助けたエルフの空回り
息を吐いて、呼吸を整えた彼女だったが……視線に気づいてそっちを見ると、拘束されたエルフたちが驚きと困惑に満ちた瞳……若干、恐怖が混じっておるがの。そんな視線を送っていることに気がついたのじゃ。
とりあえず、彼女は敵意が無いと言うことを告げるために、話しかけることにしおった。
「えっと、大丈夫ですか?」
「…………は、はい……。あの、あなたは……?」
「ああ、アタシは長のカーシに街を守るために手を貸してくれと頼まれた者です」
「お、長が……そうだっ! あの、まだ捕まっているはずの仲間が居るはずなんです!!」
捕まっているエルフの代表としてか、一人のエルフが彼女の問い掛けに答え……長に頼まれたと聞いて、周りのエルフの警戒が抜けて行くのが分かり……思い出したように言ってきたのじゃ。
まあ、捕まっているときは自分のことしか考えられないから、助かってから思い出すのは当たり前じゃがのう。
彼女はエルフたちが話をする中で、彼女たちの拘束を壊し始めておった。
「はず……ですか? ですが、ここには居ないようですけど……」
「はい……。その仲間は長の娘で……一度目のオークたちの襲撃で、逃げて行くオークを妖精と一緒に追いかけて行き……わたしたちも後を追うように言われてすぐに追いかけたのですが、まんまとオークの罠に嵌って……」
「え、えーっと……長の娘、なんですよね……その、そのかたのお名前は……?」
「名前、ですか? ティア様と妖精のほうはフィーンという名前です。あの、もしや心当たりが……?」
名前を聞いてどう言えば良いのかわからずに苦笑していると、何か知っていると判断したのか拘束を壊されて自由になったエルフが彼女を見おった。と言うか、ティアを追いかけていったのはフィーンだけと思ってたが他にも居ったんじゃな……いや、まあ当たり前か。
とりあえず、どう説明するべきかと心の底から悩む彼女だったが、エルフたちはその雰囲気を変に誤解してしまったのか悲しい表情をし始めたんじゃ。
その表情に気づいて、違うと声をかけようとした彼女じゃが……話はどんどんと進んでいきおった。
「いえ、言わなくても良いです……姫様をお助けすることが出来ず、おめおめとわたしたちは生き残ったなんて……長にどう説明をすれば良いのか……」
「い、いや……だから、その……ですね」
「無理に言わなくても構いません。きっと、わたしたちよりも酷いことになっていたんでしょう……姫様。ああ、お労しや」
涙を流すエルフに感化されたのか他のエルフたちも悲しそうに涙を流し……物凄く否定するタイミングを失ったと心から彼女が思っていたところに……穴からエルフたちが出てきたことに気づいたのじゃ。
それに気づいた彼女は、キョロキョロと周囲を見渡すエルフたちに軽く手を振ると逸早くそれに気づいた妖精が一直線に飛び出してきた……良く見ると、フィーンじゃった。
「アリスー、無事だったー?」
「ええ、大丈夫ですよフィーン。あの、ちょっとティアを呼んできてもらえれば……」
「大丈夫だよー、もう来るよー! ティアー!」
「アリスッ、大丈夫だったか!? って、ボロボロじゃないかっ!? 誰か上に羽織る物を!!」
「「「え……ひ、姫……様?」」」
クルクルと飛び回りながら心配そうな顔で彼女を見るフィーン。
そして、彼女の服装に驚くティアは急いで穴から出てきたエルフへと、羽織る物を頼んでいた。
そんな2人を目を点にさせながら驚いた顔で捕まっていたエルフは呆然と呟いた。
その声で、漸くティアも捕まっていたエルフたちの存在に気づき、そちらを向いて驚いた表情をした。
「アン、トウ、ロワ!? お前たちどうしたんだっ!? まさか、オークどもに捕まってしまっていたのか!? いったい何故っ!?」
