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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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さよなら

「吹き抜けろ! 《浄化の光風》!!」


 中央に立つ彼女が大扇を広げ、グルリと回るようにしながら下から上に風を送るようにして『聖』と『風』の二属性魔法を放った。

 直後、光を纏う風が彼女を起点に巻き上がっていき、溜まり込んだ瘴気を徐々に消し飛ばしていった。

 瘴気が浄化されるに連れて、それを糧にしていた瘴気スライムと化したオークやゴブリンの成れの果ても、黒い煙をモクモクと上げながら、苦しそうに蠢いておった。


「はあああぁぁぁっ! せいっ!!」


 そこを狙って、ティアが両手に持った2本の細剣で素早い突きを放ち、細かくすることで効果が続いている彼女の《浄化の光風》によって、消え去っていったのじゃった。

 それを複数回続け、入口を祓い終えると彼女たちはそのまま外へと跳び出していった。


『BUUUUUUウウウゥゥゥゥuuuu!?』

『Gいぃぃぃぃぃぃいいいいいいイイイイイイイイ?!』


 入口を囲むようにして配置されていたオークやゴブリンだったがその身体は瘴気で融け始めており、まともな思考が出来なくなってきていたじゃろうな。そんな中で、突然街の中から現れた彼女たちに驚き、対処出来なかったみたいじゃ。

 その隙を見逃さず、ティアが動いた。

 二本の細剣が驚き顔のオークやゴブリンの頭に突き刺さり、悲鳴が上がり……ワラワラと周囲に居た他のオークたちも近づいてくるのが見えた。


「アリス、一気に足を斬ってみるから、あとは頼む!」

「わかりました、ティア。お願いします!」

「ああ、任せてくれ!」


 自信満々に言うティアの言葉を信じ、彼女は魔力を練り上げることに集中し始めた。

 そんな彼女を助けるようにして、ティアは握り締めた2本の細剣を変化させ……両手持ちの細長く鋭い漆黒の刃を作り出すと、それを前方に向けて一気に薙ぎ払ったのじゃった。

 漆黒の刃は密集しながら近づくゴブリンやオークの成れの果ての胴体をスッと斬り、それに気づいているのか気づいていないのか……オークやゴブリンたちはズズズッと上半身と下半身をずらしながら2人のほうへと近づいてきおったのじゃ。

 その光景にウンザリしていると、漸くずれ始めていた上半身は下半身から崩れ落ち……様々な呻き声が聞こえる中、踏み潰されて行くのが見えたのじゃった。


「うわ……痛くないのか? ……いや、もう既に痛みも感じていないということか?」


 ティアはそう呟くと、漆黒の刃を自らの手に戻し……近づいてくる下半身のみを、細剣で貫いていった。

 一体、二体と刺していくのだが、下半身はドロドロ融けつつゆっくりとティアたちのほうへと近づいて来ていた。それどころか、潰されていた上半身も完全にオークなどの形を取らずに、黒いスライムとなって近づいて来ておった。

 歩むのを止めないスライムたちにどう対処するべきかと思った瞬間、ティアの背後から彼女の声が響いた。


「お待たせしましたティア! でかいのを行きますので、アタシから離れないでくださいっ!!」

「わ、分かったアリス!」


 彼女がティアにそう言うと、頷いたティアは彼女の腕に抱きついたのじゃった。

 直後、彼女は練り上げた魔力に『聖』と『水』の属性を与えて、一気に解き放ったんじゃ。

 すると、彼女の周りから全周に向けて輝く水が湧き上がり……、津波のように周囲を洗い流しおった。


『GAAAAAAAAAaaaaaaaaaa』

『ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁ』

『ブウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ』


 様々な悲鳴が周囲から鳴り響く中、聖水によって瘴気は浄化されているのか周りから黒い煙が上がっておった。

 津波が数度ほど続き、瘴気に汚染されたオークやゴブリンなどのモンスターを洗い流し終えた頃には、周囲には瘴気は感じられなくなっていた。

 これで完全にカーシの危機は取り払われたと見れば良いのう。


「お疲れ様、アリス」

「ティアこそ、お疲れ様です。あとは……リアードに頼んで、アンたちを呼び寄せれば良いわけですが……大丈夫ですか?」

「あ、ああ……。だけどあたしじゃないと言うことにしてくれ」


 困り顔でティアは彼女に頷き、彼女も渋々ながら了承してから、地面に通話樹の種を植えて<成長促進>を使って成長させ……それを使ってリアードの花を呼び寄せたのじゃった。


