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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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カーシの現状

 地中に潜った花は、土の中をまるで泳ぐかのようにスイスイと突き進んでおった。

 その花の中心では楽しそうに鼻歌を歌うリアードの姿があった。


「ふんふふーん♪ いやー、久しぶりにあちきの身体に大量に力が入って凄く滾ってるよー♪」

「そうですか……」


 楽しそうにリアードは言うが、それに対して彼女のほうは落ち込んでいるのか燃え尽きているのかぐったりとし続けておった。

 そりゃあそうじゃろうな、魔力を上げるのは別に構わないじゃろうが……唇を奪われるというのはかなり厳しい物じゃろうな……そのためなのか、彼女の瞳は遠くを見ておった。

 そんな彼女の状態にあまり触れようと馳せず、彼らは地中を移動している花に驚いておった。まあ、この世界……というか普通、空を飛ぶ、陸を走る、海を泳ぐといったのが当たり前で……地中を移動するなんてイメージは無いじゃろうしのう。


「あとご飯食べるほどの時間で、カーシの近くに着くよー♪」

「えっ!? も、もうですかっ!?」

「す、すげーはえーんだな!?」

「というか、ご飯食べる時間って……」

「ふっふーん、大量に力があるから出来る芸当だよー♪ あれ? けど、何か変なのがカーシを取り囲んでいるよー?」


 あまりの素早さに目を白黒させる一同だったが、リアードはそのスピードを緩めつつ、カーシの近くの現状を口にした。

 その言葉に彼女はピクッと反応し、ギギギとさび付いた機械仕掛けの人形のようにリアードへと振り返りおった。


「変なの……ですか? あの、リアード。見えたりなんかしますか?」

「え? ちょっと待ってねー、もう少し近づいたら止まるから、そこから蔦を伸ばして見えるようにするねー♪」

「お願いします」


 リアードに頼むと彼女はもう一度ぐったりと眠り込んだ。どうやら精神的なショックもあったけれど、魔力を回復しようとしていたのかも知れないのう。

 そうして、ご飯食べる時間……所謂、30分ほど過ぎてから花は地中で止まったのじゃった。

 そこからリアードは触手のように蔦を1本動かして、閉じた花弁の頂点からスルスルと出して、地上に姿を現せたようだった。

 そして、ある程度見える辺りまで蔦を移動させ終えたらしく、閉じた花弁を使って《水鏡》のように蔦から見える情報を周りにも見えるようにしたのじゃった。


「はい、お待たせー♪ これが、カーシの現在の状況だよー」

「これは……オーク…………なのか?」

「け、ど……なに、か……変」

「それに、ゴブリンも何だか変だぞ……」

「元々理性が無いようなモンスターでしたが、もっと理性がないように思えるんだけど」


 映し出された光景に、魔族4人は言葉を失った。

 それもそのはずじゃろう。なぜなら、カーシの街を取り囲むようにして、オークとゴブリンが大量に居たのじゃからな……そして、そのどれもが、身体を黒く染め上げていたり……ドロドロとした何かに身体を喰われていたりしておった。

 けれど、そのドロドロとした物……彼女には見覚えがあったのじゃ。同時に、苛立ちを込めた口調で彼女は呟いた。


「くそっ、あのゲス……初めから希望を持たせるだけ持たせて、目の前で絶望を味わわせる気が満々じゃないですか……!」

「どういうこと、ですか?」

「それに、アリス様……あの黒いオークたちはいったい……」

「あの黒いのは、アタシの予想が正しければですが……【破壊】が最後に行ったものと同一の物なんです」


 彼女が言うと、タイガが反応し……それで漸く気づいたのか他の3人もジッと彼女を見たのじゃった。

 その視線に気づきながら、彼女は話を続ける。


「あれは、精神がそれが持つ本能だけに侵食され……代わりに、能力が一気に向上するという物だと、アタシは考えています。そして、それを倒すのはかなり困難です。ですから、あと少しで到着すると思っていた矢先に、時間が来てカーシの街が大炎上、もしくは中に入ったとしてもそれに巻き込まれる。

 そんな風に、あのゲスは考えていたのでしょう……」

「つまりは……わたしたちが命を懸ける様をそいつは嘲笑ってみている……ということでしょうか?」

「はい、多分……どんな方法かは分かりませんが、アタシたちが来るのをリアードの今やってるような方法で見ていて、最後の最後で護れなかったと心を折れる様を見ているんです」

「……最低、ですね」

「いや、彼女の言うとおりだと思う、あいつならやりかねない……。というよりやるだろう」


 彼女の予想を裏付けるように、ロンも彼女の考えを肯定した。

 要するに、あのまま普通にカーシの街に向かっていた場合、アークの笑いが止まらなかったことじゃろうな。

 ならばどうするのかじゃと? ここは彼女たちがどう動くのかジッと見ておろうではないか。


「あの、リアード。あなたの見た限りだと、そのオークやゴブリンはどれくらい存在していますか?」

「え? んーっとね、オークが14……あ、食べられたから13匹になった。で、ゴブリンは……20だ……あ、また食べられた15になったけど……何かグネグネしていって形を保っていないよー。あんなのよりも、あちきの蔦のほうが魅力的だからねー。利用的な意味で」

「……どんな意味かは聞きませんが、それらは完全にカーシの周辺に居るのですね?」

「もー、恥かしがり屋さんなんだから、アリスはー。あんなに激しかったの忘れちゃったの? って、ごめんごめん、怒らないでー。で、それらの殆どはカーシの周囲に居るねー。どうするの?」


 握り拳を上げた瞬間、リアードは頭をガードしつつ、即座に謝った。だったらしなければいいのに、とは言わないのがお約束じゃろうな。

 そして、リアードの質問に彼女は考えるように、顎の辺りに指を当てて目を瞑りおった。

 正直な話、現状花を地上に出したとしても、アークに移動手段が分かってしまうという心配もあるし……そして何より、彼女が戦っている間に他の8人が無事であると言う保障なんてまったくないのだ。

 それに仮にカーシの街の中に入ったとしても、あのゲスがこの周辺だけではなく……街の中にも同じモンスターを置いていないという可能性なんて何処にもないのだ。いや、もしかするとエルフたちもあんな風にされていないという可能性も考えたほうが良いのか……。


「正直な話、どうしましょうか……」

「……あのゲスのことだから嫌な予感を考えたほうが早い、と言うことか……」

「はい、それにカーシの街を何とかしたとして、世界樹に向かう方法を見られるのも困った物だと思っています」

「妖精の靴で移動するというのも危険、ということでしょうか?」

「それもありだと思いますが……でも、対処を取られている可能性も」


 彼女が言うと、全員が首を捻り始めた。

 そんな悩み続ける彼女たちを見ていたフェーンとタイガとフェニは痺れを切らしたのか怒鳴り声を上げた。


「おまえらっ! はやく、カーシのまちをたすけて、フィンをたすけにいけよっ!」

「ああ、じれったい! もう、一気に叩き潰せば良いだろっ!!」

「そうよ! もういっそのこと空から飛んでいったほうが良いんじゃないのっ!?」

「お、落ち着いてください。3人とも……」

「そうです、今飛び出して行っても救うことが出来るかがわかりませんし……」


 血気盛んな3人を宥めようと、トウとロワの2人が間に立つが……彼女は3人のある言葉に反応したのじゃった。

 けれど、それは上手く行くか分からないため、リアードに訊ねることにした。


「リアード、この近くで比較的高い地面はあったりしますか?」


 どうしてそんなことを聞くのかと首を傾げるリアードに対して、彼女は大博打に乗り出すために覚悟を決めるのじゃった。

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