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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
18/496

アリバイ工作

「……い、――ス、――お、ろ」

「んぅ……まだ眠らせて……。あと、ごふん……むにゃ」


 彼女が気持ち良く眠りに着いていると、不意に誰かの声が聞こえて体を揺すられる感覚を感じたわ。

 けれど、今の彼女はちょっとやそっとのことじゃ起きたくなくて、彼だった世界での伝統だった名台詞を口にしたわ。

 一応そう言うと起こしに来た相手が帰って行くというのが基本だったのよ。まあ、ウソだけどね。

 それで何度か声を掛けられた上に揺すられてしばらくして、彼女は機嫌を悪そうにしながらソファーから起き上がったわ。


「ふぁぁあ……、いったい何ぃ……?」

「起きたか、アリス」

「…………あれ、ギルドマスター? どうしてここに……ああ、ここってギルマスの部屋だったわね」

「そうだ。でもって、単刀直入に聞く――ハガネを倒したのはお前か?」

「………………。何のことかな? オレは今までこの部屋のソファーで寝ていただけだよ? だから、ハガネを倒したのが何処のシーツを羽織った女性(・・・・・・)かなんて知らないよ」

「なるほどな……。ああ、そうだな。お前はハガネが王都に襲い掛かったことなんて気づいていなかった。それどころかこの部屋のソファーで寝ていた。だから、何が起きていたかなんて分かるわけが無い。そうだよな?」


 彼女が言いたいことを察してくれたのか、ギルドマスターはそう言ったから彼女は頷いたよ。

 ……ん? 彼女はどうしてそんなことを言ったのかって? そうだねー、簡単に言うと彼女は戦場に行っていない。だからハガネを倒したのは自分じゃないって言ってるんだ。こういうのをアリバイ作りって言うんだよ。

 そして、そうしておかないと折角あの場所から逃げたのに正体が自分だとばれてしまうからなんだ。

 彼女は本で得た知識だったけど、それを汲み取ってくれたギルドマスターは有能だと本当に思うよ。


「正体不明のシーツ女は何処に消えたか知らないとして、これからお前はどうするつもりだ?」

「んー、ホンニャラッカに普通に帰ろうと思うけど、冒険者っていうのも普通に面白そうな気がするね」

「ならしばらくはここ(ギルド)の2階で寝泊りでもしていけ、帰る帰らないどっちにしても今は出入りの規制が厳しいことになってるからな」

「あ、そうなんだ。だったら、しばらく寝泊りさせてもらうわ。丁度お金も無いことだしね」

「そうしておけ。というか、本当に雰囲気が変わったな?」

「何ていうか、吹っ切れちゃった……ってところね」


 ビクビクオドオドとか、礼儀正しくしてた彼女だったけど、必要ないって思ったのねきっと。

 それから彼女はギルドマスターから2階の客室の鍵を受け取るとポケットの中に入れて、部屋から出ようとしたけどあることを思ったの。

 そして、思ったからには聞いてみたほうが良いと感じたのね。入口辺りで振り返ると、彼女はギルドマスターに向き直ったわ。


「ねえ、マスター。オレが倒したタートル2匹だけど、どうなるの?」

「どうなるかって聞かれたら、数人がかりで王都から動かして……森とかに廃棄だな――ってまさか」

「森とかに廃棄かー……。マスター、加工できるわけが無い2種類の金属……塊で欲しくない?」

「加工できないのに置いておくのかよ……?」

「棒状にしておけば、いざという時に便利でしょ?」

「………………勝手にしてくれ。あと、後で頭巾とかマントとかいろいろを部屋に持って行くから、それを羽織れ」

「ええ、ありがとう。マスター」


 頭を抱えるギルドマスターを見ながら、彼女は悪戯っぽく微笑むと部屋から出て行った。

 その日の深夜、眠るのを必死に堪えながら壊れた門からモンスターが入ってこないか警戒する衛兵たちに不思議なことが起こったわ。

 なんと、場所の邪魔となっていた巨大な2体のタートルの背中の甲羅が突然姿を消したの。いったい何が起きたのかと驚いたみたいだけど、何が起きたのかは誰にも分からなかったらしいわ。

 それからしばらく経って、冒険者ギルドの職員の武装が強化されたみたいだけど、真相は闇の中ってことらしいのよね。

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