 ●


 地中から巨大な花がカーシの街の前に生えてくるのを見て、ティアは驚きを隠せなかったのか口をあんぐりとさせていた。

 けれど、すぐにハッとして姿を隠すために布を身体に纏い……それと同時に花弁が開かれ、アンたちが姿を現したのじゃった。

 というよりも、アンのほうは急いでいたのか飛び出すように開いた花弁から出て、彼女の肩を揺すり始めたのじゃった。


「アリス様! カーシは、姫様は無事でしたかっ!?」

「お、落ち着いてくださいアン様っ。それについて色々と話があるので……」

「は、はい……分かりました」


 正気に戻ったアンが彼女に謝りつつ離れたのを確認し、彼女はカーシの状況を語り出した。

 大半のエルフが死に、長であるカーシも死んだと言うこと。

 それを聞くに連れて、3人は涙を浮かべて死んでしまった街長の冥福を祈ると同時に何故この場に居なかったのだと自分を責めておった。

 けれど、最後の希望に縋るかのように、アンたちは彼女を見ていた。


「アリス様……、姫様は……姫様はどうなったのですか?」

「ティアは…………、その……えっと……」


 正直、彼女はここまで悲しみに満ちた状態の3人に対して、ティアに頼まれた……彼女は死にました。なんて言えそうに無かったんじゃ。

 そんな感じに言葉を詰まらせた彼女じゃが、アンたちの瞳はたとえ死んだとしても……その最後を聞きたいと願っていた。

 じゃから、言葉を詰まらせておった……。だが、それでいけないと感じつつ、言い訳を口にしようと思ったが、どうしても彼女の口からは出なかった。

 じゃが……。


「あなたがたの言ってる姫様は死んだよ」


 彼女の後ろに控えていたティアが、くぐもった声で彼女たちへとそう言ったんじゃ。

 ちなみに布越しに出した声ではなく……多分、ああなって身に着いた力のひとつなのかも知れぬな……。

 そう思いながら彼女が姿を隠したティアの声を聞いたアンたちを見たのじゃが……、よろめいておった。


「そ、そんな……姫様…………」

「う……嘘です! わたしは信じられません!!」

「そうです! それに、あなたは何処のエルフですか!?」

「あた――自分は、旅をしているエルフだ。この街には偶然、訪れ……そのときに、この騒ぎに巻き込まれたんだ」


 多分、即興の作り話を口にしながら、ティアはアンたちに言う。

 巻き込まれて驚いて様子を窺っているときに彼女に出会い、2人でこの騒ぎを沈静化させたのだと。

 そして、ティアは自分自身の死を口にし始めた。


「姫は、自分たちが上に向かったときには人の形をしていなかった。

 そして、辛うじて残っていた意識で自分たちに言った。『この街を護ってくれ』と……。だから彼女の遺言通り、自分たちはこの街を救った」

「そう……ですか……」


 しゃがみ、下を向く3人の中でアンが、呆然とティアの言葉に返事を返すが……無気力となっているようじゃった。

 そんな彼女に、どう言えば良いのか判らないが……中層にまだ生き残りが居ることを口にした。

 すると、生きる気力を失った風にアンは呟きおった。


「わたしたちは……行きたくありません。行きたいなら、アリス様たちで行ってください……」

「アン様……」

「いえ、出来ることなら……わたしたちも姫様の後を追いたいです……」

「はい……、カーシ様も居なくなり……姫様も居なくなったなら、わたしたちの生きる意味は……」

「無いも同然です……」


 アンに続き、トウ、ロワもそう言って、気力を感じさせるような状況に見えはしなかった。

 そんな彼女たちを見ていられなかったのだろう。気がつくと、彼女……ではなく、ティアが3人の前に見下ろすように立っておったのじゃ。


「お前たち……、姫が死んだから嘆くのではなく、姫が好きだった街を護るという気概は無いのかっ!?」

「「「――――ッ!?」」」

「確かに姫は死んでしまっただろう。けれど、お前たちは生きている。そして、カーシの街も被害は受けたが無事だ! だったら、お前たちは自分が出来ることを全うしろ! 分かったかっ!!」

「はっ、はいっ!! あ、あの……ま……まさか……」


 間近でそう言ったのじゃから、気づかれないほうが可笑しいじゃろうな。

 アンたちが気づきかける中……ティアは急いで彼女のほうに近づいた。


「アリス、早くフィーンを行こう」

「……分かりました。アン様たちは、カーシの街をお願いします!」

「は、はい……! お任せください!!」


 そう言ったアンたち3人をその場に置き、彼女とティアはリアードの花へと飛び乗るのじゃった。

ある意味、ティアは死んで、ティアは生きたと言える状態です。

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