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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
179/496

ロンの語り

※ロン視点です。

 トールとフェニを治してくれた獣人の女を前にそう言って、自分は数日前の出来事を思い出しながら語り始めた。

 3年前、自分の師匠であるハガネ様が死に……トールの祖父であるウーツ様が死に、タイガの父親であるティーガ様がゆうしゃに倒され、フェニの伯父であるクロウ様が散った。

 そして、四天王となるべく修行を積んで来ていた自分たちは中途半端な状態となっていた。

 更には、師匠たちが倒されたことを切欠に、様子を窺っていたであろうある一族が魔族たちにこう言った。


「たかが人間のゆうしゃに呆気無く殺された四天王たちの弟子を、そのまま四天王にしても良いのか?!」


 相手の言葉が魔族たちの中に浸透する期間が早すぎたと言うことと、自分たちがまだ四天王を名乗ることが出来る実力が無かったこと。

 その結果、自分たちがなるはずであった四天王の道は閉ざされてしまった。

 そして……自分たちの代わりに四天王となったのは見たことも無い、魔王様が用意したと言う種族だった。

 いや、自分たちには見たことはないと言うわけではなかった。何故なら、その四天王たちは自分たちの道を閉ざした一族だったのだから……。


 それから自分たちは、4人で修行に励み……力を付けていった。

 けれど、その間に人間の国から進攻を受けたが、それを四天王となった者たちが完膚なきまでに討ち滅ぼし、内実共に実力を見せ付けたのだった。その力に魅せられた魔族たちは何時からか、前四天王は弱かったと思うようになってしまっていた。

 当然、それに対して血の気の多いタイガとフェニは怒り狂ったが、そんな2人を周りは鼻で笑うだけだった。

 それから四天王主体の元で各国に攻め入る準備が始まり、気がつくと2年半の歳月が流れていた。

 自分たち4人は、四天王となったアークと呼ばれるデモン一族と共に森の国に攻め込む一員として割り振られ……前線となる場所に狩り出されていたが……基本的にはオークやゴブリンたちが街々に攻め込むこととなっていた。

 いったい自分たちに何をやらせたいんだ? そう思っていたある日、アークは自分たちに命令を出してきたのだ。


「何か御用でしょうか、アークさま……」

「ヒヒヒッ、やぁ~っぱり、四天王になるはずだったヤツから様付けで呼ばれるってのは良いもんだよなぁ。ヒヒヒッ」

「……御用はそれだけでしょうか?」

「ちっ、お前もあの鳥や虎みたいにキ~キ~と吠えろよなぁ。まあ、用件を言うぜぇ……お前ら4人、豚どもと一緒にヒノッキの街に行って来い」

「それは……一緒に攻め込んで戦えと言う意味でしょうか?」


 ニヤニヤと醜悪な笑みを浮かべながら、アークは自分をバカみたいな者を見るように見るが……あまりにも馬鹿らしいので怒る気はしない。

 そして、どうやら意味は違ったようだ。


「はぁ~? んなわけねぇだろぉ。てめぇらは、獣人にでも化けてよ、コレを街の中層に置いてこれば良いんだよ。ま、テメェらが大嫌いなこそこそとした行動だがなぁ」

「…………これ、ですか? 石のように見えますが……」

「アァ、ただの石……とでも言っておくぜ。それに、ただの石を置いてくるだけなんだから、ほぉんとぉ、奇襲や曲がったことが嫌いなオメェらにはぴったりな仕事だろぉ?」


 そうアークは言うように、自分は……闇討ちや奇襲といった類は苦手で、戦うならばどんな相手であろうとキチンと正面から向き合って戦うのが好きだった。

 そして、それは他の3人も同じようで、やはり曲がったことは嫌いという性格であり……それが災いしたらしく、ここ最近では、他の魔族からはかなり煙たがれているのも自分は気づいていた。


