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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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睨みあい

 彼女を見つけたことで喜んだアンたちであったが、同行する者たちに気づき……只ならぬ雰囲気から不安な予感を感じつつ……彼らの話を聞いて、ヒノッキの街の住人はもう生きていないと言う事実に蒼ざめ……、その原因である彼らをどうするかということを話し合っている最中に、彼女が自分の預かりにさせてくれと言ったことで顔を赤くしおった。

 そして、半ば怒り声で……。


「いくらアリス様であろうと、街をひとつ滅ぼした大罪人を許すつもりはありません!!」

「そうです! 彼らが原因で街が滅んだと言うのに、何故彼らは生きてるのですか!?」

「と言うよりも、他の街の長たちにも伝えて、処罰を決めないといけないよね」


 と、散々な言いようじゃった。

 そんな溢れ出るほどの殺気混じりの怒りを受けながら、ロンたちはというと……。


「ごめ、なさ……い」

「そう言われるのは仕方が無い。自分は潔く死を受け入れよう。けれど、少しだけ時間を貰えないだろうか?」

「頼む! オレたちも、あのクソ野郎に笑われたまま死ぬなんて真っ平なんだ! だから頼む!!」

「逃げないように、奴隷にでも何でもしても構わないから、あのニヤけた顔をウチらの手で歪ませたいのよ!」


 罰は受け入れるが、アークに一泡吹かせたいと言うことを口にしておった。

 そんなエルフと魔族を見ながら、彼女はこの険悪な空気に顔色を悪くするフェーンへと近づいた。

 近づいてきた彼女に嫌な顔をしたが、逃げることをせずにフェーンは彼女を隣に立たせた。


「フェーン、大丈夫ですか?」

「……だいじょーぶ。ヒノッキのようせいがしんだのはかなしいけど……ようせいはしんだら、ようせいのくににかえるんだ。だから、またあえるひがくる」

「そうなのですね。ティタは大変になるかも知れませんが……また会えると良いですね」

「うん……。って! な、なんでおまえになぐさめられないといけないんだよっ!」

「ふふっ、気にしないでください。……あと、連れ去られた妖精の目を持つ妖精は、知り合いだったのですか?」

「……オレはちがうけど、フィンがしりあいだった。たしか……ミィンってよんでた」


 話題を変えるために彼女が言うと、フェーンは思い出すようにそれを口にする。

 それを聞きながら、彼女はもうそろそろ良いかも知れないと考えて、通話の枝を取り出した。

 けれど、両者はまだ険悪な雰囲気を持っているようで、睨み合っておった。

 そんな彼らに一言だけ声をかけてから、通話の枝を使うことを彼女は考える。


「すみません、今から通話の枝を使うので、少しだけ静かにして貰えないでしょうか?」

「はっ、はい。わかりましたっ!」

「わかった。皆、少し落ち着け」


 アンとロンが頷き、それぞれの仲間たちに言うのを見てから、彼女は近くの樹に通話の枝を突き刺した。

 すると、先程と同じように枝が伸びて、備え付けマイクのような形になったので、カーシの街に繋ぐように言うと、少ししてカーシの街へと繋がった。

 向こうの声はつい先程通話したのと同じ通話係であろう女性が出たのじゃ。


『もしもし、こちらカーシです。そちらはアリス様ですね?』

「はい、頼んでいたことはどうなりましたか?」

『他の街が襲撃された際に視るのに長けた妖精が居なくなっていないかですね? 他の街に聞いてみたところ、ナーラ、スギー、ヒーバ、ケヤッキ、マッツといった街々から、居なくなってるみたいです』

「そうですか……。あの、カーシの街は大丈夫でしょうか? またオークやゴブリンが襲ってきてはいませんか?」

『はい、オークやゴブリンは襲っては来ていませんよ。ですので、アリス様はゆっくりと戻って来てください』


 通話係の女性はそう言うが、彼女の中で何かが引っ掛かってしまっていた。どういえば良いのか分からないけど……やけに嫌な何かが……。

 そんなとき、アンが真剣な表情をしながら彼女へと近づいてきたのじゃ。

 どうしたのかと思いながら、首を傾げると……アンは口を開いた。


「ア、アリス様……、通話の部屋は基本的に長か姫様といった街での高い地位を持つ者のみが使用を許されているのです。ですから、アリス様……あなたはいったい誰と話をしてるのですか?」

