不思議の国の白兎
街のために力を貸してもらえないか。それは要するに、オークたちを倒す手伝いをしてもらえないかと言うことじゃった。
いきなりそう言われた上に頭を下げてきたカーシに彼女は驚き、どう返事をすれば良いのかまったくわからなかった。
そして、そんな彼女をカーシだけではなく、ティアとフィーンまでもが何時の間にか見ており……どう返事をするのかと待っているのだろうが……何処か心の奥底から期待しているような視線を感じてしまっていた。
そんな視線に後押しされるようにして、彼女は……。
「わかった、わかったから、そんな目で見ないでくれ……。それに、そういう魔族退治はアタシ本来の仕事だからやるよ」
「っ! そ、そうか……すまない、アリス……。この街、この樹をどうか護ってくれ……」
「ありがとう、感謝する。兵たちへは私から伝えよう。君はその間に武器を調達してくれ」
「いくさじゃー、いくさのじゅんびじゃー!」
カーシとティアが頭を下げ、フィーンが何故かいえいえおーする中で、彼女は中層の隠し部屋となっている武器庫へと案内されたんじゃ。
まあ、武器庫とはいっても、お城の中にあるような大量に武器がある部屋といった感じではなく、小部屋の中にキチッとじゃがぎっしりと武器が置かれているのじゃ。ちなみに、そういう部屋が幾つもあるらしいというのは驚きじゃったがな。
そして、武器のほうは……黒ずんだ紫色をした刀身の剣や斧や槍が置かれていたのじゃが……、何というか魔力が通りにくそうな気がしたのじゃ。
そんな武器たちを見ていると、ティアとフィーンも彼女の武器調達に加わろうとしているのか、隣で見ていた。
「アリス、これらはあたしたちの街のエルフたちが使っているミスリル製の武器だ。強さは中々の物だが、どうだ?」
「……えっと、今なんて言ったの? みすりる?」
「そうだが、どうしたんだ?」
この黒ずんだ紫色の金属がミスリルだと聞かされ、彼女は言葉を失ったのじゃ。じゃって、今の今までワンダーランドを作った金属がミスリルと思っていたのじゃからな……。
そう思っていると、彼女の目の前に突然黒い円が現れ、中から何かが出てきて彼女の顔に張り付いたのじゃ。
いきなりのことで彼女は驚いたが、それ以上に同じようにそれを見ていたティアは目を見開きながら、腰に差した剣を抜こうとした。
「う、うわっ!? って、え……? う……兎??」
「アリスッ! 貴様っ、いったい何者だ!?」
ひっぺりはがすと、彼女の顔についていた物の正体はわかった。その正体は……1羽の白い兎じゃった。
純白の毛並みに、輝く朱色の瞳を持った愛らしい兎が、スピスピと鼻を引くつかせながら、嬉しそうにブウブウと鳴いておった。
ちなみにティアはいきなり現れたこの兎に敵愾心バリバリじゃが、フィーンは兎の周囲を飛び回りながらジロジロと観察しておった。
そんなフィーンを兎も観察するように朱色に輝く瞳でジーッと見つめ……納得したようにフィーンは頷いた。
「ティアー、あれ生き物じゃないよー? だけど生きてるー」
「は? 何を言ってんだフィーン?」
「生き物じゃないけど生きてる……?」
フィーンの言った言葉を噛み砕きながら、彼女はジーッと抱えた兎を見てみた。
普通の赤目の白兎とは違っており、朱色に輝くつぶらな瞳は彼女の姿を映し……、白い毛並みは良く見ると透明になっていた。そして、鼻を引くつかせながらスピスピと嬉しそうに彼女を見て――。
「え?」
――――――――――――
名称:ワンダーランド モード白兎
説明:元はアリスが創り出した武器だったが、異界に居る間に元となった金属に彼女の魔力が浸透した結果、一種の生命体へと進化した。武器にはアリスがその場でもっとも必要とする物へと自ら判断し変化するようになっている。
――――――――――――
そんな感じのウインドウが彼女の持ち上げている兎に被さるようにして見え、彼女は困惑した。しかも、そのウインドウで表示されている名称がより彼女を驚かせたのじゃ。
彼女は戸惑いつつも、聞かなければならないことを問いかけることにした。
「あなた……ワンダーランドなの?」
彼女の言葉を理解しているのか、兎はブウとひと鳴きして頷いたんじゃが……やっぱり鉄板なのか彼女はやりおった。
「本当のほんとに?」
――ブウブウ。
「間違いなく?」
――ブウブウブウ。
そんな妖艶系な獣人美少女と兎が戯れる中で、ティアは恐る恐る問い掛けたんじゃ……というか、あまり関わりたくない気がしたように感じたんじゃがな。
それが言葉に含まれてしまっていたのか、ティアの彼女への問い掛けは何処か「頭大丈夫か?」なニュアンスに感じられたのは気のせいだと思いたいわい……。
「ア、アリス……キミはいったい何をしているんだ……?」
「この子はアリスのおともだちー?」
「え、ええ……というよりも、この子は……アタシの武器、みたいなんだよね……」
目を逸らしつつ、彼女がそう言うと……2人、いや近くでそれを見ていたエルフたちも呆気に取られていたんじゃ。
そして、呆気に取られながら……息が洩れるように口から言葉が洩れた。
「「……え?」」
「えっと、もう一度言うけど……こんな姿だけど、アタシの武器……みたいなんだよね」
苦笑しつつ、彼女がそう言うと……周囲の時間は止まってしまったのじゃった……。
と言うか、兎を武器に使う獣人ってどんなんじゃよ……。鵜飼いか? 鵜飼いのように戦うという感じなのかと……。
○○「行けっ、うさぎ! 電光石火だ!」
「ブウブウブウ!」