お告げ
彼女に自身の存在がなんであるかを言い当てられた妖精王ティタは、一瞬驚いた顔をしたがすぐに柔和な笑みを浮かべたのじゃった。
儚げでありながら、全てを包み込むような温かくも優しい……まるで月のような笑みであった。
その証拠に、隣でホバリングを続けていたフェーンがその微笑みに、骨抜きにされてヘナヘナと地面に落ちていきおった。
「良くお分かりになられましたね、ゆうしゃアリス様。あなた様の仰るとおり、私は妖精王。すべての妖精の祖であり、親です。生まれてから随分経ちましたが……大きくなりましたね、フェーン。あなたは初めてだと思いますが、私は覚えていますよ。あなたたちのことは」
「…………はっ!? はいっ、はじめまして、よーせーおーさまっ! その、お……おあいできてこーえーですっ!」
「ふふっ、そんなに畏まらなくても平気ですよ。それにあなたが本当は口が悪いと言うのも知っていますし」
「あ、あぅ……。す、すみません……」
「いいえ、平気ですよ。口が悪くても、本当は仲間思いがあなたであると私は知っていますから」
「~~~~っ。お、おまえなにみ――……~~っ」
ティタの言葉で、フェーンは顔を真っ赤にしながら照れており、それを彼女は微笑ましく見ておった。
その視線に気づいたのか、フェーンはギロリとした瞳で彼女を睨みつけたが……妖精王の手前、突っかかることは出来ずヤキモキしているようじゃった。
このまましばらく見続けたいという思いもあったが、それだと話が進まずただ時間が過ぎるだけだったので、こちらから話をするべきだと彼女は考えて彼女は口を開いた。
「それで、ティタ様。アタシを呼び出した理由をそろそろ教えてもらえないでしょうか?」
「そうでした。ちゃんとした意識を持った妖精や人がここに来るのはだいぶ昔のことで少し浮かれていたみたいです。申し訳ありません」
そう言って、ティタは彼女に向けて再び頭を下げたのじゃった。それも今回は謝罪という意味を込めての……それを見たフェーンは信じられないと言ったような表情をしておった。
まあ、自分たち妖精の父であり母である妖精王がただの獣人に頭を下げておるのじゃから当然じゃな。
そして、頭を上げると、ティタはここに呼び出した理由を語り始めたのじゃった。
「それで、呼び出した理由ですが……、森の神からの言葉を直接アリス様に伝えたかったからです」
「森の神の言葉? ……神託的な何かですか?」
「はい、ご神託的な何かです。元々森の神は世界樹に姿を変えているので、話があるときは私に話を通して、妖精に神託の内容を伝えてもらうというようになっていますが……ことがことだと思いましたので、今回は呼ばせていただきました」
「……何だか今サラッととんでもない言葉が出ましたが、聞き流すとして……ことがこと……ですか?」
世界樹=森の神という事実は聞かなかったことにしつつ、彼女は神託の内容を聞くことにしたのじゃった。
「私に与えられた神託は以下の通りです。『ようせいのめ、まもれ。あくま、きをつけろ。くるったら、ためらうな』です」
「よ、ようせいのめ? あくま? くるう?」
「……森の神は短い言葉でしか、神託を出しません。ですが、今までの神託は的確だったのです。ちなみに妖精たちには、分かり易いように私が翻訳してから伝えておりました」
「ああ、だからそんなに言葉が上手くなってるんですね……」
言っては何だが……おバカっぽい妖精の喋りかたではなく、ティタは普通の人間やエルフといった者たちと同じくらいに言葉を喋っているが、そんな理由があったことに彼女はティタの努力に涙したのじゃった。
そう思っていると、ティタはその苦労を分かってくれたことに若干ながら喜びを感じながら、話を続けた。
「私が翻訳したところ、森の神は……妖精の目である妖精を護ること、そしてあくまに気をつけるように、最後に……もしも自分が何らかの理由で狂った場合は、躊躇うこと無く倒して欲しいと願っているみたいです」
「倒して欲しいって……、この国でも【叡智】のクロウが行っていた地脈の汚染に近いことをする人物が居るってことでしょうか……そして、それがあくま……? あの、それともうひとつ……」
「はい、何でしょうか?」
「妖精の目である妖精と言いましたが……それってどういう意味でしょうか?」
「ああ、地上に上がった妖精たちは覚えていないのでしたね……。フェーン、少し宜しいですか?」
彼女の疑問に答えるべく、ティタはフェーンを呼び寄せると、固まっていた彼だったがギクシャクしながら近づいていったのじゃった。
そんな彼を見て、ティタはクスクスと微笑んだ。
「そんなに緊張しなくても良いですよ。少し力を使ってもらうだけですから」
「はっ、はいっ!」
けれどやっぱり緊張しているらしく、フェーンは声を裏返しながら返事をし……緑色の光を放ち始めた。
「アリス様、今フェーンは緑色の光を放っていますよね? それは、この子がこの地で生まれたときに私がその色で光るようにしたからです」
「はぁ……」
「えっ!? そ、そーだったんですかっ!?」
「はい、そうだったんです。それで、私は光の色でそれぞれの役割を分担することにしました。緑は妖精の足、赤は妖精の手、青は妖精の口、黄は妖精の耳。そして、その色の違いで彼らはそれぞれ得意な分野を分けるようにしました」
「妖精の足は、妖精の靴との親和性を高めるとか……ですか?」
「はい、良く分かりましたね。他にも妖精の手は鍛冶などの手作業で何かを作る相手の手助けに、青は味覚を上げたりといった効果があります」
要するに、妖精とエルフたちが共存をするために創ったものということだろう。
では、妖精の目は何なのだろう? そう思っていると、妖精の目の話が始まったのじゃった。
「妖精の目の役割を持つ妖精は、何でも見通すための力を持っています。ですが、他の能力は他の妖精たちから劣っており、その価値に気づいておりません。そして基本的には何処か諦めたようになっています」
「それって……」
「まさか……」
「はい、フィーンも妖精の目を持つ一人です。ですが、あの子は身近に良い友が居たのでそこまで諦めたようすは無くて、安心しました」
そう言うティタの顔はまさしく母親といった表情をしており、妖精たちは彼女の子供であることを実感したのじゃった。
「それで……他の妖精の目を持つ妖精はどうなってるのでしょうか? その口ぶりからして、妖精の目たちがどうしているのかを見ることが出来るんですよね?」
「別に隠す気は無いので、見えると言いましょうか……ですが、フィーン以外の妖精の目を見ようとすると……闇しか見えないのです。まるで、何かに阻まれているかのように……」
「……ヒノッキの妖精の目はどうなってるか分かりますか?」
彼女がそう聞くと、ティタは静かに首を振るだけじゃった。
正直、ヒノッキがどうなっているかは分からないが、ロクでもないことになりそうな予感がしてたまらないと彼女は思ってしまった。
しかし、行ってその目で確かめないといけないと彼女は思い、ティタを見たのじゃった。
「……アリス様、フィーンを、この国をどうかよろしくお願いします」
「…………何処まで出来るかなんて分かりません。ですが、やれるだけやってみます」
そう彼女は言うのじゃった。そして、話を終えて……その場から立ち去るさいに、蜘蛛の巣柄とは反対の振袖に蝶の翅の柄が追加されたのは言うまでもないことじゃった。
やばい、あたまかいてんしていない……zzzZZZ