地底での対面
暗闇の中、彼女は赤い蜘蛛の糸にプラーンと吊るされながら、ゆっくりと下に向かって降りておった。
その隣では、ケニーが逆さまになりながら彼女と同じようにゆっくりと降りておった。
ちなみに何故分かるかというと、妖精が羽ばたいていると薄ぼんやりと光るらしく、ちょっとした懐中電灯代わりじゃった。
そんなことを考えつつ、彼女はケニーに色々と尋ねることにしてみた。
「あの、これはあとどれくらいで着きますか?」
「そうねぇ、アナタのスピードだと……まだしばらく掛かるわねぇ。というか、その服面白いわねぇ……胴回り辺りの場所から糸を勝手に吐き出して、天井まで届かせるなんてねぇ」
「ケニーさんが力を渡したのですから、そうなるって分からなかったのですか?」
「分かるわけないわよぉ。下手をすれば、その服があれば何でもなるって気がするしねぇ」
「そ、そうですか……」
「そうよぉ……っと、もう少し急いだほうが良いし、そこの妖精ぃ。ちょーっと、彼女の靴に力を与えてくれないかしらぁ?」
「はっ、はいっ。わ……わかりましたっ!」
フェーンは格上の相手の命令に行儀良く従っているが、顔は凄く嫌そうという器用な真似をしておったが……彼女を見ながら、力を込めたのじゃった。
直後、妖精の靴に光が点り始め、身体から重力が無くなって行くのを感じ始めたと同時に……。
「じゃあ、切るわねぇ」
「え? 切るって……まさ、かぁぁぁぁぁぁっ!?」
ケニーの言葉に汗を垂らした彼女じゃったが、直後背中から飛び出していた蜘蛛糸が切られ……浮遊感と共に一気に下に向かって落下していったのじゃった。
自重が無くなっていって、軽くはなっていたとしても一気に落ちるのは怖いものは怖いので、悲鳴が周囲に響き渡りつつ、彼女は必死に何とかしようとしておった。
ん? カーシの街では普通に飛び降りてたじゃないかじゃと? まあ、そうなのじゃが……正直、底がどうなっているのか分かるのと分からないのとでは意味が違うじゃろ?
要するにじゃ……、お主も夜中にトイレに行きたくなったとして、灯りが点っているのと点ってないのでは怖さは変わるじゃろ? つまりそういうことじゃ。
「ワ、ワンダーランドッ、お願いっ!」
「ぶう! ぶーーーーぅ!!」
徐々に減速し始めて行く中で、彼女は最後の一手としてワンダーランドを《異界》から呼び出すと、即座に空気を吸い込み始めて風船みたいに膨れ上がると……それに蜘蛛糸を張り付け、速度を調整してゆっくりと暗闇の底へと下りていったのじゃった。
しばらくして、するすると巧みに蜘蛛糸を下ろしながら下に降りて来たケニーと合流したが、特に何も言わなかったがどんな表情をしているのかは良く見えなかったのじゃった。
それからゆっくりとだが、先程よりも早く下へと下りておった3人じゃが……どう考えても樹の根元をとうに越して、地底へと下りているように彼女は感じていた。
「あの、まだ着かないんですか? それに、感覚的に地底……ですよね、いま通っている場所は……」
「あらぁ、良く分かってるじゃないのぉ。今はアナタたちが居た妖精の隠れ家から見て、ちょうど反対側辺りまで下りてるわぁ」
「反対側って……確か、かなり高かったですよね、あの樹……それを半分も行っていないところから、蜘蛛糸を切ったと言うのですか?」
「そぉだけどぉ……、アナタなら大丈夫そうに見えたのよねぇ。それに、そこの子から靴に力を与えてもらっていたから何とかなったでしょぉ?」
クスクスと笑うケニーじゃが、正直死ぬ思いをしたのだから、笑いごとではなかった。
けれど、明赤夢から受けたストレスの仕返しと考えるならば、文句は言えそうに無かったのじゃった……。
そう思っていると、下のほうに広い空間があるのに気づいたのじゃ。
きっとそこに彼女を呼んだ人物が居る。そう考えながら下りて行くと、地底湖のような場所へと出たのじゃった。
湖の底が薄く光っており、水面は透き通り……水中が良く見えておった。
「なんだろー……すごく、なつかしい?」
「きれい……」
呆然と呟くフェーンに声を聞きながら、彼女はこの場所の美しさに見惚れつつ、地底湖を見ているとあることに気がついたのじゃった。
薄っすらと光る明かりは、藻なのか良く分からない種類の水草に張り付くようにして透明な球が幾つも光っているものだったのじゃ。
それを目を凝らして良く見てみると……。
「あれは……妖精?」
「そうよぉ、ここで妖精は生まれて、地上に上がっていくのぉ。まぁ、殆どの妖精は覚えていないんだけどねぇ」
「えっ!?」
驚くフェーンを見ながら、妖精の故郷なのかと納得しつつ……少なからず彼女は自分を呼び出したのが誰だというのが何となく予想し始めておった。
そんなとき、ケニーが地底湖の真ん中辺りに存在した小島を指差したのじゃ。
「とりあえず、あそこに行ってくれないかしらぁ? そこに、呼び出した相手が待ってるからぁ」
「分かりました。あの、ケニー様は?」
「ケニーで良いわよぉ。わたくしは真上まで移動して、そのままスルスルっとねぇ」
「そうですか……。分かりました。ワンダーランド、お願いします」
風船代わりとなっているワンダーランドにお願いすると、鳴きはせずに返事をするようにゆっくりと小島に向けて降下していったのじゃった。
ちなみにケニーは流石下半身は蜘蛛と言うべきか、カサカサと逆さになりながら天井を移動しておるのが彼女の目に留まりおった。それを見て、久方振りにファンタジーだなと心が実感したのじゃった。
そして……小島に近づいて行くと、そこには女性が1人立っているのに気がついたのじゃ。
腰まで届くウェーブがかった金髪に、古代ギリシャ人女性が着ていそうな白い一枚布を纏った……蝶の翅を持つ女性。
その女性を見た瞬間、フェーンがなんだか衝撃的な顔をしているが落ちずに器用にホバリングしておったので、手を貸さなくても大丈夫みたいじゃった。
彼女が小島へと降り立つと、女性は彼女を濃緑色の瞳で見つめ……頭を下げた。
「お待ちしておりました、ゆうしゃ様。お初にお目にかかります、私はティタと申します」
「初めまして、アリスです。お招きありがとうございます、妖精王ティタ様」
そう言って、彼女は蝶の翅を持つ女性……ティタへと頭を下げたのじゃった。
古代ギリシャ人女性とか沙●さんが来ている、あの衣装ってキトンって種類なんですね。




