表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
160/496

服の製作・3

「す、すまない……恥かしいところを見せたな……」

「いえ、もう過ぎたことですから……。それに、恥かしいところと言うか、もうアタシにはティアは残念エルフにしか思えませんし……」

「ん? 何か言ったか?」

「イエ、ナンデモナイデス」


 顔を赤くして、なるべく彼女を見ないようにしながら、ティアは彼女に謝り。彼女も気にしていない風な態度を取っていたんじゃ。ちなみに小声のほうは聞こえないように本当にこっそりと呟いていただけじゃぞ。

 ちなみに彼女たちの前には、ティアが持ってきていた腹持ちの良い果物や木の実といった食べ物が置かれておった。

 シャクシャクと瑞々しいアップに近いが、アップよりもあっさりとした甘さで水分が多い……ナッシの実。硬い殻の中に少量しか入っていないけれど、栄養がたっぷりと詰まって濃厚な味をしたクーミの実。ナーシの亜種でシャックリとしながらも噛み応えがあるヨナッシの実。芳醇な甘さと瑞々しさが一粒一粒に詰まってひとつの房に幾つもの実をつけるマスカやグーレの実。トゲトゲした殻に護られて、焼くとホクホクとした甘さが際立つクーリィの実。

 蔦を編んで作られた籠に大量に入ったそれらの果実を見ながら、彼女たちはそれらを食べ始めたのじゃ。

 シャクシャクコリコリゴリゴリシャクリシャクリプチプチカリカリと色んな音が室内を満たし、彼女たちは空腹となっていた腹を満たしておった。


「ところでアリス、これはどうするつもりなんだ?」

「これですか? 勿論、服を作るための準備ですよ?」

「え……そ、そうだったの~!? でも、ドロドロに溶かしたアダマンタートルの甲羅の欠片で、服を作る準備ってわけがわからない~……?!」


 途中、食べるのを止めてティアが問い掛けてきたので、あっさりそう言うと驚いた顔でアルトが彼女を見て、そう言ったのじゃ。

 まあ、そう言われるのも当たり前じゃろうな。何せ、いきなりアダマンタートルの甲羅の欠片を溶かしたと思ったら、服を作る準備なんて言い出すんじゃぞ? 頭がおかしくなったのではと思うに決まっておろうな。

 とりあえず、すぐに行動を起こせば良いのじゃが……まずは腹ごしらえじゃな。


「ふう……食べました、食べました。お腹いっぱいです」

「フィンもおなかいっぱいー♪」

「甘い物が頭を甦らせるわ~……♪」

「も、持ってきたあたしが言うのもなんだが……良く食べたな、キミたち……」


 彼女も気づいていなかったが身体はかなり空腹になっていたらしく、蔦で編んだ籠に入っていた果物と木の実は殆どなくなり、彼女、フィーン、アルトの3人は満足そうにお腹を擦っていたんじゃ。

 む? お腹が凄く膨らんでるけど何が入ってるのかじゃと? ……ここは、赤ちゃんが入ってるとボケて見るべきか……いや、それを言ったら後が怖い。絶対怖い。……コホン、膨らんでるお腹の中には愛と希望が入ってるんじゃ。愛と希望ではお腹は膨れないけれど、食べ物が入れば膨らむもんなんじゃよ。

 そして、そのまま少しだけ休憩をしてから、彼女は行動を開始したのじゃ。


「それじゃあ、始めますね。ああ、ちなみにこの方法は真似しようとしたら魔力の使用量が半端無いらしいので……決してオススメしませんよ」

「そうなのか? いや、真似しようにも普通は真似出来ないと思うぞ……溶かしている時点で」

「わたしも出来ないと思います~……あ、でも何が出来るのかは気になりますね~」

「わくわく、わくわく♪」


 そう言って、受け皿……というかタライのような形を取っているワンダーランドの前に立った彼女の行動を見ている3人の前で、彼女は溶けたアダマンタートルの甲羅の欠片が満たされたワンダーランドの中へと手を入れおった。

 ワンダーランドが何かをしてくれていたのか、眠る前までドロッとしていた溶けた金属だったのがサラッとしており……彼女が行おうとしている作業に適した物となっておったんじゃ。

 ワンダーランドに感謝しつつ、彼女は念じながら中を掻き混ぜ始めたんじゃ。グルグルグルグルグルと一定のリズムを取って掻き混ぜて行くに連れて、アダマンタートルの甲羅の欠片は輝きを放ち始めおった。


「アルト、糸巻きがあったらくれませんか? もしくは、回してください」

「え? あるけど……どうしたの~……?」

「もうすぐ形になるので、見ていたら解ります……よっ!」


 彼女に聞かれて、アルトは作業台に置かれていた平板を回転させて巻き取るタイプの糸巻きを出し、首を傾げていたのだが……その疑問はすぐに解消された。

 手ごたえを感じた彼女は片手をワンダーランドから引き抜き――摘んでいた物を即座にアルトへと差し出したんじゃ。

 いきなり渡されたそれにアルトは驚きはしたが、すぐに職人の目となり……クルクルと糸巻きを回し始めたんじゃ。

 そして、その予想は当たっていたらしく、糸巻きが回り始めると同時にワンダーランドから細長い糸のような物が姿を現しおった。赤く……しなやかで滑らかな触り心地のする糸……。


「ティア、フィーン! 次の糸巻きを取ってください~!」

「あ、ああ……ってどこにあるんだっ!?」

「こっちだよティアー!」

「すまない、フィーン! アルトッ!」


 いきなり、糸が飛び出してきたことに驚いていたティアであったが、アルトの言葉にハッとしたが……すぐに場所が分からなくてうろたえおった。

 しかし、フィーンが教えてくれたお陰ですぐに何とか出来たようじゃがな……本当、フィーンが居ないとダメみたいじゃなティアは。

 そのあと、20巻きぐらい糸を巻き終え……ワンダーランドの中に溜まっていた溶けたアダマンタートルの甲羅は半分ほどになっておった。

 そして、アリスの顔色は先程よりは悪くは無いが……汗でぐっしょりと濡れていた。


(《創製》と《錬金術》に《魔力循環効率化》の使い合わせでも、やっぱり疲れますか……)

「アリス、大丈夫?」

「大丈夫……です。ですが、最後にでかいのを作ったら、少しだけ休ませてください……」


 そう言って、彼女は深く息を吸い込み……吐いてから、魔力を体の中に駆け巡らせ、手に集中させ……頭の中で《創製》させるべき物をイメージしおった。

 洋服と違って、厚く……それでいてゆったりとし、やわらかく……着物を作るのに適した生地……所謂反物……。

 そのイメージを、溶けたアダマンタートルの甲羅に与え……、《錬金術》で金属や鉱石としてのそれに布の性質を与えて行く……。

 与えた魔力が最高潮に達し、ワンダーランドの中がカッと光り……それが収まったときには、溶けた鉱石は無くなっており……代わりに、かなりの長さの暗色に近い赤色の布で満たされておったのじゃった。

と言うわけで、アビリティを入れ替えたのは《錬金術》でした。

ちなみに、《錬金術》の場合は、極や神が後ろに付くのではなく、《神世錬金術》となっています。

色々と突っ込みを入れるべきところはあるかも知れませんが、こうして生地は完成しました。なので、次は裁縫となる予定です。


・事前予告

8月21日は本編ではなく、話完全無視な番外編をするかも知れません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