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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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精神汚染

 ズズンッと突然周囲が揺れたのを感じ、失っていた意識を彼女は引き戻したんじゃ。

 正直、彼女はどれだけ眠って(気絶して)いたのかは分からぬ。十分? 一時間?

 頭が混乱しかけている中、目が覚めた彼女へとティアが駆け寄ってきおった。


「目が覚めたかアリス! 正直白目をむいてたから心配してたんだ」

「おはようございます、ティア……じゃなくて、いったいどうしたんですかっ!?」

「あ、あたしにも良く分からない。こちらも、しばらく彼らと話をしてから少し休憩を取っていたんだけど、突然地面が揺れたんだ」

「そうですか……、リアードは?」


 ティアの言葉に頷き、彼女は中央に居るリアードを見ると……、汗なのか蜜なのかを流したリアードが困った顔をしておった。

 一体どうしたのかと思いつつ、彼女に近づき……声をかけた。


「リアード、どうしましたか?」

「あ、アリス起きたんだー。どう、疲れは取れた?」

「いえ、起きたというか、気絶から目覚めたんですが……。まあ……、疲れは取れていますね」

「それは良かったー。で、今の揺れは何だっていうとね……ちょーっと今のあちきが変になり始めてるんだよねー……」

「え? えっと……それはどう言うことですか……?」

「んー、簡単に言うと、狂い掛けてるってことだねー。こう、自分自身の色んな物が覆されかけているみたいな感じでさー……。正直、いまもあちきの花にその狂気って言えばいいのか、狂い掛けそうになっているのが広がっているんだよねー」


 そう言いながらリアードは困った顔をしながら彼女たちを見た。

 けれど彼女は、リアードの言葉が上手く理解出来ていないのか首を捻っておった。しかし、ティアが真剣な顔つきでリアードへと近づいたんじゃ。


「あの、リアード様。もしかして、こう……いまの自分が普通だと言うのに、今の自分を否定されてしまうというか……いまの自分は狂っているんだと思ってしまうような感覚でしょうか?」

「あー、ティアの言ってる感じかもねー」

「ティア、リアードの感覚に心当たりがあるのですか?」


 真剣な表情をするティアに彼女が問い掛けると、真剣な表情でティアは彼女を見つめたのじゃった。


「アリス……、多分だが……これはフィーンたちがあいつにされていることの影響だ。あたしもフィーンに見られたとき、自分のすべてを否定されて、いまの自分は狂っていると思ってしまっていたんだ」

「……なるほど、つまりリアードに起きていて、ティアに起きたことがあのゲスが行おうとしている現象ですか……。そして、複数集まっているからか直接じゃなくても効果があるということでしょうね……」


 呟きながら、彼女は共振といった感じに増幅しているのだろうと考えつつ、リアードを見たのじゃ。


「リアード、正直なところ大丈夫ですか?」

「うーん、この花はもう無理だから……アリスたちを地上に出したら、枯れるよ。じゃないと襲い掛かりそうだしねー……」

「枯れるって……死なないのですか?」


 あっけらかんと言うリアードに心配そうに彼女は聞くが、問題は無いようであった。

 何故なら……。


「大丈夫大丈夫。この森の中にある植物は世界樹を除いて、すべてがあちきだから、たとえこの花が枯れてもしばらくしたら、別の植物が形を取ってあちきになるよ」

「そう……ですか」

「そうだよー。でも、新しいあちきになる前にこの国に平和を取り戻してくれると嬉しいかなー★」


 陽気にリアードは言うが、現在の肉体であるこの花の身体はもう危険なのか顔色が悪かった。

 そんな彼女を見て、彼女は静かに頷き……リアードの顔を見た。


「分かり……ました。アタシたちに任せてください……!」

「うん、任せたよー★ それじゃあ、地上に出すね。ちなみに今の場所は世界樹に近いから、気をつけてね」


 リアードはそう言うと、彼女たちの返答を聞かずに一気に花を浮上させたのじゃった。

 周囲が塞がれるような息苦しい感覚が薄まると同時に、花弁が開かれ……彼女たちは地上に出てきた。

 地上に出てから気が付いたが、リアードの身体が花弁の先から黒ずみ始めており……瘴気に汚染され始めているのが分かるようじゃった。

 けれど、リアードは彼らに軽く手を振ると同時に……目を閉じた。

 瞬間、一気に生気を失ったかのように、リアードの身体が枯れ始め……一瞬でリアードを含めた花が枯れてしまったんじゃ。

 それを見届けて、彼女は振り返り……世界樹のほうを見たんじゃが、世界樹は瘴気を吸い込んでいるのか普通の樹ような茶色をしておらず……真っ黒に染まっておった。

 樹の幹も黒色、風に揺れる枝葉も黒色に染まっており……見るからに通常の状態ではなかった。


「これは……酷いですね」

「ああ、正直……見てて辛すぎる」

「……酷すぎるな」

「なん、だか……や、だ……」

「くそっ、あいつ……こんなことをしていったい何する気だよ!」

「決まってる。あのゲスのことだから、どうせ碌なことを考えていないよ」


 口々にそう言いながら、あのゲスが何処に居るかを周囲に耳を済ませると……彼女の耳には色んな悲鳴が聞こえてきたのじゃった。

 初めは驚き、戸惑ったが……どうやらこの悲鳴は……、世界樹、森の木々、そして……妖精の目である、ゲスに利用されてしまっている妖精たちの声だということに気が付いた。

 それと同時に、気が付いた瞬間――、誰かに見られていると感じた気がした。


 直後、彼女は激しい眩暈を感じ…………、意識を失ったのだった。

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