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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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豚殲滅・終

 カーシの街の穴から轟々とした音が洩れながら、強烈な風と共に何かが押し出された音がし……捕まえて拘束した女エルフたちを一足お先に楽しもうとしていたオークたちの視線が穴のほうへと向けられた。

 見るとそこには、押し出された何か……距離が離れていて良くわからないが、赤黒く……同時に同類の臭いがするのが鼻でわかった。

 何が起きたのかと驚きながら、穴を見ていると……距離があるにもかかわらず、人目で良い女だと理解できる獣人の女が姿を現した。


「な、何だあの女はブー!?」

「いい女だけど、恐怖を感じるんだブー! これが恋と言う物かブー!?」

「多分違うブー! でも、本当にいい女だブー!」

「あの胸とか身体をむしゃぶりつきたいブー!」


 そんな感じに、当初穴から出てきた少女を見ていた見張りのオークたちだったが、手に持っていた道具を振った途端、激しい炎が巻き上がり、同類の臭いがしていた何かを燃やした。

 その焼け焦げた臭いで、漸くオークたちはあれが自分たちの兄弟だったものだと気がついた。

 ちなみに何故気がついたかというと、弱い兄弟を焼いて食べて栄養にもしていたからだったりする。弱肉強食である。

 しかし、オークたちは気が気ではなかった。なぜなら、平然と女が出てきたと言うことは、カーシの街に突入しエルフどもを殺し、捕まえるための精鋭たちが全滅したということなのだから……。

 そう理解し、オークをオークと思っていないような瞳を向こうに向けた瞬間、オークたちは絶叫した。


「「ブ――ブヒィィィィィィィッ!!」」

「殺されるブー!」

「逃げろブー!」

「捕まえたエルフを忘れるんじゃないブー!」


 騒然としながら、オークたちは我先にと逃げようとしていた……けれど、それを止める者が居た。


「ええい、落ち着くブー! お前たちはそれでも誇りあるオークの戦士かブー!!」

「ボ、ボス……だけど、あれはヤバイブー! 絶対に逃げたほうが良いブー!!」

「そんな物は気のせいだブー! オレが見事あの女を捕まえて、メスにしてやるブー!!」

「「ブヒィ! そこが痺れる憧れるブー! さすが、ボスだブー!!」」


 他のオークよりも質の良い武装に身を包み、他のオークたちが持っているような刃毀れの激しい大剣ではなく……血のように赤い大剣を手にしたオークの中のオーク、グレートオークはそう言うと悠々と前へと進み始めた。

 そして、それを見ていた配下のオークたちは憧れを抱き、あの獣人の女を屈服させる様を思い描いていた。

 その未来を思い描きながら、少女のほうを見ると手に持っていた道具を折りたたむと、それを振り被るようにして持ち上げるのが見えた。――瞬間、ボヒュンと風を切る音と共に道具は放たれ、オークたちが立ってる辺りの地面が揺れた。

 いったい何が起こったのかと驚きながら、女が立っている方角を見ると……女が持っていたであろう道具が地面に突き刺さっていた。そして、その先にはグレートオークらしきものが立っていた。ただし、上半身は何処にもない状態で。

 それを見た瞬間、オークたちの絶叫が周囲に満たされた。


「ブヒィィッ!? ボ、ボスがやられたブー!? オーガ、オーガを出すんだブー!!」

「ブヒ!? あいつは命令を聞かないから拘束しておいたはずだブー!!」

「あんな化け物を倒すには化け物じゃないと無理だブー!」

「そ、それもそうだブー……。おい、オーガを解き放つブー!」

「キィキィ!!」


 そんな会話がオークたちから聞こえる中、少女は一歩一歩彼らへと近づいて来ていた。

 その死神が近づく状況としか言いようが無い状態に、オークたちはまだかまだかと言う声が響き渡り……後ろからゴブリンがボールのように投げ出されたのだった。

 投げ出されたゴブリンは彼女を見ていたオークの背中に激突し、ブチリと音を立てながら上半身と下半身がお別れをしていた。

 オークたちが振り返るとゴブリンを巨大にして、筋肉を増やしたようなモンスターが立っており、彼女にもそれが見えていた。


『GGGGGGGIIIIIIIIIIIYYYYYYYYYYY!!!』

「ブ、ブヒ!? オ、オーガ、お前の相手はあいつだブー! 早く倒すんだブ――ブヒ!? 何をするんだブー!?」

「は――放すブー! オレたちじゃなくてあいつが獲物だブー!」

『GGGGGAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

「「ブヒィィィィッ!!?」」


 ゴリゴリと音を立てながら、拘束が解かれたオーガは掴んでいたオークを頭から齧りついて、捕食を行っていた。

 けれど、オーガは思ったのだろう。臭いし不味いし脂っこい。そんな肉は全然美味しくは無いと……ちなみにそう思いながらも逃げ惑うオークやゴブリンは全部食べたようだ。

 だったらもっと美味しい肉を食べるべきだ。そう考えながら、周囲を見渡すと自分に恐れて逃げ出したいのだろうが拘束されて動けないエルフのメスが居ることにオーガは気づいた。

 オークに孕ませられる人生を歩まされるなんて地獄でしかない。けれど、オーガに喰われて人生を終えるのも生き地獄でしかない。そう考えながら、エルフたちは恐怖に顔を歪ませながらも、震える声で届かないであろう助けを求めた。


「たす、たす……け……――ひぃっ!!」

「だ、だれ……だれかぁぁぁぁっ!!」

『GGGGOOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAA!!』

「「いやぁぁぁぁぁぁっ!!」」


 雄叫びと共に、徐々に近づいてくる手に耐え切れず、エルフたちは悲鳴を上げた。

 瞬間、何かがせり上がる音とゴキャという音共に甲高い悲鳴がエルフの耳に届いた。

 恐る恐るエルフたちが目を開けると……自分たちを囲むように土がせり上がっているのに気がついた。


「「……え?」」

「五月蝿い、でかい図体も鬱陶しい」

『GGGGGGGGGGGGAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!?!?!?!?』


 そんな呆気に取られたエルフたちの耳に、少女の声と同時にゴシャドシャという音とオーガの悲鳴が聞こえた。

 この土の向こうで何が起きているのか? エルフたちの頭は疑問と不安に満ち溢れ……しばらくして音が静かになり……せり上がっていた土が再び地面へと戻っていくと……そこには1人の少女が立っており、エルフたちが恐怖していたオーガの顔を片手で掴んでいた。

 いったいどれだけの力で掴んでるのかはわからないが、オーガの絶叫が口から放たれ……気づけば手足が斬られて、切り口が凍りついていた。

 エルフたちの視線に気づいたのか少女は一度そちらを振り向き、優しく微笑みかけてからオーガへと振り返り……炎を拳に纏わせた。


「とっとと、燃えろ」

『GGGGAAAAAAAAAAAAAA!?!?!? ――――GA――A』


 炎はオーガの顔を焼き、さらには身体へと燃え広がり……オーガの断末魔上がったが、それは徐々に低くなり……少女の炎で焼かれていくオーガの身体は黒く変色していった。

 いや、黒く変色していったのではない……それは、炭になっていっているのだ。それを見ていたエルフたちがそう理解したのは彼女が掴んでいたオーガの顔がボロリと崩れたのを見たからであった。

 オーガの形をした炭が少女の手から地面に落ちると、ボロリとオーガの形をした炭は崩れていった。


「……ふう、静かになった」


 そう呟いて、少女は溜め込んでいた息を吐いたのだった。

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