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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
163/496

服の製作・5

ちょっと今回短めです。

「んぅ~……いいにほいぃ~……アリシュ~……」

「おなかいっぱ~い。くぅくう……」

「……数時間前に引き続き、何この状況……」


 目が覚めて、起き上がろうとした彼女じゃったが……つい先程と同じような状況に頭を抱えつつ、隣でだらしない表情を浮かべながら彼女を抱き枕にして眠るティアと、やっぱり彼女の胸を枕にして気持ち良さそうに眠るフィーンを見て苦笑しおった。

 しかし、このまま眠り続けるわけにも行かないが、どうにかしてベッドから出ないと……と彼女は考え、行動に移ったのじゃ。

 まず最初に自身を抱き枕として拘束しているティアの腕を気づかれないように外し、代わりに自分が眠っていたピローを挟ませ……次に、彼女の胸で気持ち良さそうに眠るフィーンをティアの胸元へと移動してあげた。


「うぅ……なんだかかたいよぉー……うぅーん……うぅー」

「アリスろアルトにょかおりぃ~……むにゃにゃん……」


 低反発の柔らかいベッドから畳に変わったから、うなされ始めたフィーンと、ピローに口づけをするティアを一瞥してから、彼女は寝室から抜け出し……作業場へと脚を運んだんじゃが……アルトはアルトで暴走しておった。

 シャキシャコという鋏が布を切り裂く音、切られた布に針が奔る度に布と糸が擦れる音、糸巻きがからからと糸を解けて行く音が静かに響き渡る中……同時に、アルトの興奮に満ちた笑い声が響いておったのじゃ。


「うふふ~……すごい、凄いですよこれは~……♪ 鋏も切れ味が良いですし、針のほうもスイスイと走っていきます~! こんなに素敵な物をありがとうございます。ワンダーランドさん~!」

「ぶう!」


 ……これを見る限り、この鋏と針はワンダーランドが何らかの方法で与えたのだろう。そう考えながら、彼女はバラバラの布が服として変わって行くのをジッと見ておった。

 初めは一枚の布だったのが、バラバラになり……そして、それがひとつの形へと変わって行く。その様子を感心しつつ見ていると、ワンダーランドが耳をピクピクッとさせ……彼女のほうを見たのじゃ。


「ぶう!」

「うふふふ~……――あ、アリス。起きたの~? 身体は大丈夫~……?」

「ええ、心配ありがとうございます。身体のほうも特に問題は無いように見えるので、平気です」


 近づいてきたワンダーランドを抱き上げ、アルトが笑いかけてきたのでそう返事をすると安心したようにアルトは微笑んだ。


「そう~、ならよかった~……。あ、良かったらまだ寝てても良いからね~」

「いえ、眠くないので……よかったら、アルトの作業を見ていても良いですか?」

「ん? 別に良いけど~……退屈になるかも知れないよ~……?」

「自分が着ることになる服ですし、見ておきたいんです。嫌ですか?」

「そんなこと無いよ~♪ でも、あまり返事が出来ないからね~……」


 ありがとうございます。そう言って、彼女は椅子に座ってアルトの作業を見ていることにしたのじゃ。

 チクチク……チクチクと、一定の間隔で布の上を紅く輝く針が走っていく。

 人……というよりもエルフじゃな、エルフの手であるのに一定のスピードで的確に縫われていく服をジッと見ていると……アルトが口を開いたんじゃ。


「アリスには、わたしのこういう作業は普通に見える?」

「ええ、そう見えるけど……どうしたの?」

「本来エルフには……こう言う服を縫う職人なんて居ないんだよ。下層の市場で既製品の服が売られているのを見ただろうけど……それらはすべて、他の国から仕入れた物が大半なの。それで、基本的にエルフは弓を手に握り狩りを行い。妖精と共に歩むことが普通なんだ」

「森と共に生き、森と共に死ぬって言うものですか?」


 彼女がそう問い掛けると、アルトは頷き……だからね。と続けたのじゃ。


「こういう服を縫うことが好きなわたしは、エルフの中では変人って見られてたんだよね……。だけど、それでも頑張ってこれを諦めなかったから、ティアやフィーンと知り合った。そして、頭の中で浮かんでいたデザインが何なのかを教えてくれたアリスが居た。だから、わたしは縫うことを諦めなくて良かったって思ってる……だって、アリスみたいな凄い美人さんの服を縫えるんだからね」

「アルト……ええ、期待していますね。貴女の創る素敵な服の出来栄えを!」

「任せてね~……! これまでの人生の中で最高の逸品を創って見せるから~!」


 アルトは自信満々にそう言って、彼女へと笑みを浮かべおった。


 そして、それからしばらくして……服の仮縫いが終わったのじゃった。

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