豚殲滅
「き、きさまぁ! 獣人の分際で突然現れて、何をするんだブー!」
「何って? ただの害獣駆除ですよ?」
怒りながら、突然現れた彼女へと文句を言いながら、1匹のオークが前へと出てきた。
周りのオークよりも少しだけ良さそうな装備をしていることから、多分じゃがここに攻めてきたリーダー格の内の1匹だろうと彼女は思ったのじゃ。
そして、そのオークの怒りが周りのオークやゴブリンへと伝播して行ったのか怒りのボルテージが上がり始め……、いやらしいことにしか興味が無いオークが周囲の興奮を更に高める言葉を口にしおった。
「だったら、お前を完膚なきまでに叩きのめして、その大きな胸やら身体で怒りを発散させてもらうブー! そしてそんな傲慢な態度がぐしゃぐしゃに涙を流して、許しを請うようになるのが楽しみだブー! ブヒヒヒヒヒ!!」
「そうだブー……」
「あのモフモフ尻尾が自慢な一品に違いないブー。それを千切られた表情が見物だブー!」
「キィキィ……!」
「よし決めたブー! キサマには、栄光あるオークの子を産み続けるという名誉な任務に就けてやるブー! ありがたく思うブー!」
ブヒヒヒヒとフゴフゴブヒブヒと声が響き渡り、怒りの視線と同時に粘っこく身体を舐めつけるようないやらしい視線が彼女へと浴びせられたのじゃ。……正直吐き気がするのぅ。うん、お主もなんか怖いと言ってるが、それは当たり前のことじゃよ……。
そして、そんなオークどもを彼女は凍りつくような瞳で見つめたのじゃ……多分、内心吐き気しかしていなかったんじゃろうな。
それを表すように、彼女は扇を軽く一振りしたのじゃ。すると、鼻がひん曲がりそうな豚臭いにおいが押し出されて行きおった。
「貴方たち、いい加減その汚らしい息を吐く口を閉じてくれませんか? と言うよりも、息もしないでくれないですか? いい加減臭すぎて鼻がひん曲がりそうになります」
「ブヒ!? 何を言ってるんだブー? そんなことを言ってても、何も出来ないだろ? だったら、大人しく捕まってオレたちを楽しませるんだブー!」
「ブヒヒ、そうだブ、そうだブー! 痛いって言ってもやめてやら無いから、抵抗しないほうが身のためだブー!」
「まあ、抵抗したとしても結果は同じだブー! それに、そこにエルフたちも一緒だから安心しろブー!」
「「ブヒヒヒヒヒヒ!!」」
「……そうですか。本当に、貴方たちは救いようが無いみたいですね。ここではなんです……ちょっと外にでも出ましょうか。と言うよりも、無理矢理にでも出します」
「何を言ってるブー? これだけの数をどうやって外に押し出すんだブー? 戯言はいい加減にするんだブー!」
「「ブヒヒヒヒヒヒヒ!!」」
豚どもの笑い声が響く中、身も凍るような声で彼女は呟き……彼女は開かれた扇を振りかぶったのじゃ。
すると、風が彼女の前方……つまりはオークたちの前へと集まりだし、今度は扇を前へと振るうように一気に振り上げた。直後、集まりだした風は横向きの竜巻となりオークたちを巻き込んでいったのじゃ。
その竜巻はオークたちを巻き込みながら、彼女の周りをグルリと回っていき、オークたちを押し出すようにカーシの街の出入り口となっている穴へと突き抜けて行きおった。
しかも巻き込むだけではなく、オークに捕まってしまったであろう女エルフが中から運ばれてくるように、竜巻の中央から出されるように彼女の前へと落ちてきたのじゃ。
それを見届け、彼女は扇を閉じ……オークたちを押し出した穴の先を見据えてから、一度唖然としているエルフたちに彼女は声をかけたのじゃ。
「そんなところで、ボーっとせずに早く仲間の治療をお願いします。では……」
ハッとして動き出すエルフたちを一瞥し、彼女は扇を手にすたすたとオークたちを押し出した穴へと歩いて行ったのじゃ。
薄暗く空気が篭りそうな道だが、竜巻がオークやゴブリンとともに悪臭も洗い流してくれていたらしく、嫌な思いをせずに進むことが出来た。
そして、穴から光が見え……その先に近づくと、オークとゴブリンだったものの残骸(一部生きてるのか呻き声が聞こえる)がひく肉の山になっているのが見えたんじゃ。ああ、お主にはかなり厳しいから黒で塗り潰しておるぞ。
とりあえず、それが物凄く邪魔だったのと……中に入らずに悠々と結果を待っていたであろうカーシの街から少し離れた場所で嫌がるエルフを首輪や足輪、手錠などで拘束して下品な笑みを浮かべながら楽しんでいたオークたちの一団に衝撃を与えるべく、燃やすことにしたんじゃ。
扇を開き、魔力を伝わせ……『火』の属性を与えて、彼女は扇を振るった。瞬間、一瞬だけ激しい火柱がひき肉の山を囲むように燃え上がり、消えると赤々しい色をしていた肉の山は炭の山に変わっており、振るわれた扇の風によって散っていきおった。
そして、オークどもには彼女が思っていた以上の衝撃が与えられたらしく、いやらしい笑みを浮かべていた豚どもはポカンと間抜け面を晒しておった。
「さあ、始めましょうか。ムカつく豚どもの駆逐を……」
大分オークの言動に苛立っていたのか、そう言って彼女は養豚場の豚を見るような目でオークどもを見るのじゃった。
樹の中の豚は駆逐したので、悠々と待ち構えている豚を駆逐します。
オークに慈悲は無いのか?!
無論、慈悲は無い。