推理と選択
口を開いた彼女が何を言うのかを、彼らはジッと見ていた。
「世界樹、カーシの街……。正直な話、移動時間は両方とも同じぐらい掛かりますよね……?」
「は、はい。世界樹は森の国の中心に存在して、街々は世界樹を囲むようにして円になって作られていますので、ヒノッキからだと同じ距離になります」
「……あのゲス、それを分かっててやっていますよね?」
「ああ、あいつはそう言う奴だから、間違いないな……」
彼女の言葉に、アンが説明し……ロンが肯定した。
彼女自身も、姿は見ていないが声だけでそんなヤツだろうと理解出来ておった。
その言葉を聞きながら、アンは何故彼女はすぐにでもカーシへと向かわないのかと不安に思い始め……それが表情に出ていたのか、彼女はアンを見た。
「皆さん、先にアタシのあのゲスがやろうとしていることを推測ですが言っても良いでしょうか?」
「え? は、はあ……」
「……一応、聞こうじゃないの」
「ありがとうございます。他の皆さんも良いでしょうか? ……はい。では語らせていただきますね。ついさっき、あのゲスは森の国の神を狂わせると言って、世界樹に向かいました。そして、その方法は妖精を使うんだと思います」
彼女の言葉に理解出来ないらしく、全員が首を傾げおった。事実、この時点では理解しろと言うほうが難しい物じゃよ。
そんな一同を無視して、そのまま彼女は話を進める。
「妖精には、それぞれ得意分野と呼べるものがあるようで、そこに居るフェーンは妖精の靴に力を与えるのが得意な妖精です。そんな妖精のことを『妖精の足』と呼ぶみたいなんです。他にも色々ありますが、今は省かせていただきますね。
で、今回ゲスに連れて行かれた妖精は、視ることに長けた妖精、『妖精の目』と呼ばれる種類の妖精らしいです。そして、ゲスはその妖精たちを使って森の神を狂わせようとしているらしいんです」
「色々知らない情報が出てきますが……、アリス様、視ることでどうやって狂わせるというのですか?」
「そうですね……。例えば、アン様。そこのロン様はどう見えますか?」
「え? ……魔族、ですよね?」
「そうですよね? では、魔族ではなく獣人として見たら、どう見えますか?」
「え……えっと、獣人に見えなくも無い、ですよね?」
少し迷いながらアンがそう答えて、トウとロワの2人も悩みながらも……頷きおった。
それを見てから、彼女は話を続けた。
「つまりですね。あのゲスは妖精たちを操るとかして、正常な神を狂ってると視ようとしているんです。正常だったとしても、周りが狂ってると思ってそれを見ていると、正常なはずなのに自分は狂ってると思い始めるはずなんです。
要するに、狂ってる=正常なことを認識するようになると……アタシは思っています」
「……なるほど、要するにアークが考えていることとあなたが推測していることが当たっていたら、この国はかなり危険なことになる……ということで良いだろうか?」
「はい、森の神の力はどれほどの物なのかは知りませんが……神と名乗っているのですから、森の国は更地になる可能性もあると思います」
彼女が言うと、アンたちは顔を蒼ざめさせおった。
そして、震える唇を動かし……何かを決断するようにして口を開いたのじゃ。
「ごめんなさい、姫様……ごめんなさい。……アリス様、お願いします。カーシの街よりも、世界樹に向かってください。でないと、この国は滅びてしまうんですよね?
お願いします、アリス様……この国を、救ってください」
「「アン……」」
泣くのを必死に堪えながら、アンは彼女に頭を下げながら言う。
そんな彼女を心配そうに仲間の2人は見ておった。
アンたちを一度見て……次に、ロンたちへと彼女は視線を移した。
「あなたたちは、この国には何ら関係もありません。そんなあなたたちだからこそ聞きます。皆さんはどうしたいですか? 素直な気持ちを聞かせてください」
「自分たちの素直な気持ち……?」
「アリス様……?」
「すみません、アン様。少し見ていてください」
彼女に話しかけてきたアンに、そう言うとアンは黙り……じっと様子を見始めた。
しばらく黙っていたロンたちだったが、固まって話し合い始め……様々な声が聞こえてきた。
それをジッと見続けていると、4人の中で答えが出たのか、彼女のほうを見てきた。
「正直な話、オレはアークのクソ野郎をぶっ飛ばしたい」
「け、ど……そう、したら……その街も、燃え、る……よ、ね」
「でも、そうしたらあのゲスは高笑いをするに違いないと思うよ。というか、目に浮かぶわ……」
「ああ、だから自分たちは話し合って、どうするかを決めた。聞いてくれるか?」
4人の瞳が彼女に向けられ、彼女は頷いた。
そして、4人は同時に同じ言葉を口にしたのじゃった。
『街を救いたい。そして、出来るならあのゲスの企みを潰したい』
その言葉に彼女は頷き、予想していた答えだったのか満面の笑みを浮かべたが……すぐに顔を引き締めて、アンたちを見た。
「彼らはこう言っています。アン様、あなたは本当はどうして欲しいのですか?」
「……お願い、します。アリス様……姫様を、カーシの街を救ってください!」
「「おねがいしますっ!!」」
「はい、救ってみせます……絶対に!」
自信満々に彼女は答え、それを見てアンたちは急いでカーシの街に向かうための準備を始める。
と言っても、フェーンに頼んで妖精の靴に力を込めてもらうという作業だけだが……。けれど、それを彼女は制止した。
「いえ、それには及びません」
「ア、アリス様? 何故です……?」
「こうするからです……!」
彼女はそう言うと、手に持っていた通話の枝を樹に突き刺した。
すると、通話の枝は先程と同じように伸びて行った。
そこへ彼女は通話する相手の名前を口にするため、息を吸うのじゃった。
個人的なイメージですが、視る、視られるって大変なことだと思います。