「……え?」


 どう言うことかと思った瞬間、通話の枝の向こうから笑い声が響き渡ってきおった。

 初めは女の声だったのだが……、段々と男の声へと変化して行き、その声を聞いた途端……ロンたちの視線が一斉にこちらに向いた。


「そ、その下品な笑い声……あなた」

「テメェ……よくも……!」

「人をおちょくるのが本当に好きだな……アーク!」

『クヒッ? おーおー、その声は裏切り者たちかぁ。よぉっく、あの炎の中で生きてたなぁ、クヒヒッ』

「う……らぎり、者、ちが……う!」

『ちげぇんだよ。オメェらは魔族を裏切ってエルフに肩入れしようとしたから、オレの手で殺されたんだよ。クヒヒッ! そう魔王様には言っておいてやるよ。ちなみに華々しく散ったって言うのは嘘で、こう言うつもりだったんだよ! クヒッ、クヒヒヒヒヒヒッ!!』


 胸糞が悪くなる笑いを発しながら、アークの声は4人を馬鹿にしていく。

 それに対して、ついにロンが切れてしまったのじゃった。


「きっさまぁぁ……! 殺そうとしただけでは飽き足らず、我らの死まで裏切り者として穢そうとしてたのか! 許さん、絶対に許さんぞぉぉ!! 貴様をこの手で、八つ裂きにしてやるっ!!」

『クヒヒッ、でっきるかなぁ? っと、こいつらからかうのはまた今度にして、テメェだよテメェ、ゆうしゃアリスちゃんよぉ』

「……何ですか?」

『おーおー、おっかねぇ声出してるなぁ? そんなにお友達が心配かぁ? だったら、声を聞かせてやるよ。おい、起きろよっ!』


 アークの声と同時に通話の向こうから「あぐっ!」と言う呻き声が聞こえたのじゃった。

 その声に、彼女だけではなくアンたちも表情を強張らせた。


「その声……ティアをどうしたんですか……?」

「「「姫様っ!!」」」

『どうしたかってぇ? なぁに、ちょっとこの街の妖精を寄越せって言ったら……クヒヒッ、おもしれぇよ。今思い出しても、笑いが出るぜ、クヒヒヒヒ、だってよぉ『フィーンに、あたしの友達に手を触れるな!』って言って必死になって剣を振ってきたってのによぉ。オレの顔面パンチ一発で潰れちまうんだぜぇ。クヒヒ!』

「……………………」

『で、気絶する前に妖精のやつに逃げろって言ってるのに、妖精も気絶したこのエルフを心配して離れなかったんだよ。だぁから捕まえるのは簡単だったぜぇ! クヒヒヒヒヒヒッ!! あっれぇ? ついさっきからだんまりですけどぉ、怒った? 怒っちゃった? クヒヒヒヒッ、マヂギレしちゃってるのかぁ?』


 アークの笑い声が不快にしか感じない上に、彼女は今どんな表情をしているかは分からない。

 けれど、彼女は胸の奥から湧き上がる怒りの感情を理解しておった。

 そんな彼女の心境を知っているくせに、アークはなおも不快な声を閉ざそうとはしない。


『そぉんな、怒りプンプンなアリスちゃんにご褒美でぇす。オレは今からここの妖精と、捕まえた妖精を連れて世界樹に行ってこの国の神を狂わせてやりまーっす。止めたい? 止めたいよねぇ、ゆうしゃなんだからよぉ。で、もうひとつ報告しておきまーっす』

「……どうせ下種な報告でしょう? 例えば、片方を選んだら片方は救えないと言う感じの……」

『あ、わかった? わかるよねぇ。そう、このまま、カーシの街に戻らずに世界樹に向かったら、ヒノッキと同じようになるとだけ言っておいてやるよ』

「カーシの街が……燃える……」


 アークの言葉を聞いていたアンたちが呆然と呟く。ヒノッキの参上を見ておったらそう言いたくなるものじゃよな……。

 そんな彼女たちの不安を煽るようにして、アークはなおも言葉を発する。


『燃え上がる時間は、テメェらが飲まず食わずで全力で戻ったら間に合うくらいの時間。そうだな……一日にしておいてやるよ。うーん、オレ超やっさしぃー』

「やさしいわけがあるか! このクソ野郎!」

『猫がにゃーにゃー五月蝿いが、それじゃあこの通話が終わり次第、オレは仕掛けて世界樹に向かうぜぇ。それじゃーな、クヒヒ、クヒヒヒヒヒッ!!』


 そう言って、アークは通話を終了し……それと同時に、通話の枝は元の音叉のような形へと戻っていった。

 込み上げる怒りを必死に抑えながら、彼女は彼らのほうへと振り返った。

 アンたちは顔を蒼ざめさせ、ロンたちは……怒りに打ち震えておった。

 そんな中、彼女は口を開くのじゃった――。

何とか、動かすことが出来ました。

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