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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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怪我人

 彼女が案内された場所は、朽ちた樹の根元に出来た洞で近くまで行かないと気づかないような作りになっておった。

 ロンとタイガと呼ばれた2人に促されて中に入ると、中は六畳間ほどの広さであり……その部屋の中心で亀と鳥の少女が居た。


「トール、フェニ、具合はどうだ?」

「最悪、よ……! 自慢の翼は黒こげだし……、手足もうご――っく!!」

「ふぇに、おねえ……ちゃん。無理…………しないで……」


 ロンの言葉に、フェニであろう鳥の少女は怒鳴り声を上げるが……手足が痛かったのかうめき声を漏らし、トールであろう亀の少女も苦しそうにしながらも彼女の具合を心配してるようじゃった。

 トールは12歳ぐらいで、タイガと同じほどの年齢の少女の姿をしているが、背中に背負っている甲羅にヒビが入っており、更には甲羅周辺が焼け爛れており顔を脂汗に滲ませておった。

 フェニのほうは17歳ぐらいの女性の姿をしており、ロンと同じ年齢だろうと彼女は考えたが……それよりも背中の紅い翼の所々と手足が黒ずんでいるのは、亀の少女と同じように重度の火傷なのじゃろうな。

 そして、戻ってきた2人に突っ掛かりつつも安堵すると同時に、そこに混ざった彼女に気づいて警戒の色を滲ませておった。


「あんた……、だれ、……よっ!」

「だ、だれ……? タイガ……」

「フェニ、トール落ち着け。回復薬や食料は手に入らなかったが、この獣人が何とかすると言って来たんだ」

「そん、なの……方便に決まって……るじゃ、ないのッ! だって、ウチらは」


 敵意を込めた瞳でフェニは彼女を睨みつけていたが、彼女はその後に続く言葉を続けた。


「アタシも助けたい人は助けますし、助けたくない人は助けるつもりはありません。たとえ、人でも獣人でも、エルフでも妖精でも……魔族でさえも」

「やはり、気づいていたか……」

「はい、察するにあなたがた4人は……先代の四天王である魔族の関係者。ですよね?」


 ロンが静かにそう呟くと、彼女は頷き……自分が思ったことを問い掛けた。

 ロン以外の3人は驚いた顔をしていたが、彼女の問いに静かに頷いた。


「先代であったとしても四天王は四天王のはずなのに、こうなっていることが気になりますが……このままだと手遅れになってしまいそうなので、強制的に行わせていただきます。ワンダーランドッ!」

「さわ、らないでよ……獣人、風情が……って、え? い、《異界》?」

「か、かわい……え、か……かわった?」

「ななっ!? 何だよそれっ!!?」

「これは……」


 4人の戸惑う声を聞きながら、《異界》から呼び出したワンダーランドを大扇に変化させるとワンダーランドの機能である収束を使い、《聖》と《水》の属性を魔力に与えると人が1人スッポリ入りそうな大きさの水球が出来上がり……トールとフェニに向けて飛ばしたんじゃ。

 怪我で身体が動かないこともあってか、彼女たちは水球に呑まれて行き……残った2人は驚きを隠せなかった。

 というよりも、タイガにいたっては攻撃したと勘違いしたのか、収まりつつあった敵意を再び最年少させおった。


「テメェ! いったいどういうつもりだ!! やっぱり、オレたちを殺そうと――!?」

「…………待て、タイガ」

「何だよロン! 止めるな!!」

「違う、水に入れられた2人を見ろ」

「見ろって……、こいつに水責めされて殺される2人を見ろって言うのかよっ!!」


 タイガは切れ気味に叫び、それでも見るように言われたロンの言うとおりに2人を見ると……目を疑った。

 水の中に居る2人の身体に変化が起きていた。

 甲羅周辺が焼け爛れていたトールは、甲羅のヒビや溝に光が集まって行くとヒビが無くなっていき……焼け爛れていた背中もシュワシュワと泡を立てながら、綺麗な肌に戻っていきおった。

 それと同時に、何処か苦しそうにしていたその表情は徐々に穏やかな顔になり始めたのじゃった。

 そして、変化が分かりやすかったのは隣の水球に入れられたフェニじゃった。

 彼女の火傷で黒ずんだ両手足が時間を逆再生するかのように、徐々に色艶を取り戻し始め……焼け焦げてしまっていた紅い翼も元の姿へと戻り始めて行きおった。

 まあ、焼け焦げた場所は元通りというわけには行かなかったが……毛が抜けて剥げた翼にはなっておらんかったな。

 ……そして、包み込んでいた水が弾けると、そこには唖然と自分に何が起きたのかと分からない表情をした2人が居った。


「ト、トール……フェニ、大丈夫……なのか?」

「う……うん、ズキズキ痛かった背中が……痛く、無くなってる」

「ええ、多分……これは回復作用のある水だったの? 傷が、全部治ってるし……」

「そうか……。良かった……。感謝する、2人を治してくれて」


 恐る恐る訊ねたタイガに信じられないといった表情をするトールとフェニ、それを見ながら息を吐いてから彼女に頭を下げるロン。

 その反応にむず痒さを感じつつ、彼女は手を前に出しながら手を振った。


「いえ、気にしないでください。それに……こちらとしても嘘偽りなく話を聞きたかったので」

「……分かった。自分たちが何故ここに居て、あの街がああなってしまったのかをちゃんと話す。……だが、これだけは知っておいてくれ」


 自分たち4人は、仲間に裏切られた。――そう、ロンは彼女に告げ、話を始めたのじゃった。

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