「わかりました。その任務、キチンとこなして来ます」


 そう言って、自分はアークが目の前に出してきた石を受け取った。自分が受け取ったのを見ると、苛立つような素振りを見せない自分にイラッとしたようだが、いつも以上に醜悪な笑みを浮かべていたのが……だいぶ引っ掛かっていた。


 ●


「では行って参ります」

「お~う、行って来い行って来い。俺たちはこの辺りで待ってるからよぉ」


 ニタニタと笑いながら、アークは自分たちに向けて手をヒラヒラと振り、見送りをしていたが……それを見ていたフェニは苦虫を噛み潰した顔をし、トールはタイガの後ろに隠れた。

 人化をした自分たち4人は怪しまれないようにしつつ、ヒノッキへと近づいて行くが……予想通り、見張りをしていたエルフに止められてしまった。


「止まれ! ……見たところ獣人みたいだが、何の用だ?!」

「すまない。自分たちは旅をしている者なのだが……、色々と必要な物が無くなったので、買いに行きたいので中に入りたい」

「おなか、すいた……」

「ウチもちゃんとした食事を取りたいわ」

「旅人か……、本当は中に入れるつもりは無いが……近頃オークやゴブリンが森の中に居るというのに、女が居る中で放り出すのもなんだ。……今回は特別に許可しよう」

「感謝する」

「あり、がと……」

「あんがとな、おっちゃん」

「……まだ129歳だ」


 それぞれエルフの男性に礼を言ってから、自分たちはヒノッキの街に入ることに成功した。

 ちなみにタイガは言動を気をつけたほうが良いと思うが……無理だろうな。

 街の中に入ると、様々なエルフや妖精たちが色々と活動を行っていた。

 防衛のための準備をする者、店で商売をする者、静かに歌を奏でる者……魔族の中でも見られる光景がそこにはあった。

 魔族の街並みしか見たことが無かった自分たちはある意味驚きを隠せず、呆然とそれを見ていたが……ハッとして目的を果たすための行動を開始することにした。

 上へと向かうための坂を上り、世間話に花を咲かせる年配のエルフたちを見つつ、自分たちが珍しいのか時折視線を感じたりもしたが……敵意よりも好奇心を感じていた。


「わた、し……たちと、おなじ……だね」

「……そ、そうだな」

「そんなわけあるわけないわよ。ウチらとあいつらは違うんだから」

「すぐに否定するのは良くないだろう。……彼らには彼らの生活があるのだから」


 魔族以外はすべて倒すもの、殺すものと教わってきた自分たちにこの光景は刺激が強すぎたらしく、トールはポツリとそう呟き、タイガも彼女の言葉に頷いていた。2人はまだ幼いから、考える機会はあるだろう。

 そして、フェニはだいぶ凝り固まっているらしいのか、それとも師匠のせいなのか……相手を見下しやすいようであった。そして、自分はというと、自分たちと彼らにも生活があることを考えることが出来た。

