は霧散して行き……思考が正常に戻り、意識を浮上させて行きました。

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