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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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子供は何をやっても許される……というわけではない。

「初めはここ数年、エルフしか見かけなかったから獣人は珍しいって思ったんだけどねぇ、よくよく見れば神使だって気づいたから声をかけようって思ったのよぉ。でも、会ってみて分かったけど、アナタって神使の身体を借りてるだけなのねぇ」


 驚く彼女をマジマジと見つめていたケニーじゃったが、珍獣を見るかのような瞳でそう言ったのじゃ。

 その言葉に色々と文句を言いたい彼女じゃったが、一応聞いておくべきことは聞いてからにしようと何とか踏み止まることが出来た。


「あの、聞きたいのですが……、あなたが言う神使とは神の使いという意味の神使で良いのですか?」

「えぇ、そうよぉ。その神の使いって意味の神使よぉ。そしてわたくしは、森の神に仕える蜘蛛の神使なの。で、アナタが借りてるその神使はぁ……」

「獣の神の狐の神使。ですね」

「みたいねぇ……。それで、アナタはどうして神使の中に入ってるのかしらぁ? ……って、どうしたのよぉ? えぇ? どうしてぇ? ちょっと待ちなさいよぉ!」


 いぶかしむように彼女を見ていたケニーが急に誰かと会話するようにし始め……、段々と声が荒げて行き始めたのじゃった。

 その光景は彼女自身、しばらく前に獣の神が人の神と話をしているのと同じように見えたので、事実誰かと会話をしているのだろうと思っておった。

 そして、声は寝室には届かないようじゃったが、小さい穴には良く響くらしく……扉の隙間を通ってフェーンが機嫌が悪そうにしながら現れたのじゃった。


「おい、おまえっ! うるさっ――――なッ、なななっ!?」

「すみません、フェーン。五月蝿くしすぎて……どうしたんですか?」

「はぁ? 連れて来いってぇ? だから、どうして……って、アナタの子供に見つかったんだけどぉ?! えぇ? その子も一緒に連れて来ると良いってぇ? アナタ……覚えておきなさいよぉ?」


 恨みがましい声で、ケニーは相手との会話を終了し、面倒くさそうに彼女たちに向き直ったのじゃった。

 そして、フェーンは振り返ったケニーへと力いっぱい頭を下げた。


「くっ、くくっ、くものじょーおうさまっ!? なんでこんなところにいるのですかっ!?」

「んー……ちょーっと、懐かしい気配に釣られてやって来たって所かしらぁ? あと、アナタたちの親がそこの子を呼んでるんだけど、一緒に来てもらえないかしらぁ」

「ななっ!? な、なんでこいつがっ、よーせーおーさまにっ!?」

「行けばわかると思うわぁ。ってことで、ちょっと着いて来てもらえないかしらぁ? っと、アナタ、ちょっとその服見せてくれなぃ? そろそろうっさくて仕方ないのよぉ……」

「明赤夢をですか? 脱げないので、見るだけなら……って、五月蝿い?」


 いきなりそう言われて、彼女も戸惑いかけたが別に危害は無いと考えつつ、ケニーに服が分かるように見せていた。

 すると、突然ケニーが指先から糸を飛ばし、振袖へと命中させたのじゃった。

 突然のことで驚いた彼女じゃったが何か意味があるのだろうと思いつつ、ジッと見ていると……振袖の蜘蛛糸が掛けられた箇所に蜘蛛の巣の柄が貼り付くように浮かび上がったのじゃった。


「この鎧みたいな服だけどぉ、神使に頼めば力の一部を入れてもらうことが出来るみたいよぉ。で、今わたくしが力の一部を与えたから、その証拠に蜘蛛の巣の柄が入ったのよぉ」

「は、はあ……」


 いきなりのことで驚いたが、確認してみようと考えて彼女は明赤夢をジッと見てウインドウを表示させると……ケニーの言うとおり、特性に<蜘蛛糸作成>と<蜘蛛毒生成>が追加されておった。

 そして、いきなりくれたのはありがたいのだが……どうしてくれたのだろうと疑問に思っていると、面倒臭そうな表情をしながらケニーが明赤夢を指差したのじゃった。


「知ってると思うけど、アナタのその鎧みたいな服……意思があるわよぉ。で、わたくしが会話を行っている最中にも『ちからよこせちからよこせ』って耳元で囁き続けてたの……かなり頭が痛くなったわぁ……」

「あー……その、すみません」

「まったくよぉ。わたくしだから良かったけれど、他の神使だったら怒ったりするのも居るはずだからぁ……ちゃんと躾なさいよぉ」

「はい……、頑張ります……」


 ある意味生まれたばかりの子供といえば子供じゃが、それをしっかりさせるのは自分であると彼女も再認識させられたのじゃった。


「まあ、とりあえずアナタに会いたいって人のところに行こうかしらぁ。準備は大丈夫?」

「あ、大丈夫です。フェーンも良いですか?」

「いっ、いーにきまってるだろっ! つーか、オレにさしずするなーっ!」

「いいみたいねぇ。それじゃあ、ついてきてくれるかしらぁ? あ、蜘蛛糸は天井に留めたほうが良いわよぉ♪」

「へ? きゃっ!?」


 クスリとケニーが笑った直後、彼女たちの周囲の床が突然穴を開けて、いきなりのことで驚きながら彼女は穴へと落ちて行ったのじゃった。

 その直後、穴から赤色の糸が飛び出し、天井へとベタッと張り付いたのじゃった。きっと穴の下では、どんな体勢かは知らぬが、明赤夢から蜘蛛糸を出して、ゆっくりと降りている彼女とそれを見て笑うケニーが居ることじゃろうな。

どんな声色かは分からないけれど、耳元で「ちからよこせ」と言われ続けるとイラッと来ますよね。

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