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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
189/496

ティア・前編

※ティア視点です。

「あー、アリス。やっぱり来てくれたんだねー、あはははは」


 ドロドロとしたものが思考を覆いつくしている中、あたしはアリスを見ながら笑った。

 ああ、気持ちいい。このドロドロとしたものはなんて気持ちが良いんだ。

 ……でも、どうしてそんな泣きそうな顔をしてるんだいアリス?


「――――――――――――――!!」


 ごめん、何言ってるか分からないや。

 けど遊びに来てくれたんだろう? あれ? 助けに来たんだっけ? でも、誰を助けに来たんだっけ?

 まあ、良いや……、こんなに気持ちがいいドロドロとした感覚、味あわないほうが可笑しいよね。

 アリスが続けて何かを叫んでいるけど……、この気持ちいいのを感じる邪魔をしないで欲しいなー。

 あれ? でも……何でこうなったんだっけ? この気持ちのいいドロドロ、何時からあったんだっけ?

 そう思い始めて、これまでのことを思い出すあたしが居る中……アリスを見るあたしは、笑いながら身体から零れる気持ちがいいドロドロを細剣にして襲い掛かっていった。

 黒の細剣と朱色に光り輝く大扇がぶつかり合う中で、あたしがあたしと認識している魂は記憶の中へと潜って行った。


 ○


 アリスがアンたちと共にヒノッキの街に向けて旅立ち、見えなくなるまで手を振っていたあたしとフィーンだったが……そろそろ中に入ろうと考え、他の者たちよりも遅かったがカーシの街の中へと入っていった。

 アリスが帰ってくるまで、どうしてようかと考えつつ、歩きながら隣を浮遊するフィーンに相談しようとした……だが、フィーンの顔色があまり良くなかったのだ。


「どうかしたのか、フィーン?」

「うんー……なんかね、へんなかんじがするのー……こう、モヤモヤっていうか、ガクガクっていうかんじのー」

「よく分からないが……多分、キミは不安なんだと思うよ。ここ最近ずっとアリスと一緒に居たのだからね」

「そうかなー? そうなのかなー?」

「うん、きっとそうだよ。……よしっ、そんな不安なときは何か甘い果物を食べて、幸せになろうじゃないか! さっ、果物買ってアルトの所に持っていって一緒に食べよう!」

「うんー…………」


 あたしが元気良く言ったのに対して、フィーンはやはり不安そうな顔をしていた。

 ……うーん、もしかすると妖精としての勘的なものが働いてるというのだろうか? アリスたちが無事だと良いのだけれど……フィーンの顔を見ているとそんな風に思い始め、あたしは不安な気分になってきた。

 ――いけないいけない! あたしも不安になるなんてどうかしてる! さ、今は果物だ果物! 甘い物を食べたら嫌な気分もすぐに吹き飛ぶはずだ!!

 そう思いながら、あたしが一歩踏み出した直後……激しい音と共に入口から悲鳴が聞こえた。


「な、なんだっ!?」

「ティ、ティアー、あれっ! なんかへんなのがなかにはいってきてるよー!」


 驚きながら、中央の吹き抜けから入口を見ると……中へとスライムらしきモンスターが進入してくるのに気がついた。

 しかし……普通スライムといったら、青色か緑色をしているはず……なのに、中に進入してきているスライムの色は黒だった。

 しかも、迎撃しようと弓を放つ衛兵に向けて、逆に鋭くした自身の身体を伸ばして突き刺しているではないか……。


「ティア、あぶない!」

「――っ!? あ、危なかった……すまない、フィーン」

「ううんー、それよりもはやくにげようよー!」

「あ、ああ……そうだな。装備が無いし、今は戦場に向かうのは危険だ。店の者たちに隠れるように指示しながら、家に……父さんのところに向かおう。何か……嫌な予感がする」


 何故そう言ったのかはあたし自身分からない。けれど、何故だか……心がザワザワとしていたんだ。

 それに、家に戻れば通話樹がある。何とかして通話を掛けて来るはずのアリスたちに助けを求めることが出来れば……!

 吹き抜けから離れ、階段に向かおうとした瞬間――背後から羽ばたきが聞こえ、影が落ち……振り返ろうとした瞬間、あたしは横腹を何かで叩きつけられたらしく、激しい痛みを感じながら壁に身体を打ち付けてしまった。

 いったい、なにが……? 激しい痛みと、頭を打ったらしく朦朧とする意識の中で向こうを見ようとした。けれど、身体は動かなかった。


「クヒヒ、簡単に見つかるなんて温過ぎるだろぉ? クヒッ、そぉだ。い~いことを思いついたぜぇ……クヒ、クヒヒヒヒヒッ!」

「ティアー! ティアー!! はなして、はなしてよー! ティアー!」

「フィー……ン……」


 助けを求めるフィーンの声が耳に届く中、あたしの意識は……完全に闇の中へと落ちていった。


 ○


「あははっ、アリスー。どうしてそんなに弱いんだい? それとも、あたしが強くなったのかなー?」


 記憶の中に潜っていたあたしとは違い、現実では少し状況が変化していた。

 けらけらと楽しそうに笑うあたしの前で、アリスは肩から血を流して膝を突いていた。

 楽しそうに笑うあたしが居る反面、何でアリスが膝を突いているのかと疑問が頭を埋め尽くすあたしがいた。

 何で? アリスだったら、簡単になぎ払うことが出来るんじゃないのか?

 何で、どうして……? どうして……。あ、そうか……戦ってる相手が、あたしだからだ……。

 そう思った瞬間、気持ち良くてまだまだ居たいと思っていたはずのドロドロに不快感を覚え、強烈な吐き気が込み上げてきた。

 けれど、そう思っているあたしは、今のあたしの中では異物なのかも知れない。何故なら、ドロドロとした思考はあたしをこれ以上この場に置くことを許さないというかのように、あたしに覆い被さると……頭を押し付けるようにして、深い深い底へと引いていったのだから……。

 そんなあたしの姿がアリスには見えてるかのようであり、何か言うように口を動かしたが……あたしには届かず。

 激しい胸の痛みがあたしを襲ってきた。


 そうだ、この痛み……覚えがある。


 これは…………。

混乱中なう。

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