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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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ティア・現実

※アリス視点です。

「あー、アリス。やっぱり来てくれたんだねー、あはははは」


 焦点が合っていない瞳でティアはアタシを見てきました。

 それを見て、アタシはどんな顔をしているのかは分かりません。ですが、きっとアタシは泣きそうになってるのかも知れない……。

 だって、胸には黒瘴珠が埋め込まれており……綺麗だった銀髪も、白かった肌も……黒色に染まっていたのだから……。

 瘴気の塊である黒いスライムのようであって、まったくそうでない……そう、まるで水風船のように瘴気が身体の中に溜まって破裂しないようになっているみたいでした。

 そんなアタシの顔を見て、ティアは不思議そうに首を傾げます。そんな彼女に届くかは分からないけれど……アタシは叫びました。


「ティア! お願いです! 正気に……正気に戻ってください!!」

「正気ってなんだいアリスー? あたしは何時でも正気だよ? ほら、今だって、あたしは正気だから、キミを殺すことにも何の躊躇いも持たないよー? あははははは」

「そんなのは……、そんなのは正気なんて言いません!!」

「どうしてそんな風に言うんだい? あー、そうか……あたしが弱いからかー。だったら、あたしが強いって証明してあげるよー。そうすれば、あたしが正気だってわかるだろー?」


 アタシの声をまったく聞こうとしないティアは、狂ったようにそう言うと……纏わり付いている瘴気を細く伸ばし、まるで細剣のような形にして、アタシへと襲い掛かってきました。

 やるしか、ないのですか……? いえ、今は悩んでいるときではありません!!


「ワンダーランド!!」

「ぷう!」


 アタシが叫ぶと、白兎に変化して肩に乗っていたワンダーランドは跳び、目の前で大扇へと姿を変えました。

 それを掴み、アタシは迫り来るティアの突きを防ぎました。

 いつもならそこで反撃を行うというのが当たり前ですが、目の前に居るのは変わり果てた姿だとしても……ティアです。

 その思いが反撃を躊躇させ、迫り来る突きを防ぐことしか出来なかった。


「ほらほらほら! どうしたんだい、アリス? 反撃をして来ないのかい?! キミの力はこれだけの物なのかい? 違うだろう?! キミはオークやゴブリンを一撃で屠っていたじゃないか! その力をあたしにも見せてくれよ!!」

「くっ!? そんなこと……出来るわけないじゃないですか!!」


 素早い突きを往なしながら、アタシは叫び――ティアと距離を取るために大扇を振るい、突風でティアを吹き飛ばしました。

 予想通りティアは吹き飛ばされ、アタシと距離を取ることになりました。とりあえず、どうするべきかを頭で考え始めたアタシだったけれど……その油断がダメだったのでしょう。


「えっ……? ――ッッ!?」

「ダメじゃないか、アリスー。戦いの最中に考えごとだなんてー……、もっと命がけで戦ってよー」


 伸びないと思っていた油断から、突然伸びた細剣に対処することが出来ず……肩口に細剣が突き刺さり、痛みと共に引き抜かれ……肩口から血が零れ、明赤夢が赤く染まりました。

 鋭い細剣の形をしていたと思っていたですが、どうやらあれはティアの意思一つで形を変えることが出来るらしく……多分ですが、ギザギザの刃になっていたのかも知れません。回復しようにも少し時間が掛かるのを見ての感想ですが……。

 そんな膝を突くアタシへと、ティアはけらけら笑いながら近づいてきます。


「あははっ、アリスー。どうしてそんなに弱いんだい? それとも、あたしが強くなったのかなー?」

「くっ……ティ、ア…………もう、無理なのですか……?」


 もう、倒すしか……無いのですか…………?

