植物の王
吸った息を吐き出すようにして、彼女は通話の枝に向けて……呼び出す相手の名前を口にした。
「妖精王ティタ様! ゆうしゃアリスがあなたに通話を求めます!」
『そんなに大声を出さなくても聞こえております。ごきげんよう、ゆうしゃアリス様』
大声を出した彼女とは対照的に、通話の向こうからは優美な声が聞こえてきた。
その声を聞いたフェーンはまだ慣れていないのか、身体を硬くし……、アンたちエルフは現在の光景が信じられないのか、目をパチクリとさせておった。
ちなみに魔族であるロンたち4人は良く解っていないらしく、固まっている4人を不思議そうに見ておった。
「やっぱり通じますか……それで、つい先程の話を聞いていたと思いますので、力を貸していただきたいのですが、大丈夫でしょうか?」
『はい、……まさかこの国を壊そうとする魔族が既に妖精の目をほとんど捕まえ、さらにはカーシを落としていたなんて……。あのとき繋がることが出来たのは無事だと思わせるためだったのでしょうか……』
「それは分かりません。ですが、今は一刻も早くカーシの街に向かいたいのです。なので、<妖精の輪>を使わせて欲しいのですが、大丈夫でしょうか?」
『それは構いませんが……通れるのは、あなた様とフェーンの2人だけになりますよ? なので、別の手段を使わせていただきたいのですがよろしいでしょうか?』
明赤夢へとティタに力を与えてもらった際に手に入った能力にあった<妖精の輪>を使うことが出来るかと彼女は聞いたのじゃが、どうやら妖精かそれに準ずる者しか通ることは出来ないらしかったのじゃ。
だから、その代案を提案してきたティタの言葉に頷くと、ティタが一度静かになり……再び通話の枝から声が発せられた。
『今、アリス様たちのほうへと使いの者を出させました。皆様はそれに乗って、カーシへと向かってください。アリス様……森の神を、国を、皆をよろしくお願いします』
「……保障は出来ませんが、分かりました。頑張りますので、ティタ様も気をつけて」
『はい、ご武運をお祈りいたします』
ティタの言葉を最後に通話は終了し、3回の通話を終えた通話の枝は音叉の形に戻るのではなく、そのまま枯れて……水分が無くなるようになってから砕けていったのじゃった。
最後はどんな風になるのかと思ったが、こうなるのかと思いながら振り返ると色々と聞きたいような顔をした一同が居た。
「あ、あの……アリス様。いま妖精王と聞こえたのですが……まさかあの妖精王ですか?」
「はい、あの妖精王……だと思います。彼女がカーシまでの移動手段を用意してくれたらしいので、少し待っていましょう」
彼女がそう言ってしばらく経つと、ティタが言っておった使いの者が姿を現しおったのじゃ。
まず最初に、地面から顔を突き出され……、彼女と目が合ったのじゃ。驚く彼女とは別に、首はニコッと人懐っこそうな笑みを浮かべおった。
「やーやー、きみがゆーしゃアリスだよね? ね? 初めまして、あちきはリアード、見ての通りの植物の王さ。よろしくねーっ★」
「あ、よろしくお願いします。リアード様。ゆうしゃのアリスです」
「そーんな堅苦しい挨拶は無しにしよーね、あちきのことは普通にリアードって呼び捨てで呼ぶか、リアって愛称みたいに呼んでよ!」
「は、はあ……。では、リアードで……」
呆気に取られながら、彼女は返事をするのをアンたちは目を輝かせながら見ており、ロンたちは呆気に取られながら見ておった。
多分、エルフたちに取っては植物の王は神聖化されていても可笑しくないもので、ロンたちは初めて見る種族についていけないと言うことなのだろう。
そんな彼らの心境なんて知ったことかと言うかのように、リアードは右腕を引っ張り出すと、今度は左腕を出して、最後に力を込めて半身を地面から抜き出した。
葉っぱで出来た緑色の髪とアクセサリーのように咲いている花、少し樹に近い色合いをしたクリーム色の肌、胸元を隠すために身体に巻きついた蔦。
