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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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妖精の靴に慣れよう

 洞から出ると、木葉の間から光が洩れて、此処が外であることを彼女は理解したのじゃった。

 そこは枝葉が茂っており、所々に蔦が垂れており……チラリと下を見ると、網が張られておった。

 ちなみにその下は落下したら命が無いほどの高さじゃったが、イメージで言うとかなり危険なアスレチック場といった感じかのう。


「アリス。此処は歳若いエルフたちが妖精の靴を練習するための場所だ。とは言っても、ここ数十年は歳が若いエルフは産まれていないから、鈍った身体を鍛える者たちの修練場となっているがな」

「なるほど……。案内ありがとうございます、ティア。それで、妖精の靴はどうやって使うのでしょうか?」


 手に持った妖精の靴を見ながら、彼女はティアにそう問い掛けると……「履けば良い」とだけ言われたのじゃった。

 あまりにも簡単な一言だったので、少しだけ気になりつつも、言われたとおり彼女は妖精の靴を履いた。

 すると、ブカブカだった妖精の靴は、まるで彼女の脚にフィットするようにキュッと締まり、ロングブーツのようになりおった。

 ファンタジーらしい謎技術に驚いていると、不安な表情をしたフィーンが近づいてきたのじゃ。


「アリスー……。フィン、うまくできないからケガしちゃったらごめんね……」

「大丈夫です。フィーンが失敗しても、アタシが何とかしますから」

「そうだぞ、フィーン。怖がってたら、アリスも心配してしまうから、腹を括るんだ」

「うー……」


 心配そうな顔をするフィーンをティアが励まし、少しでもやる気を出させようと頑張っていた。

 その間に、彼女は一度自身のアビリティを設定しなおすことにしたのじゃ。


 ~~~~~~~~~~~~


 《魔神拳》

 《魔法特性・神》

 《鑑定・極》

 《神世錬金術》

 《魔力循環効率化・極》


 ~~~~~~~~~~~~


 とりあえず、この設定を出来るだけ身軽にするように変更してみたのじゃ。


 ~~~~~~~~~~~~


 《超身軽》

 《魔法道具順応・極》

 《精霊・妖精の親友》

 《平衡感覚安定・極》

 《適応能力・全地形》


 ~~~~~~~~~~~~


 こんな物で良いだろうと考え、一人頷いていると……覚悟を決めたフィーンが近づいてきた。

 そして、恐る恐る彼女の履いている妖精の靴に触れた。すると、妖精の靴にぼんやりと光が宿り始め……、彼女の足元がゆっくりと軽くなり始めたのじゃ。

 すると、足元が軽くなり始めたとしても……全体のバランスが取れていない状態だったからか、グラッと彼女の身体が揺れて、一人バックドロップをしてしまうこととなった。


「ア、アリスーッ?! ご、ごめんね。ごめんねー……」

「アッ、アリスッ!? だ、大丈夫か!?」

「あたた……だ、大丈夫です。フィーンもそんな顔をしないでください、可愛い顔が台無しですよ?」

「で、でも、フィンのせいでー……」

「いいえ、今のは行きなりだったことと、アタシが慣れていなかったと言うことが原因です。それで、フィーンに聞きますが……妖精の靴に宿った光は靴だけにしか広がらないんですか?」


 今にも泣きそうなフィーンの頭を指で撫でながら、彼女は優しくそう訊ねおった。

 撫でられるのが好きなのか、フィーンは目を細めて気持ち良さそうな顔をしていた。

 そして、彼女の問い掛けにフィーンは首を振った。

 ……つまりは全体に行き渡せることが出来るということじゃな。


「けどー、ぜんたいをひからせたら、あまりかるくならないよー……?」

「大丈夫です。むしろ、最初は全体にかけたほうが良い気がしますし」

「だったらやるよー? それに、しんぱいだからフィンもいっしょにのるねー」


 そう言って、フィーンは彼女の肩に乗ると妖精の靴に力を与えて光らせ始めたのじゃ。

 その光は徐々に靴だけではなく、身体全体に行き渡らせ始め……靴だけを覆っていた光よりも薄ぼんやりとした光が彼女の身体を覆いつくしたんじゃ。

 すると先程感じていた、足元から重さが抜ける感覚よりも弱いけれど、全体が軽くなる感じを彼女は覚えた。

 それを感じにながら、肩に乗ったフィーンを見ると心配そうに彼女を見ておった。そんな彼女に優しく笑い掛けてから、彼女は練習のために軽くトンと足元を蹴った。直後、彼女の身体はゆっくりと空へと浮き上がりはじめた。

 浮き上がり始めた身体は、2メートルほどの高さまで上がるとフワフワとついさっきと同じような速度で跳び上がった場所に下りていったのじゃ。


「こんな感じになってるんですか……、まるで月に立っているみたいな感じでしょうか?」

「と、とんだー……。でも、ぜんぜんだったよねー……」

「いいえ、そんなことはありませんよ、フィーン。今のはアタシが弱く跳んだからです」

「そんなことないよー……、フィンがくつのあつかいがへただからだよー……」


 どうやら今のフィーンには、言葉だけでは足りないようじゃな……。

 そう考えたのか、彼女はティアのほうを向いたのじゃ。


「ティア、ちょっと高く上がっても良いでしょうか?」

「あ、ああ……別に構わないが……あまり上がることは出来ないと思うぞ?」

「大丈夫です。ちょっと上がって戻ってくるだけですから」

「アリスー?」

「フィーン、ちょっとアタシにしがみ付いててくださいね」


 彼女の言葉に、え? と首を傾げたフィーンだったが、すぐにその言葉に意味を知ることとなった。

 何故なら、彼女は脚に力を込めると一気に跳び上がったのじゃから。

 上から下に来る激しい風圧がフィーンに圧し掛かり、それを庇うように彼女の手がフィーンの頭の上に当てられながら、近くにあった枝を踏んで、より高く跳び上がっていった。

 それが2度3度続き、踏まれたカーシの街の枝が揺れるのをフィーンは見ておったが――突如、枝葉越しに差し込む光ではなく、純粋な光が彼女の頬を射したのじゃ。

 その眩しさに、フィーンは目を瞑り……頬に木々の匂いがしない風が靡いた。


「ほら、フィーン。目を開けてください、景色が凄いですよ」

「……え? う、うわー…………!? きれー……」


 彼女の言葉に恐る恐る目を開けると、フィーンの視界一面に青と緑の景色が映った。

 その景色をフィーンは目を輝かせながら見ており、それを見ながら彼女は優しくフィーンの耳元で囁くように言ったのじゃ。


「これは、フィーンのお陰で上れたんですよ。そして、本当なら一気に落ちて行くはずなのに……ゆっくり落ちているじゃないですか。これも、フィーンのお陰です」

「フィンの、おかげ?」

「はい、ですからフィーンも頑張れば妖精の靴と合わせることが出来るはずです。だから、落ち込まないでください」


 優しく笑いかけると、フィーンは目をパチクリさせながらジッと彼女を見ておった。

 最終的に……彼女の言葉にこくりと頷いたのじゃった。

 それを見届けて、彼女はゆっくりと身体を地上に向けて下ろしていった。

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