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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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ティアの見た目

 黒く染まったティアとの攻防の末、彼女は傷を負い膝を突き、助けることを諦めそうになって居った。

 じゃが、どういうわけか気力を取り戻し、彼女は諦めないと叫び、黒く染まったティアへと変化させたワンダーランドで攻撃をしておったな。

 表現が少ないけれど、激しい攻防じゃったな。ふむ、てにあせにぎるどとーのたたかいだったとな。そうじゃな。

 そして、最後に果物ナイフほどの大きさのナイフに変化させたワンダーランドをティアの胸に埋め込まれた珠に突き立てた瞬間、光が起きてわしらにも見えなくなったのう。

 ……っと、そろそろ光が収まりおったな。彼女とティアはどうなっておるかのう。


「ティア、ティア……しっかりしてください」

「う…………、アリ……ス……? なんで、ここに……?」

「……よかった。正気に戻ったんですね」


 死んだように眠るティアを彼女が揺するとティアは呻き声を上げ……ゆっくりと瞳を開きおった。

 その瞳はぼんやりとしながらも彼女を捕え、同時に何故ここに居るのかと疑問の声を口にしたのじゃ。

 その様子を見た彼女はホッと息を吐き……悲しそうな顔をしたんじゃよ。

 一方、ティアはティアでどうして彼女が悲しそうな顔をしているのかが分からなかったらしく、首を傾げおった。


「どう……したんだ、アリス? あたしの顔に、何かついてるのか……?」

「いえ、付いていません。付いていませんよ……ですが……」

「どうしたんだ? ……ん? 手鏡? これもキミの武器が変化し――え?」


 鏡のように相手を映すように変化させたワンダーランドをティアに向け、彼女は気まずそうに向こうを向いたのじゃ。

 そして、自身の姿を見て……ティアは固まったのじゃった。

 それもそうじゃろうな。ティアが現在の自分の姿を見たのじゃから……。

 輝くような銀色の髪はくすみ、鈍い銀色になった上に黒色が混ざった斑模様となっており。

 水の色のように綺麗な蒼色の翠眼は、片目だけは翠眼のままだが……もう片方は黒色に染まっており。

 胸元には黒と白が混ざり合ったような珠が埋め込まれており……。

 そして白磁のようであった白い肌は……まるで全身日焼けでもしたかのように、黒ではないが濃い褐色となっていたのじゃった。

 まあ、彼の世界にあった創作物風に言うならば……、普通のエルフがダークエルフになったと言うような物じゃな。


「な、なな……なんっ!? ――――あ」


 驚きのあまりティアは叫びそうになったみたいじゃが、すぐに何かに思い至ったらしく……顔色をサーッと青くしたのじゃった。

 そして、ギギギッと錆び付いたカラクリのように彼女を……正確に言うと彼女の肩に視線を移したのじゃ。

 彼女の肩には傷は治ってはいるが……血がこびり付いており、傷付いた痕であることが分かるものであった。


「ティア?」

「夢じゃ……無かったのか…………?」

「……はい。夢では、ありません……」


 ティアの表情を見て、ちゃんと言わないといけないと感じた彼女は真剣にティアを見て、そう言って頷いた。

 その言葉に驚きの表情を浮かべ、徐々に瞳に涙が浮かび始め……、一瞬で土下座の動作に移ったのじゃ。

 ジャパニーズスタイルDOGEZAであるのじゃが、後で聞いた話じゃと……だいぶ昔に誰かが行ったことが始まりだという話じゃったが……まあ、今は関係ないのう。

 とりあえず、驚いた表情で彼女は頭を下げるティアを見ておったんじゃが……、顔を上げるように言おうと手を近づけた瞬間。


「す、すまない! すまないアリス!! あたしが、あたしが弱いばかりに……キミの綺麗な肌をっ! それに、父さんたちも……フィーンもあたしが弱かったからこうなって、あたしがもっともっと強ければ――え? アリ、ス……?」


 自らを責めるティアの身体を彼女は包み込むように優しく抱き締め、ゆっくり……優しく言った。


「違いますティア。そんなに自分を責めようとはしないでください。こうなったのはあなたのせいではありません……それに、カーシや街の皆さんは手遅れでしたが、フィーンはまだ大丈夫じゃないですか」

「フィーンは大丈夫……けど、けどアリス……あたしは……」

「大丈夫です、ティア……あなたは生きてるんですよ。生きてさえ居れば挽回することだって出来ます。だから、今は自分自身の弱さに嘆くよりも、アタシと共にフィーンを助けに行きましょう。ね?」

「アリ……ス……。こんなあたしが……生きてても、いい……のか?」

「はい、アタシは……ティアに生きてて欲しいと願っています。きっと、フィーンだってアルトだって、アンたちだってそう思っているに違いありません」


 彼女が微笑むと、ティアは呆然と彼女を見ていたが……抱き返してきた。

 いきなりで少し驚いたが、篭るような泣き声が聞こえたので、彼女はティアの頭を優しく……母親のように撫でおった。

 彼女に頭を撫でられ、ビクッとティアは震えたが……堤防が決壊するかのように、大声で泣き出し始めたのじゃった。


「ティア……、今だけは思う存分泣いてください」

「アリスッ! アリスゥ~~~~ッッ!!」


 泣きじゃくるティアの頭を彼女は静かに撫で続けたのじゃった。

 それからしばらくして、泣き終えたらしいティアは顔を赤らめながら、彼女を見ておった。


「ア、アリス……すまなかった。恥かしいところを見せてしまって…………」

「いえ、アタシとしては、ティアの新しい姿を見ることが出来て嬉しかったですよ」

「うぅ…………。そ、それよりもアリス……、何故キミがここに居るんだ? ヒノッキはどうなっていたんだ?」

「こちらも、色々とあったのですが……その前に、カーシの危機を排除してから詳しいことは話します」

「カーシの……危機? そっ、そうだっ! あの御伽噺で聞いたような悪魔みたいなヤツ……あいつが何かをしていったというのか!?」


 彼女の言葉にティアはカーシを襲った人物のことを思い出し、慌てたように彼女に訊ねてきた。

 ティアの言葉に彼女は首を振って返事をして、彼女が現れた場所へと進んでいきおった。

 どうやら中は作戦室といった感じなのか、集会場と言ったら良いのかというような部屋で、様々な服が散乱していたのじゃ。

 多分、中身は……ドロドロに融けて、運よくなのかは分からぬが……瘴気スライムになったところに彼女の『聖』の光が襲い掛かり、消滅してしまったのじゃろう。

 部屋の中を見て、ティアは悲しそうな顔をしているのに気づき、彼女は心配そうに問い掛けた。


「ティア……、大丈夫ですか?」

「あ、ああ……大丈夫だ。けれど、あの悪魔が言ってた当たりと呼ばれるのは……あたしだけだったみたいだな……」


 悲しそうにするティアが融けていったエルフたちの冥福を祈るために祈りを捧げる中、彼女も静かに冥福を祈りつつ……地面に落ちている黒瘴珠を見て、壊れているのを確認しつつ……踏み潰していった。

 そして、隣の部屋に入ると……放送室みたいな姿と言えば良いのか、ラジオ局のブースと言えば良いのか悩む部屋へと辿り着き……そこにみすぼらしい石が一個浮いておったのじゃ。

 どう考えても、これがヒノッキを燃やし尽くし……今まさにカーシも同じようにしようとしている厄災の種じゃろうな。

 その石をジッと見つめ、彼女は目の前の石の詳細を見るのじゃった。

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