その姿を見て、彼女は彼の世界の創作にあったドライアドという樹の精霊を思い出しておった。
そして、そんなリアードは生返事をした彼女に対して子供みたいに頬を膨らませた。
「もー、ノリが悪いなー! 今度話すときにはもっとノリノリで返事をしてよねー。それで、ティタから話を聞いたんだけど、きみたちをカーシの街まで運べば良いんだよね?」
「は、はい。お願いできないでしょうか?」
「べっつにいーよー♪ けど、これだけの人数を送り届けるにはちょっとばかり、力が足りないかなー」
そう言って、リアードは照れながらも視線は何故かこの場に居る女性陣(特に彼女)に目が行っておった。
その視線に何故か嫌な予感を感じたのか、ジリジリと後ろへと下がって行く彼女じゃったが、文字通り両手を伸ばしたリアードによって拘束されてしまったのじゃ。
激しく嫌な予感を感じる彼女じゃが、その最大の理由として……舌なめずりしながらリアードが近づいてくることと、彼女を見る目が……捕食者の目をしていたからじゃった。
「あ、あの……リ、リアード?」
「カーシの街に行きたいんだよねー? でも、力が足りないー……だったら、外部から取り入れるのが一番良いよねー? 正直な話、こんな素敵な魔力を放出していたら、吸わないほうが可笑しいよー? あー、プニプニスベスベホッペ、サラサラヘアー、瑞々しい唇……いっただきまーす♪」
「え、が……外部からって……、それじゃあ手を繋いでとか……ってちょっ!? ま、待ってくださ――むぐぅっ!?」
リアードの押し付けられた唇に彼女は目を見開き、口の中を花の蜜のような甘い唾液を纏った舌が這いずり回り、抱き締められて拘束されているために、浮いた身体がビクンビクンと跳ねておった。
ああ、お主はちょっとお目目を閉じてもらうぞ。おーぼーだって……こんなもん見せておったら、お主の母に本当殺される……がくがく。
って、ええい、暴れるな! ……仕方ない、ならば音声だけ楽しんでおれ!!
「う、うわ……すごい……」
「トール、タイガ……お前たちにはまだ早いと思うから、目を閉じていろ」
「う……ん」
「オ、オレは別に構わないぞ! 父上も、こういうのに興味を持つのは良いことだと言ってたしよ! って、ロン、手を放せよ!! オレにも見せろよ!!」
「タイガ、ウチがあんたをエロガキ認定するのと、目を閉じるのどっちが良い?」
「目を閉じてる……」
「そ、ならちゃんと目を閉じてなさいよ。ちょいエロガキ」
そんな4人の声が聞こえたり、ピチャピチャという音と彼女の声が響き渡っておるのう……。まだ暗いままじゃぞ。
わしか? 安心せい。わしの目にはちゃんとその光景が丸見えじゃぞ――って、蹴るな! 足を蹴るでない!!
うぅ……かなり痛いぞ。……まあ、そろそろピンク色満載な彼女のお色気シーンは終わりじゃろうから、戻すぞ。
「ふぅー、満足したー♪ 力もたっぷりー♪」
「うぅ……穢されました、汚されました……」
よだれ塗れで地面に倒れ……見事に乳を押し潰す彼女と、お肌がツヤツヤして頭の花が満開になっているリアード。
そんな彼らを見るようにしながらも、目を合わせないようにして顔を赤くする8人……。
彼らを見るようにして、リアードは不敵に笑う。
「ふっふっふー、力を戴いたあちきに不可能はなーい! さー、移動手段を呼び出すよー! さあ、咲けー!!」
リアードが叫ぶと同時に、リアードの前に地面から巨大な花が姿を現したのじゃ。
茎から伸びるように咲くのではなく、地面から直接咲く花。
それに向かって、リアードは彼女たちを招くように手を動かした。
「さー、速く乗って乗ってー。全員が乗ったらすぐに向かうからー★」
「は……はいぃぃ……」
フラフラとしながら彼女が花の上に座り込むと、他の者たちも躊躇いながらそこに乗りこんだ。
すると、彼らを乗せた花は花弁を閉じ……甘い花の香りが鼻を擽る中、地中へと沈んでいったのじゃった。
アリス、キス魔に襲われる(違