 この任務を終えて、また魔族の国に戻ることが出来たら、自分たちは自分たちの国をどう見ることが出来るのだろうか。そう思いつつ、市場であろう場所へと辿り着いた。


「さて、中層に行く道は……何だ?」

「ねー……ふくろにはいってるものはなに……?」


 中層に行く道を探そうとしたとき、自分たちを見る妖精の存在に気づき……その妖精は近づき、自分に向けてそう言ってきた。

 袋の中……それは多分、アークに渡された石だろう。

 けれど、それを言うわけには行かないと思っていると、顔を青くしながら妖精はなおも話を続けた。


「それはよくないもの……、それはだめ……。ここにいれないで、すぐにすてて……」


 その只ならぬ様子に違和感を感じたのか、店番をしていたエルフ数名が兵を呼びに行くのが見え……自分はまずいと感じ始めていた。

 獣人と名乗ることで中に入ることは出来たが、このままだと自分たちが魔族であることがばれるのは時間の問題だろう。

 ここは逃げるべきか? そう思い始めた瞬間、ゴトリと袋を破って石が落ちた。直後――。


『ヒヒヒッ、やぁ~っぱっテメェらは使えねぇなぁ! ヒヒッ』

「っっ!? ア、アーク……!」

「ま、まぞく……!?」

「ひっ!! え、衛兵はまだなのっ!?」


 醜悪な笑い声が聞こえたと思った瞬間、石の真上に薄っすらと透けたアークが立っていた。

 それを見た瞬間、周囲に居たエルフや妖精は顔を青くさせ、悲鳴が聞こえた。


『おいおい、様を付けろよぉ。まあ、最後なんだからそれは許してやるさ。それに、目的の妖精がすぐ目の前に来てくれたしなぁ~』

「え? や、やだ……こないで、こないで……!」

『つれねぇなぁ。オレはただお前を楽しいところに連れて行ってやろうとしてるだけだぜぇ? さ~ぁ、行こうぜぇ』


 そう言って、アークの幻影が怯える妖精に手を掛けると、その妖精の姿は消えてしまった。

 驚きながらそれを見ていると、アークは周囲を見渡してから、こちらに視線を向けてきた。


『さてと、オレの目的は果たされた。だから、この街にはもう用は無い。それに、お前たちにもな』

「どういう、意味だ……?」

「街にも、ウチたちにも用は無いって……」

「どういうことだ!」

『おいおい、テメェは頭が悪いのか? ロンちゃんた~ちは、おバカちゃんでちゅか~? ヒヒヒッ! ま、理解出来ないおバカちゃんたちに教えてやるよ。テメェらはもういらねぇんだよ。あんな役立たずの元四天王の弟子なんざ、邪魔にもならねぇが、鼻の中で取れねぇ鼻くそほど邪魔なものはねぇんだよ。ヒヒヒッ!!』

「は、はなくそだとっ!!? バカにしてるのか!!」


 沸々と込み上げてくる怒りを代弁するように、タイガが怒鳴り声を上げるが……アークには興味が無いようで、もう既に自分たちの怒りはただの笑いの道具としか思っていないのかも知れなかった。

 そして、衛兵が到着し、自分たちの肩を掴んだ瞬間――石が真上へと飛んだ。


『邪魔だけど、最後は華々しく散ったと魔王様には言っておいてやるよ。ヒヒヒッ! ちなみに華々しくって言うのはどうやってかって言うとだな。こうやってだ――』

「みん、な……あぶ、な……いっ!!」


 石が光ったと思った瞬間、トールが自分たちを抱き締め……覆い被さるようにすると同時に背中の甲羅から広がるようにして、球状の形をした青白い防御壁が自分たちを包んだ。

 直後、ヒノッキの街の中が超高熱の炎に包み込まれた。そして、その余波は自分たちにも届き……死ぬかも知れないと言う恐怖と焼かれる熱さによって汗が一気に噴出した。

 けれど、一番苦しいのは防御壁を張っているトールのはずだった。見ると、防御壁がピキピキとヒビが入り始めているのに気づいた。


「ふぇに、おね……え、ちゃ……とん、で……」

「――っ!! トール……。分かった。ロン、タイガ。ここで助かっても、ウチらはダメだと思うから……あとはお願い」

「え? だ、だめって……どうい――うわっ!? フェ、フェニ!? つ、翼が……!」

「くぅぅっ!! と、飛べぇぇぇぇ!!」


 防御壁からフェニは自らの翼を広げ、焼かれていくのを覚悟しながら……燃えて脆くなっていた樹を突き破り、外へと躍り出た。

 そして、トールの結界壁が砕け散り……フェニの翼が無残に焼けて、自分たちはヒノッキから離れることに成功し……偶然にも朽ちた樹の穴の中へと落ちていった。

 けれど、助かることを喜ぶよりも先に、炎によって死に体となりかけていたトールとフェニを見ていたが……回復薬などが燃え尽きていないかを探すために自分はタイガと共にもう一度ヒノッキへと赴いた。

 そして、そこで……自分とタイガは、獣人の女に出会ったのだった。

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