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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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妖精の隠れ家

「……なるほど。つまり、妖精の靴でここまで高く上るには妖精との信頼が必要で、それが足りなければ上ることは出来ないけど、上ったら精一杯の御持て成しをする。それがこの妖精の隠れ家ということですね?」

「はい、それで合っています。ちなみにこれらは妖精が用意してくれているらしく、見つけるのも本当に偶然らしいんです。わたしたちもこれが初めてで、正直驚いています」


 アンの説明を聞いて納得しながら、説明をしていた当のアンでさえソワソワと落ち着かない様子じゃった。

 ちなみに彼女の記憶にはこれに良く似たマヨイガだったかマヨヒガという、民話が何となくあったのを思い出したが、きっとそんな感じなのだろうと思うことにしたのじゃ。


「あー……、パサパサした干し肉だけかと思ってたけど、ちゃんとした果物が食べれました……」

「これは……あまり見たことが無い木の実ですが、美味しいですね」

「こっちのくだものもおいしーぞっ!」

「ええ、美味しいですね。まったりとして……初めて食べる食感です」


 イスに座り、彼女たちはテーブルに置かれた器に盛られた果物を食べながら、それらを話題に花を咲かせておった。

 ちなみに盛られていた果物は赤色の果肉をしたキウイフルーツ、紫色のイチジク、桃色のアケビ、色取り取りのベリー類。そんな感じの果物じゃった。

 ああ、味のほうはお主の母に効いてみたらよいぞ。

 そして、全員がその味に舌鼓を打ち、腹を満たすと彼女たちは休息を取り始めたのじゃ。

 ちなみにお風呂のほうはロワが一番乗りして行きおった。


「そういえば、ここからヒノッキまではあとどれくらい掛かるんですか?」

「そうですね……地図なんて物は無いので、目安ですが今日と同じ速度だと……明日の朝に出れば、夕方には到着すると思います」

「そうですか……すみません、アタシが遅いせいで」

「いえ、アリス様は速いほうですよ? 正直、妖精の靴を履いての行動が2度目であるだなんて信じられないくらいです」

「はい、わたしたちでも上手くなるのには1年はかかりましたし……」


 アンの言葉に驚く彼女と、当時を思い出してガクリと項垂れるトウ。

 そして、予想以上に上手かったのが気に入らなかったのか、口に果汁を付けたフェーンはプイッと顔を逸らしたんじゃ。


「ふんっ、あれだけのことできてとーぜんなんだからなっ! おまえなんて、うまくないんだからなっ!」

「ダメですよ、フェーン。こういう言いかたは他人を傷つけると、昨日も言ったじゃないですか」

「うっ……、べ、べつにいいだろ! べーー!」


 顔を赤くして、フェーンは逃げるようにその場から逃げ出したが……とりあえず、妖精用の小さい寝床に篭ったのじゃろうな。

 そう思いつつ、アンとトウの2人と会話をしていると、ロワが風呂から上がったので今度は彼女が入ることとなったのじゃった。

 浴室に入ると、室内は樹で造られているはずなのに、湿気が篭ること無く……それどころか、樹が削られた湯船にはなみなみと温かいお湯が満たされておったのじゃった。


「ほ、本当にお風呂ですね……」


 驚きながら、手を湯船に漬けてみると……入浴に適した温度であることが分かったんじゃ。

 カーシの街でも、身体を洗う方法といったら身体を拭くというものだったので、久しぶりのお風呂に胸がときめいていたのじゃが……この明赤夢をどうすれば良いのかと考えていると、突如胸元に吸い込まれるようにして明赤夢が姿を消したのじゃった。

 何が起きたと思いつつ、胸元を見ると……赤い珠がついた首飾りが首に掛かっているのに気がつき、風呂に入るときなどはこうなるとウインドウに書かれていたことを思い出したのじゃった。

 どういう原理なのかはその際、無視するとして……彼女は久方振りのお風呂を満喫するのじゃった。


 樹を削って作られたであろう桶に湯を取り、頭から被り汗を流し……ゆっくりと湯船に浸かり、はふぅっと息を漏らした。

 いったい何処から湧いているのかは疑問には思ったが、甘い花の香りと共に湯に浸かった身体から一日の疲れが癒えて行くのを感じつつ、目を閉じてゆったりとしておった。

 そんな中で、彼女の耳にカサリという何かが這う音が聞こえたのじゃ。それと同時に彼女をマジマジと見る視線……けれど、敵意は感じられない。

 彼女はゆっくりと目を開け……、視線を感じたほうをジッと見て、微笑んだのじゃ。


「あの、出来れば皆さんが寝静まってから、部屋に来てもらえませんか?」


 彼女がそう言った直後、何処かから息を呑む気配がし……カサカサとその気配は何処かに去って行くのを彼女は感じたのじゃった。

 全員が寝静まってから、騒がしくなるのかと思いながら、彼女はゆったりとお風呂に浸かるのじゃった。


 ●


 全員がお風呂に入り終えて、その日の汗を流し終えたあと……5人は眠るべくそれぞれ寝室へと歩いて行った。

 ちなみにこの妖精の隠れ家には眠るための部屋はかなりあるようで、1人1室にしても大丈夫じゃった。


「それではアリス様、おやすみなさいませ。明日も頑張りましょう」

「はい、おやすみなさい。アン様、トウ様、ロワ様。フェーンもおやすみなさい」

「ふんっ!」


 彼女の言葉に返事はしないけれど、聞こえているらしくフェーンはプイッと向こうを向いて寝床である小さい穴の中へと入っていった。

 それらを見届け、彼女も寝室に入ると……これまた、だれが用意したのか分からないがベッドが置かれておった。

 けれど、彼女はそろそろこれらを用意した存在に会うことになるだろうと確信めいていると……天井からカサカサという音が聞こえ……、しばらくすると部屋の天井が叩かれたのじゃった。


「お待たせしました。ここにはアタシだけなので、入っても大丈夫ですよ」

「あらぁ、ご親切にどうもぉ……よいしょっとぉ」


 そう言って、天井の主は艶かしい声を出しながら、彼女の部屋へと降りてきたのじゃった。

 どんな人物なのだろうかと思っていた彼女じゃったが、ある意味予想外な存在に目を点にしおった。

 なぜなら、いま彼女の目の前に立っているのは……。


「ア、アラクネー?」

「あらぁ、珍しい名前を知ってるわねぇ……。初めましてぇ、森の神の神使のケニーよぉ。うふふ」


 妖艶な笑みを浮かべながら、ケニーと名乗った女性の身体は……上が人間で、下が蜘蛛じゃった。

神使については追々と?

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