彼女が飛び出した先
悲鳴と共に彼女は駆け込むようにしてカーシの街への穴の中へと飛び込み、すぐに坂を昇り始めていったのじゃ。
彼女を心配して追いかけたティアとフィーンであったが、穴を通って入口まで到着した頃には……彼女はもう既に中層辺りまで移動していたのじゃった。
「うわー、はやいねー」
「あ、ああ……そうだな……じゃなくてっ! 追いかけるぞフィーンッ!!」
「うん。おーい、待てーアリスー!」
「止まれアリスーッ! ……そういえば、何処に向かっているんだろうか?」
首を傾げつつも、坂道を登って行くティアと真ん中の穴を使って通って行くフィーンじゃったが、そんな彼女たちに気づかずに彼女は急いで目的地へと辿り着いたのじゃった。
そして、到着するやいなや、しっかりと閉じられた扉をトントントンと叩き始めたんじゃ……とりあえず、力は込めずに中の人物に気づくように……。
何回か叩くと扉の向こうから声が聞こえ、こちらへと近づいてくる気配が分かり……一歩下がると、扉の閂が外されて中の人物が顔を表しおった。
「ふぁ~あぁ~……いったいなに~……? あれ、アリス~? どうしたの~……、いった――って何その格好~!?」
「ごめんなさい、アルト……とりあえず中に入れてもらえないでしょうか? この格好は色んな意味で恥かしすぎますので……」
「早く入って入って~! どうしたのさいったい~!?」
「えっと、今外のほうで何が起きていたかって気づいてますか……?」
そう彼女が問い掛けると、アルトは首を傾げたので……完全に気づいていないと彼女は理解したようじゃ。
と言うか、完全に自分のペースで生きる人物ということじゃな……。
とりあえず、彼女はオークが襲撃してきて、それを自分が殲滅していたと言うことを簡単に告げていると……扉が叩かれたのじゃった。
『こらー、あけろー! ここにいるのは分かってるんだぞー!』
『アルト、アリスがここに居るか? 居るなら開けて欲しいんだが』
「あ~、フィーンにティア~……? アリスなら居るよ~、ちょっと待って~……」
「……あ、そう言えば恥かしさのあまり周りを見ていませんでしたけど……何処に行くかって言ってませんでしたね」
思い出したように彼女がそう呟いていると、アルトが閂を外し……扉からフィーンとティアが大慌てで姿を現したのじゃ。
そして、彼女の姿を見てホッと息を吐いてからティアがアリスへと詰め寄った。
「アリスッ、何処に行くかは何となく察しは着いていたが、勝手に行くのは勘弁してくれっ! 何故かは知らないが、あたしが父さんに叱られるんだからっ!」
「え、ええ……ご、ごめんなさい。その、恥かしくてつい……」
「うん。まあ、それは分かる……」
既に彼女を結構な危険人物だと理解している長のカーシに少しばかりガクリと項垂れながらも、ティアにそう言うと納得したように頷いていた。
まあ、全裸や下着で歩くなんて恥かしいからのう……。ん? おっぱいが見えそうな服を着てるわしは恥かしくないのかじゃと? ふっ、恥かしいと思ってこんな服を着れるものかっ!!
っと、とりあえず、一息つけようと言って、アルトがお茶を用意してくれて……彼女たちは休憩をし始めたんじゃ。
その際、アルトが彼女の着ていたチャイナドレスを受け取ってマジマジと見つめておった。
「う~ん……外からの攻撃で敗れたと見るよりも、内側から燃えたって感じですよね~……これ。あと、鋭利な何かで斬れてる箇所もありますし~」
「はい……、実のところ拳や脚を魔力で燃やしての攻撃を行っていたり、この子を振ったときに巻き込まれたんだと思います」
「き、危険すぎる攻撃方法なんだな……アリスの戦いかたは」
「うん、アリスはビューでズバーで、ババーンなんだよねー♪」
助けられたフィーンはそう言いながら、手を大きく広げて彼女の戦いかたを大雑把に言っておった。
それを聞きながら、アルトは彼女を一度見てから、彼女の膝の上で鼻をひくつかせる小動物に目をやりおった。
「でも、これが武器だなんて信じられないね~……でも、ティアやフィーンが言ってるんだから本当なんだろうけど~」
「ああ、あたしも信じられないが2度も変わる瞬間を見たら、疑わないわけにはいかないだろう」
「それに凛々しくてかっこいい顔立ちしてるよー♪」
「あはは、ありがとう……ございます」
フィーンに褒められたからか、ワンダーランドはフスーと鼻息を吐いて自慢げな顔をしておった。
そんな本当に生きてるような仕草をするそれを見ていると、アルトは本当に武器なのだろうかと疑問に思いたくはなったが……なんだか常識が通じなさそうな気がしたので黙っておくことにしたんじゃ。
そして、視線を作り始めようとしていた生地のほうに向け……軽く溜息を吐きおった。
「ふ~……でも、これじゃあ作ろうとしてた服も同じような結末を迎えちゃうかな~……」
「あ……そう、ですね……。やっぱり、冒険者の服を――」
「いやっ、それはダメだ! それはダメだぞアリス!! キミのような逸材をあたしは見えないようにはしたくは無い!! そうだろう、アルトッ!」
「ん~……そうだね~、でも、どうしようか~……良い方法とか無いかな~……?」
「む、そう……だな。こう、燃えにくいとか、破れにくいといった材質の布があればいいのだが、あったりしないか?」
「無いね~……それこそ、金属鎧とかだと思うんだよね~……」
力説していたティアだったが、アルトの言葉で即座に座礁しかけおった。
その後も、2人でああでもないこうでもないと、話し合っていたが……彼女はとりあえず聞こえない振りをすることにして、フィーンと一緒にワンダーランドの腹を擦っておった。ちなみに柔らかくて温かくて良い感触じゃったようじゃ。
益々ティアとアルトの会話は変な方向に進み始めておったが、少しだけ面白い発想が彼女の耳に届いたのじゃった。
「はぁ……もういっそ、金属が布のように柔らかかったら加工できたりするんだろうな」
「それこそ夢物語だよティア~……。まあ、面白いよね、金属を布のように加工出来たら~……防御力高そうだし~」
「金属を……布のように……」
そう呟きながら、彼女は壁に立てかけていたアダマングレートソードを見るのじゃった。
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