「「「そ……」」」
「そ?」
「「「それをあんたが言うなーーーーっ!!」」」
「ひっ、ひぃぃっ!? な、何故ぇぇぇぇぇっ!!?」
エルフたちの雄叫びに、ティアは涙眼になりながらもどうして怒られているのか本当に分かっていないようじゃった。
まあ、追いかけて行ったほうが捕まったというのに、追いかけられていた猪武者が無事に街に戻っていたら怒るのも当たり前じゃよな……。
そんなエルフたちを見ながら、彼女は手を合わせるのだった。
◆
「な、何故あたしが怒られなければならないんだ……」
「いや、色々と制止の声を無視して突っ走った結果じゃないですか」
「じごーじとくってやつだねー♪」
一気に緊張の糸が切れたのか、助けられたエルフたちはパタリと倒れこみ、仲間のエルフたちに運ばれてカーシの街へと連れられていき、この場には彼女とティアとフィーン、そしてオークなどの残骸を処理をするエルフたちが居たんじゃ。
まあ、残骸などの処理を無視してたら、臭いがきつくなっていくしのう……。そう思っていると、チラチラと何故か自分が見られているような気がすると彼女は思ったが、気のせいと思うことにしたのじゃ。
エルフたちが樹の根元に土魔法を使って残骸を埋めて行くのを見る限り、栄養にしていくのだろうと考えながら、彼女は地面に突き刺さったワンダーランドを手に取ろうとしたら、またも光を放って再び兎の姿へと戻り……彼女に飛びついてきおった。
驚きながらも彼女はそれを抱きとめ、次によく分からないけどちょっと格上っぽいように見えたオークが持っていた大剣を掴むと、それを持ち上げたのじゃ。
重い……けれど触れないわけではない重さ。そう思いながらジーッと見ていると、やはり彼女の瞳にはその道具の詳細が見え始めて来た。
――――――――――――
名称:アダマングレートソード(?)
説明:
アダマンタートルの欠片が運良く砕かれた際、偶然に剣の形になった物。
武器として使用する場合、力任せの一撃で叩き切るのが基本。
オークの手によって、幾人も血を吸ってきた。
――――――――――――
「……ああ、赤い赤いって思ってたら、アダマンタートルの欠片だったんだこれ」
「すごいすごーい、アダマンタートルって硬いモンスターだよねー?」
「す、凄いな……というよりも、こんな物を持ったオークまでも居たのか?!」
初めて見る物にはしゃぐフィーンと、噂でしか聞いたことが無い物を見て驚くティア、そして餌を見つけたと言わんばかりに鼻をひくつかせるワンダーランド。
とりあえず、彼女はワンダーランドにこれはまだ食べたらダメだと言って、大人しくさせておった。そんな中、ティアの命令で羽織る物を持ってきたエルフがティアのほうへと近づくのが見えた。
ティアはそれを受け取ると、即座に彼女へと差し出したんじゃ。当然、彼女は首を傾げたんじゃ。
「アリス、早くこれを羽織るんだ」
「え? どうしてですか?」
「えっと、だな……アリス……。言っても良いのか悩むが、やはり言うべきだな……」
一瞬、悩む素振りを見せたティアじゃったが、意を決し……彼女の耳元で囁いた。
キミの着ている服がかなりボロボロになっていて、見ているこちらが恥かしい……とな。
そう言われて、ようやく彼女は現在の自分の着ておる服の状態に気づいたのじゃ。
どんな状態だったかじゃと? まあ、簡単に言うとじゃな……所々が焼け焦げて、白磁のような白い肌が丸見えじゃったと言っておこうかのう。
で、それに気づいた結果、恥ずかしさが込み上げたらしく……女らしい悲鳴が彼女の口から洩れたのじゃった。
焼け焦げて、服がボロボロですが……規制になりそうな場所は見えていない不思議。あら不思議