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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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カーシ突入

 カーシの街が良く見える位置にある少し高い丘状になった地形に少しだけ彼女たちを乗せた花が、花弁を外気に晒し始める。

 それはまるで横向きに生える竹の子のようであり、その花弁が小さく……ほんの少しだけ口を開かせた。

 その開かれた花弁の穴から彼女が外を眺め、周りに気づかれていないということを理解しながら、自分を心配そうに見る一同を見た。


「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。ちょっとパーッと行って、ぴゅーっとやってくるだけですから」

「……ですが、無理はしないでくださいね」

「やっぱり、わたしたちも付いていったほうが……」

「いえ、正直……一緒に行ったとして、護りきれる自身が無いので、一人で行かせてください」


 彼女がそう言うと、アンたちは悲しそうな顔をしたが……今は危険だと思うので、押し留めておかないといけない。

 そう考えながら、彼女は悪いと感じながらも開かれた花弁から素早く、そして周囲に気づかれないように外へ出るとカーシの方角を真っ直ぐ見た。

 現在、リアードの花が隠れている場所は、カーシの街の下層の天井辺りの高さに位置する場所であり……周りに生えた木々の中でひと際でかいカーシを見ると彼女は足に力を込めた。

 ちなみに準備として妖精の靴には、既にフェーンの力が宿っており……薄ぼんやりと光を放っていた。


「じゃあ、行ってきます」

「「「ご武運お祈りいたします……」」」

「それじゃあ、またしばらく潜ってるねー♪ 頑張ってねー★」


 アンたちが手を合わせ、祈るようにしながら言い。リアードが手を振るのを見ながら……花弁は閉じて、再び地中へと潜って行った。

 それを見届けてから、彼女は足に込めた力を解き放つようにして一気に真上へと飛び上がった。

 その高さは靴の力もあってか、フィーンと一緒に飛び上がったときよりも遥かに高く、カーシの街や他の街であろう樹々……そして、中央のひと際でかく太い樹が見えておった。

 多分、あれが世界樹なんじゃろうな……。


「フィーン、待っててくださいね……。まずはティアたちを助けますから……!」


 囚われの身になっているフィーンに言うようにして彼女は呟き、視線をカーシに向けて狙いを定めた。

 直後、彼女は魔力を循環させて『風』の属性を与え……自身の背後に発生するように調整して《突風》を解き放った。

 瞬間――彼女の身体は一つの弾丸のように、空中からカーシ目掛けて放たれた。


「明赤夢! <蜘蛛糸作成>と<成長促進>!!」


 彼女の叫びに応じるように、明赤夢の振袖から蜘蛛糸が大量に飛び出て、彼女の足元に蜘蛛糸を張り巡らせ……同時に、リアードから受け取っていた種に彼女から貰った力の一部である<成長促進>を使った。

 すると、足元の蜘蛛糸から彼女を庇うように蔦が螺旋状に絡み合い、彼女の前方を覆った。それは突風から身を守るための風防であり、同時に……、


「予想通り、空から行かせないようにしていましたか! けれど、ぶち壊すのみです!!」


 その叫びと同時に、靴裏に張り付いた蜘蛛糸が超回転を開始し始め……それに連動して絡み合った蔦もまるでドリルのように回転を始めたのじゃ。

 ん? どりるとは何じゃと? ふむ、ドリルはな……漢の浪漫じゃな。マロンは栗じゃ。

 回転しながら突き進むキックと多分アークが仕掛けたであろう結界がぶつかり合い、摩擦によって蔦が燃え上がる中で目に見えるように結界にヒビが入り始めたのじゃ。


「い――――っっっっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」


 ――パキィィン! とガラスが砕けるような音と共に、彼女のキックは結界を砕き……彼女の身体はそのままカーシの中層まで突き抜けていきおった。

 そして、目的の場所を視認すると再び明赤夢へと指示を出した。


「明赤夢、<蜘蛛糸作成>!!」


 足元で未だ回転を続ける蜘蛛糸を引き剥がし、彼女は近くの木の枝に蜘蛛糸を飛ばしてブレーキをかけていった。

 引き剥がされた回転する蜘蛛糸はそのまま地面へと落ちて行き、その音に気づいたモンスターたちがその落下地点に集まるだろうが……こちらには来ないだろうと考えながら、彼女は枝に張り付いた蜘蛛糸をゆっくりと下ろし……目的の場所へと下りた。


「敵の気配は……今のところありませんね」


 呟きながら、彼女は周囲を見渡す。ここは、2日前にフィーンと共に妖精の靴の練習をした、練習場であった。

 2日前に訪れた場所であるが、あれから誰も来ていないのか、特に変わった様子は無かった。そして、彼女が見える範囲にモンスターは居なかった。次に耳を澄まして、獣人としての聴覚を頼りにしてみたが……やはりモンスターの気配は無かった。

 ただ代わりに……。


「中から呼吸が聞こえる……?」


 注意を払いながら、彼女は中に入るための洞へと近づき……中を見た。

 カーシの街の中は、エルフたちが抵抗した跡なのか、壁に血が付着し……矢が突き立っていた。そして地面には剣や槍が突き刺さっており……所々焼け焦げた跡や凹んだ箇所が見受けられた。

 それを見て、彼女は辛そうな表情をしつつ……モンスターが居ないことを理解し、中へと入っていった。

 そして、中を見て……何者かの呼吸、息遣いを探りながら……狐耳を動かし彼女はゆっくりと近づいたのじゃ。


「ここから……息遣いが聞こえる…………?」


 ポツリと呟いた彼女の前には、ここ数日見慣れた扉があり……彼女は恐る恐る扉を叩いたのじゃった。

 もともとは、飛ぶだけ飛んで進入のはずが、何故か気づくと、●宙キターな人がするようなキックになっていた不思議。


 ちなみにリアードから貰った力の1つは<成長促進>ですが、それは植物関連の急激な成長が主な役割です。

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