御同類
その場に残されたアンたちであったが、すぐに旅のエルフと名乗った人物に対してまさかと言う思いが芽生えていたが、聞くべきだと思い至ったのか、花に飛び乗った彼女とティアを呼び止めようと声を掛けているのをリアードは見ており、彼女たちを見て問い掛けた。
「んー、行っちゃっても良いのー?」
「……本当に良いんですか、ティア? 今ならまだ……」
「別に良いんだ。それに一刻も早くフィーンを助け出さないといけないし……」
「それなら良いんだけどねー。じゃ、世界樹近くまで移動するよー★」
首を振ったティアを見ながら……そう言うと、リアードは花弁を閉じて再び花を地中に沈めていったのじゃった。
そこで漸く一息吐けたのか、ティアはハーッと溜息を吐きおった。
ちなみにロンたち4人は蚊帳の外だったからか、離れた位置に立って見ていたのじゃが……どういうわけか、ティアをマジマジと見つめておったのじゃ。
それに気づいた彼女はどうしたのだろうかと思いながら、4人を見ていると……ティアを見て、仲間たちを見てを繰り返し……最終的に意を決したようにロンがティアに近づいた。
「あの、失礼だが……貴女は魔族なのか?」
いきなり何を言い出しますか、この人はっ!? そんなド直球過ぎる質問を投げ付けたロンに対する彼女の感想はそれであった。
そして、一方……ティアはティアで、初めに苦虫を噛み潰したような……梅干を口に含んだような顔をして、次にロンに対する質問にどう答えるべきかと悩み始め……、最終的に答えを出したのか悲しそうな顔でロンたちを見たのじゃった。
「違う、あたしは……エルフだった。だけど、魔族でもない……なりかけたけどな」
「なりかけた……だと? それはどういう意味だ……? 詳しく聞かせてく――」
「あたしはその話題に触れられたくないと言うのを分かっているのか……? あたしは気が立っ――」
「はいはい、ストップ。ストップです。ティアもロンも少し落ち着いてください」
ロンはどうやらKYという種類らしいのう。ん、KYとは何じゃと? ふむ、本当は『空気を読まない』と言えば良いのじゃろうが、あえてここでわしは言おう! KYとは、『可愛い野郎』という意味じゃ!
って、冗談じゃ、冗談! 尻尾を引っ張るのはやめるのじゃ!?
まあ、とりあえず……詰め寄ったロンに対して、機嫌が悪くなっていったティアが殴りかかろうとする寸前に彼女が間に入り、両社を押さえ込んだんじゃよ。
「す、すまないアリス……ついカッとなってしまって……」
「謝らないでください、ティア。ロンたちも失礼にもほどがありますよ。正直な話、あなたがたは同類なんですから」
「すまなかった。魔族に近い気配を出しているが、少し違うように感じられてしまって……。本当にすまなかった。……失礼、名前は?」
「い、いや、別に気にしては……っと、失礼した。あたしの名前はティアだが……別の名前を名乗ることを考えたほうが良いかも知れないな。それとアリス、同類ってどういうことだ?」
「ロンだ。改めてよろしく頼む、ティア。……自分もそれが気になったが、どういう意味だ?」
会社員同士の挨拶っぽい感じに頭を下げあうのを見ていた彼女じゃったが、彼らの視線が一斉に彼女に向けられたので、とりあえず、彼女は簡単に同類である理由を告げることにした。
「彼女も彼らもあのゲス野郎の被害者です」
『ああ、なるほど……』
彼女の一言にティアとロン、タイガ、トール、フェニは一斉に頷き……少し困ったように、ロンがティアに話しかけてきたのじゃった。
「それでだいぶ理解出来たが……、どうなってしまっているかは聞かないほうが良いだろうな……?」
「ああ……というよりも、あたし自身はどうなっていたのか、断片的でよく覚えていないんだ。アリスは知らないか?」
「アタシですか? 知ってることは少ないですが……一応、ロンたち4人にも関係がある話でしょうから、聞いてください」
そう言うと彼女はティアに起きていたことを4人に説明することにしたのじゃが……、その前にロン以外の4人と自己紹介をし終えたティアが、リアードがこの森になくてはならない存在の一つであることを知った途端、敬服し跪いて頭を下げておった。
ちなみにリアードのほうは、別段特別なことをしているつもりは無いからか、別に敬わなくても良いんだけどなー。と言っておったが……ショーケースに飾られるよりも、庭先にわんさか咲き誇っているのがリアードっぽいと思うんじゃよな。
そんな一幕を終えてから、ティアを含めたロンたち4人に彼女はティアがどうなっているかを説明し始めた。
といっても、説明の内容はティアの胸に埋め込まれている珠が瘴気を吸わせることによって、その種族を魔族へと変貌させていくという呪われた道具であることを語るだけじゃった。
それを聞いていた4人は、徐々に険しい顔つきに変わって行き……、同時にティアに申し訳ないと言う謝罪の念を感じさせておった。
一方で、ティアにもこの4人は魔族であると言うことを告げると、怒りが込められた瞳で睨みつけておったが……ゲスの策略で裏切り者扱いされたと聞くと、哀れみの視線で彼らを見ておった。
「謝って済む問題ではないが……、魔族として貴女には申し訳ないことをした。済まない……」
「いや、謝らなくても構わない……。それに、キミたちのほうこそ、大変な目に合っているじゃないか……」
「ごめ……んね。それ、と……ありが、とう……」
「これもすべてあいつが原因なんだよな……」
「ああもう! 叩くだけじゃなくて、半殺しにしないと気がすまない!!」
そんな風に様々な反応を見せる被害者の会を見ていると、リアードが彼女に近づいて来たのじゃ。
どうしたのかと首を傾げるていると、彼女へと一つの果実を差し出してきおった。
「えっと、これは……?」
「アリスー、ちょっと無茶したでしょー? 魔力がだいぶ減ってるわよー。でもって、これはそのための魔力回復効果がある果物なわけ」
「要するに、これを食べて少しでも魔力を回復させるように……ですか?」
「そーいうこと。ほら、食べた食べたー」
「じゃあ、いただきます……」
ティアたちが友情を育み合っている中、彼女は魔力を回復するべく差し出された果実を口にするのじゃった。
そして、それからしばらくは世界樹に到着するまで彼女はジッとして休んでおった。
……ちなみに、果実の味は…………、初めは甘い味なのじゃが……ある程度口の中に入れた瞬間、気絶するほどの激しい苦味となるのじゃ。
「うん、良く眠ってるねー♪」
そうリアードは言うが、ぶっちゃけると彼女は気絶しておるな。
まあ、気絶から目覚めると魔力が回復しておることを祈ろうではないか……。
……というわけで、彼女が目覚めるまで時間を飛ばすぞ。
ながいやすみが、おわってしまった。