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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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もう少し詳しく聞こう。

 彼女の問い掛けが終わると、カーシはすぐ側に置かれていた木の枝のような物を彼女のほうへと出してきおった。

 それが何なのか分からない彼女は首を傾げながら、出された物をまじまじと見た。

 見た目は、多分何かの樹を使った物で、その形はまるで音叉といった感じになっており……持ち手のほうが鋭く尖っておった。


「これは通話の枝と言って、この森の国だけでしか通じないが、逆を言えばこの森の国であれば樹に刺すことで何処からでも通話が出来る道具だ。これを使って報告を行って欲しい」

「森の国内でなら何処でも通話し放題ですか? 凄いですね……でも、それ相応の対価とかがあったりするんじゃないのですか?」

「ああ、この枝は通話樹と言う樹から取った枝であるため、良くて3回使えば砕けるようになっている。……そして、オークの手に収まっていた場合は……あなたの判断に任せる」

「アタシの判断……ですか? もしも、助けれそうならば助けても良いと? それが無理なら諦めても良い……そう考えても宜しいのですか?」


 彼女がそう言うと、カーシは静かに頷きおった。

 そして、部屋の扉の前に待機していたエルフにカーシが合図を送ると、頷き扉を開け……そこで待っていたであろう人物たちが姿を現したのじゃ。

 何処かで見たことがあるようなエルフの女性が3人と小生意気そうな妖精が1人……そして、エルフの女性たちには彼女は見覚えがあった。


「貴方たちは……具合は大丈夫ですか?」

「大丈夫です。あのときは助けていただきありがとうございました。アリス様」

「あのままでしたら、きっと自分たちは舌を噛み切って死ぬことを選んでいたことでしょう……」

「ですが、そうならなかったのは貴女様のお陰です。本当にありがとうございました」

「既に会っているだろうが、改めて紹介させていただこう。左から、アン、トウ、ロワだ。そして、この妖精は――」

「オレはおまえをみとめないぞっ! べーーっ!!」


 カーシが紹介しようとした瞬間、小生意気そうな妖精はまるで彼女に突っ掛かるかのようにそう言って、舌を出してアカンベーをして開いたままの扉から飛び去って行った。

 突然のことで目が点になりながら、彼女は妖精が飛び去ったほうを指差しながらカーシを見たが……彼も彼で溜息を吐いておった。


「……すまないな、アリス。彼にはあとで言い聞かせることにする」

「い、いえ、それは別に構わないのですが……あの妖精はどうしてあんなに怒ってるんですか?」

「それについては、あたしが後で説明しよう。と言うか父さん、まさかアン、トウ、ロワとフェーンを同行させるのか?」

「ああ、彼女たちはそれなりに強い、そしてフェーンは妖精の靴との相性が高いから選んだのだが……やはり不味かったか」


 あの出て行った妖精の名前はフェーンと言うらしく、ティアとカーシは色々と話しておった。と言うか、妖精の靴って何じゃろうな?

 どういえば良いのかわからない表情を浮かべていると、ティアが彼女のほうへと振り返り……漸く話を始めたのじゃ。


「待たせたなアリス。ついさっき出て行った妖精だが……彼の名前はフェーンといって、フィーンの幼馴染なのだが……此処だけの話、彼はフィーンのことが好きなんだ。そして、フィーンはそのことには気づいていない」

「そ、それはまた……難儀な」

「アンたちから聞いた話だと、あたしたちを追いかけようとしたみたいだが、門番に抑えられていたらしい……まあ、そのお陰で助かったんだがな」

「……要するに、助けたかったけど助けに行けなくて、その間にアタシが助けたら……フィーンがアタシにかなりベッタリになってしまって、それが気に食わない……ということでしょうか?」


 思った感想をそうティアに告げると、ティアは頷いたのじゃった。

 つまりは、男の子のしっとというヤツじゃなぁ……。困った顔をしながら、彼女はカーシのほうへと向き直り……顔を合わせたのじゃ。

 安易な答えはするべきではないだろう。そう考えながら、彼女は知りえた情報を纏め始めた。


 一つ目の、ヒノッキへの道案内。それはこの3人がしてくれるのだろう。

 二つ目の、どうやって報告するか。それは差し出された通話の枝を樹に突き刺して、通話を行うことが出来るとのことだ。

 三つ目の、もしもオークの手に収まってしまっていたら……。そうなっていたら彼女自身に任せると言われた。


「…………………………………………」

「……どうか引き受けて、もらえないだろうか?」

「…………………………………………申し訳ありません」


 そう言って、彼女は頭を下げた。すると、カーシは困った表情を浮かべ……どうするべきかを考え始めたようじゃ。

 けれど、彼女の言葉はまだ終わってはおらんかった。


「本来のアタシとしては、引き受けるわけには行きません。ですが、冒険者(・・・)としてのアタシなら引き受けても良いと考えております」

「――! ……冒険者として、ですか?」

「はい、冒険者として……です」


 彼女の言葉にハッとしてカーシは彼女を見たが、すぐに怪訝な顔でそう訊ねた。

 もしかしたら、法外な値段を吹っかけられたりするのだろうかと、不安になってしまっていたりするのだろうか。

 事実、そんな感じに不安げにティアが彼女を見ていたからのう。


「ですが、そう難しいことではありません。まあ、依頼を受けて、達成したら……ですがね」

「……分かった。その依頼を出させていただく……、お願い出来ないだろうか?」

「はい、承りました。それではよろしくお願いしますね」


 そう言って、彼女は微笑んだのじゃった。

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