 諦めたくないと思いつつも、もう無理なのかもしれないと絶望しそうになりながらアタシは、ティアを見つめました。

 けれど、アタシはそこで見たのです。ティアの瞳の奥に微かに……本当に微かながらの光が……。


「……そうだ。アタシが諦めたら、ダメですよね……エルフの友達を……ティアを助けるのを諦めたら、ダメです。それに……アルトにも助けるって言ってたんですから……!」

「あはっ、アリスー。やっぱり立ち上がってきたねー。さー、やろう。今すぐやろうよ、あたしが強いってことを証明してあげるからさー」

「いいえ、ティア……今のあなたの強さは、強さなんかじゃ……ありません。アタシがそれを――証明してみせます!!」

「そうかー、だったら……やってみせてよ!」


 諦めかけた心に再び火が点り、アタシはゼロ距離から突き刺そうとするティアの細剣を薙ぎ払い、片手に持ったワンダーランドを両手で持ち……2つに分離させるようにしました。

 すると、ワンダーランドもアタシの意思に理解したらしく、大扇は2つに分かれて縮み……少し丈の長い二本の扇子に姿を変えました。

 薙ぎ払われた細剣は即座に構え直され、再びアタシへと向かってきました。ですが、大扇よりも短くなり二つの扇子に形を取ったワンダーランドを素早く振るい、片方の扇子で細剣をもう一度弾き返すと同時に返す刀で……もう片方の扇子に練り上げた魔力を送り込むと共に『聖』の属性を与え、ティアへと複数の光球を撃ち付けました。

 光球はティアの身体に命中し、浄化の力によって肌の色が白へと戻りました。けれどそれは一瞬だけで、すぐにティアの身体は黒色へと染まって行きました。

 ただ単に『聖』の属性を与えて浄化するだけではダメですか……、では『火』の属性を混ぜて……いえ、それだと下手をすればティアを消してしまうことにもなりますよね……。


「だから、余所見なんてしないで、あたしとちゃんと戦おうよアリスー!」


 拗ねるようにそう言いながら、ティアはアタシに対抗しているつもりなのか……細剣を両手に出し、右左と連続した突きを放ってくる。

 素早い攻撃……ですが、これには魂が、心が宿っていない。悲しい攻撃でした。

 そんなティアを見つめながら、アタシはティアに問い掛けました。


「ティア……、あなたが力が欲しいのはどうしてですか?」

「え? そんなの決まってるじゃないか、フィーンを護りたいから力が欲しいんだ。……アレ? フィーンッテ、ダレダッケ……、フィーンはあたしノシンユう――ガアアァァァァァッ!!」


 まるで、胸の黒瘴珠がそんな感情は不要と言わんばかりに黒く濁り出すと同時にティアは狂ったように雄叫びを上げ、細剣だった物を剣とも似つかないような物に変え、アタシに襲い掛かってきました。

 その攻撃を扇子で防ぎながら、アタシはティアの顔を見ると……理性という物が抜け落ち、鬼のような形相でした。

 けれど、その瞳からは…………涙が零れていました。

 そして……耳を澄ますと雄叫びの中に、呻き声にも似たティアの声が聞こえてきました。


『マモル、アタシガ……アタシガフィーンヲマモルンダ……。ダカラ、ダカラチカラガホシイ……フィーンヲマモルタメニ……』

「ティア……、あなたがフィーンを護れなかったという辛さは、アタシには分かりません。ですが、フィーンを護るというのなら、キチンと護ったら良いじゃないですか!!」


 だから、だからアタシは諦めたくない! 絶対に、ティアを魔族になんてさせるものですか!!

 ――え? ワンダーランド……? 出来るの、ですか……? …………分かりました。だったら、あなたを信じます。ですから、ティアをお願いします!

 心に語りかけてきたワンダーランドに全てを托し、アタシはワンダーランドを構えた。すると、ワンダーランドは形を変えて、短剣へと姿を変えました。

 そんなアタシを見ずに、ティアは瘴気の塊を振り下ろし……その攻撃を回避し、ティアの懐に入り込むとアタシは持っていたワンダーランドを黒瘴珠へと突き立てました。

 黒瘴珠を傷つけられ、ティアの口から悲鳴が洩れ……一瞬だけ不安になり、短剣を握り締める力が緩みかけるが……すぐに力を入れました。


「アタシが諦めたら終わりだったら、諦めるわけないじゃないですか! だから……ごめんなさい、ティア!!」


 ワンダーランドが言った副作用で責められるかも知れない未来を感じつつも、アタシは諦めずに握り締めた短剣に最大級の『聖』の属性を与え、ティアへと流し込みました。

 直後――アタシの視界が光に包まれ、周囲を完全に包んでいきました。

 そして、光が収まり……アタシはティアの姿を見ました。

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