カーシの頼み
「ワガママ言ってないで~……、アリスを解放して本格的に縫われなさい」
「いやだ。だってー。創ってもらったのは感謝してるけど、そこまでされる必要はない! とも言ってるよー?」
「何を言ってるの……? 仮にもわたしはキミを縫った本人。所謂お母さんなんだから、言うことをちゃんと聞きなさい~っ!」
「んーっとー……、もうりっぱなおとなだから、何時までもすねかじりなんてしてらんねえー。だってー」
「何を言ってるんですか~……? ワガママ言わずにちゃんと脱がれなさい~、というか脱がれろ~!」
「だんことしてきょひするー」
変な物を見るかのような表情をしながら彼女は、自分の臍辺りで自らが作った服と討論を行うアルトとその服の言葉を代わりに言ってくれているフィーンを見ておった。
そして、討論では片が着かないと踏んだアルトは実力行使と言わんばかりに、彼女のずり落ちそうになっている明赤夢の襟を掴むと……。
「……えっと、何ですか本当に、この状きょ――ひゃっ!? ちょ、ア――アルトッ! 胸元に手をかけないでくださいっ!」
「脱がれろ~! 脱げ~……、脱ぐのだ~……!」
「わー、すごくゆれてるー。おしあげられてるー、すごいすごーい☆」
彼女の言葉が耳に入っていないのか、アルトは目を光らせながら無理矢理ずり下ろして脱がそうとしておった。
当然、脱げろと思っていた彼女もそうなったら必死に抵抗したのじゃった。
そして、フィーンが言うように明赤夢を引っ張ったり、引っ張り返したりを繰り返しているために、無抵抗の彼女の豊満な胸がプルプルと揺れたり、逆に引っ張られて胸が圧迫されて妙な色気を出していたりしておった。
そんな中で、入口の扉が叩かれていたのじゃが……彼女たち2人にはそれが聞こえておらんかった。
『姫様、長がアリスさんをお呼びです。聞こえていますか? 姫様? アリスさん?』
「ねー、アリスー、アルトー、おきゃくさんだよー? ……聞こえてないみたいだねー。んー……よしっ、フィンが開けて入れてあげようー」
「脱げ~……!」「脱ぎませんーーっ!!」
たまには良いとこ見せないとー。と言いながら、フィーンはうんしょうんしょと閂を押して外し、入口を開けたんじゃ。
そこに居たのは、何時もティアの家の入口で見かける門番のエルフだったのじゃが、扉を開けたのがフィーンだというのに気づき、軽く頭を下げおった。
「うむ、くるしゅーない、くるしゅーない。おもてをあげー?」
「えっと……なんですかそれ? と言うか、フィーン様が開けたってことは、店の人であるアルトさんは何をしてるのでしょうか?」
「アルトー? あそこで、アリスと遊んでるよー♪」
「は……あ……――あぁっ!?」
よく分からない言葉に首を傾げながら、彼はフィーンが指差したほうを見たのじゃ……するとそこには、桃源郷が広がっておった。
ようするに、服が脱げ駆けている彼女が居ったのじゃな。ああ、お主は見たらいかんぞ。まだまだ子供なんじゃから。
とりあえず、その光景を目にしてしまったから……素っ頓狂な声を上げるのも頷けると言うものじゃ。
「「えっ?」」
そして、その声で漸く彼女たちは来客に気づき、声を揃えて2人で声がしたほうを見たのじゃ。
視線を向けられた門番エルフは動けなかったのじゃが……視線は彼女の身体へと向いておった。
結果、彼女の悲鳴が響き渡り、哀れ招かれて入っただけの門番エルフは彼女の拳の餌食となったんじゃ……。
ああ、ちなみに無意識に手加減はしておったらしいぞ。まあ、出なければ視界一面にグロ画像とかが見えてしまう上に、エルフを殺害した罪で投獄されてしまうしのう。
「ああ、痛かった……」
「す、すみません……ティア」
「いや、アリスが悪いわけではないと言うのは、アルトやフィーンから聞いているから、怒ってはいない。むしろ、キミも被害者だしな……」
謝る彼女へとそう言ってティアは、哀れみの視線を向ける。
何故そんな哀れみの視線を向けるのかというと……、彼女の今の服装じゃったのじゃ……。
彼女の今の服装は明赤夢で、それを隠す外套も何も羽織らず……それを見せびらかすかのようになっておったのじゃ。と言うか、羽織ろうとしたら振袖がブンブンと唸って外套を跳ね除けていったのじゃよ……。
そして、彼女の唯一の救いは……アルトの仕立て屋から長の家に向かうまでの距離にエルフがあまり居ないということじゃった。居たらきっと、視線が胸に突き刺さっていたことじゃろうな……。
「来てくれてありがとう。……いや、その格好は何も言うまい……」
「そ、そうしてください……。その、話というのは?」
カーシ街長の鉄の精神に心の底から感謝しながら、彼女がそう問い掛けるとカーシはすぐに本題に入り始めたのじゃ
「うむ、実はオークが街に攻め込んできた日に他の街にも同じような被害が及んでいないかと連絡を取ってみたのだが。スギーやシィノッキのほうは痛手を受けたが何とか撃退することは出来たと聞いたのだが……ヒノッキの街からは何の連絡も無いのだ……」
「そ、それは本当なのか父さんっ! どうして、そんな大事なことを今まで教えてくれなかったんだっ!」
「言ったところで、お前はバカみたいにまた突っ込んでしまうのが目に見えている。もしも、ヒノッキがオークどもの手に収まってしまっていたら、捕まるのが目に見えている」
「う……。そ、そこまで信用が無いのか、あたしは?」
「「ないな(ですね)」」
落ち込みつつ、ティアがカーシに問い掛けると彼女も同時にそう言っておった。それほどまでに信用が無くなって居るのじゃなぁ……。というか、目を瞑っても捕まって「くっ、殺せ!」と言ってるのが目に見えてしまうんじゃよな……。
まあ、父だけではなく彼女からもそう言われて、ティアは本気で落ち込んでしまったようじゃった。
とりあえず、そんなティアを無視して彼女はカーシへと向き直った。
「それで、話というのは……アタシにそのヒノッキの街を見てきてもらえないかと言うことですか?」
「……ああ、出来ればそうお願いしたいのだが……大丈夫だろうか?」
「それは別に構いませんが……幾つか問題があります。まず1つ目に、アタシはヒノッキの街の場所を知りません。次にどうなっているかの報告をする方法は戻ってからになるのでしょうか? そして、最後に……もしも、オークの手に収まっていたらアタシはどうすれば良いのでしょうか?」
そう彼女はカーシに問い掛けたのじゃった。
漸く少しだけ話が動き始めます。