カーシへの連絡
「以上が、あの街がああなってしまった原因と、自分たちに起きた出来事だ……」
言い終わったロンは、ふうと溜息を吐いた。
喉が渇いてたりするのだろうか……そう思いながら、彼女は地面に露出した土を掬うと《創製》を使って、硬度のある土の器を作るとそこに《飲水》を使って水を注いで差し出した。
それを見ていた4人は驚いた顔をしていたが、とりあえずそれは無視することにしたのじゃ。
「喋って喉が渇いたでしょう? 良かったらどうぞ」
「あ、ああ……すまない。頂こう」
「毒は無いので安心して飲んでも平気です」
恐る恐る器に口を付けるロンを安心させるために彼女がそう言うと、逆効果だったらしくブホッと咽てしまっていた。
そんな彼に悪いことをしたと感じつつ、土の器を残り3つ創って、《飲水》を注ぎ……残りの3人へと彼女は差し出したんじゃ。
それに彼らは目をパチクリさせて、警戒しておったみたいじゃが……ロンと一緒で水分を取っていなかったタイガたちも吸い寄せられるようにして、器を取って……水を飲み始めたのじゃった。
炎の中を脱出してから一日ほどまともな水を飲めていなかったのか、4人は一気に水を飲み干してしまい……お代わりの水を注ぎながら、食べる予定が無くなっていた干し肉も差し出した。
「良かったら、コレもどうぞ」
「……良いのかよ?」
「はい、構いませんよ」
「か、返してくれって言われても、返さないからな!」
肉の魔力に逆らえなかったのか、そう言ったタイガは干し肉を噛み始め……栄養が全身に染み渡って行くのを感じているのか、ジーンとしておった。
見ると、ロンも静かに干し肉を口にし……トールもはむはむとさせながらゆっくりと食べておった。とりあえず、トールのほうは愛らしく感じてしもうたな。
しかし、その一方で気位が高いフェニはギロリと彼女を睨みつけておった。
「治療してくれたのは感謝してるわ。けど頼んでもいないのに、こんな施しまでして……あんた、ウチらに何をしたいのよっ!? どう考えても、裏があるようにしか思えないっ!!」
「何をですか? そうですね……あえて言うなら、……あなたがたはここで死ぬべきじゃない。ってところでしょうか?」
「そ、そんなふうに言って誤魔化しているつもりっ!? だったら、その理由を答えてよっ! それが無かったらただの偽善者じゃないっ!!」
「偽善者で結構ですよ。ですが、理由としては……あなたがたが見えている世界が魔族だけの世界ではなくなったと、ロンの話を聞いて感じたからです」
彼女がそう言うと、フェニとロンは何かに気がついた顔をしておった。トールは首を傾げ、タイガは干し肉に夢中であったがな。
それでも、なおフェニは何かを言おうとしていたみたいじゃが、ロンがそれを制止したのじゃった。
「そのくらいにして、観念してお前も食べる物は食べろフェニ。でないと、体力が無くなるぞ」
「……わ、わかったわよ」
そう言って、少し恨めしそうにフェニは彼女を見ておった。まあ、口には干し肉が咥えられておったがな。
しばらくして、干し肉がすべて彼らの胃の中に納まると……4人の警戒が少しだけ和らいできたのか、ピリピリとした空気が薄くなっておった。
周囲の雰囲気を見てから、ロンは彼女へと頭を下げた。
「本当に助かった。ありがとう」
「いえ、気にしないでください。それと……聞きたいのですが、件のアークという四天王はあなたがたに語りかけた妖精を連れ去った。と言うことで良いのでしょうか?」
「ああ、何故かは知らないが……自分たち、いや。自分が持っていた石を捨てるように言っていた妖精だけをヤツは連れ去って行った。そして、自分たちごと街を燃やした」
それを聞きながら、彼女は考え始めたのじゃ。ほれ、耳を澄ますと、彼女の考えていることが聞こえるじゃろ?
(アークという魔族が連れ去って行った妖精……。それが、ティタが言っていた妖精の目を持つ妖精だとすると……何の目的で連れ去ったのですか? いえ、そもそも……魔族たちが連れ去って行ったのはヒノッキの妖精の目だけですか?)
嫌な予感を感じつつ、彼女は通話の枝を懐から取り出し……彼らを見た。
いきなり懐に手を突っ込んだ彼女に驚いていた彼らだったが、出してきた枝に首を傾げる。
「すみません、少し連絡を行いたいのですがよろしいでしょうか?」
「……ウチらの存在を知らせる。ってわけじゃないのよね?」
「はい、気になることが出来たので、少し聞きたいんですが、大丈夫ですか?」
「……分かった。ただし、自分たちのことを言ったら」
「言うつもりはありません。では、失礼して……」
彼女は床に通話の枝を突き刺すと、枝はニョキニョキと伸び始め……まるでマイクスタンドのような形を取り、彼女の前に鎮座した。
そこに向けて、彼女は通話する街の名前を口にした。
「カーシの街に連絡。至急繋いでください」
『…………――……――。こちら、カーシの街。聞こえますか?』
街の名前を言ってしばらくすると、マイクスタンドから声が聞こえ始めた。
多分、通話を行うための場所に詰めているエルフなのだろうな。
「大丈夫、聞こえます。こちらはヒノッキの街に向かったアリスです。こちらの声も聞こえますか?」
『問題なく聞こえます。ヒノッキの街はどうなっていましたか?』
「……ヒノッキの街は樹が焼け焦げており、多分住人はすべて死亡しています。周辺に生き残りが居ないかをアン様たちが見ています。それで、聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
『そうですか……。聞きたいことですか?』
「はい。オークが襲ってきて撃退したという他の街に聞いて欲しいのですが、街に居るはずの……『視る』のが得意な妖精は居なくなってないかを大至急聞いてもらいたいのです」
『視るのが得意な妖精……ですか? 変な質問ですが……すぐに問い合わせてみます。一度通話を終了しますが、よろしいでしょうか?』
「分かりました。1時間ほどしたらまた通話しますね。それでは……」
通話係に礼を言って通話を終えると、通話の枝は逆再生をするかのように片手で持てるサイズへと戻ったのじゃった。
それを懐に戻し、4人のほうを向くと若干空気が張り詰めておった。
どうしたのかと首を傾げていると、ロンが彼女に訊ねたのじゃ。
「……あなたは、アリスと言う名前なのか?」
「はい、そうですが……何か?」
「な、まえ……おな、じ……。おじー、ちゃん……倒した、ゆうしゃ、と……」
「だが、聞いた話だと、そのゆうしゃは人間で、しかも死んだはずだ」
「だ、だよな! というか、こいつは獣人なんだし……!」
「けど、そのゆうしゃは色んな魔法を難なく使いこなしていたと聞いたわ。あの《異界》だって、高等魔法なのよ。それに、この器だって……」
信じられないと言う表情をしながら、4人は聞こえないように話しているつもりなのだろうが、かなり聞こえてしまっていた。
とりあえず、どう言うべきか……。彼女は悩み始めるのじゃった。