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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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3年の空白

 彼女が言った言葉に、カーシは驚いた顔をしていたが……すぐに表情を戻し、疑わしそうに彼女を見た。

 けれど、そんな彼女を救ったのは驚くことにフィーンじゃったんじゃ。


「おじさんー、アリスはうそを言ってないよー? ほんとうにわかってないみたい、3年ほどー」

「そう……なのか?」

「うん、そだよー。ね、アリスー?」

「え、ええ……、フィーンが言ったように3年の間に何が起きたのかを聞きたいんですが……」


 どうして3年ってわかったのかと激しく疑問に彼女は思ったみたいだけれど、理由を聞きたい好奇心を抑えて彼女はそう言った。

 それに対して、カーシはどう思ったのかはわからないが……目を閉じて、何かを考えているようじゃった。

 しかし、フィーンの言葉のお陰か静かに頷いてから、彼女に言ったんじゃ。


「わかった。私たちの知っている範囲で良いのなら、話をしよう」

「ありがとうございます。まず最初に聞きたいことですけど……どうしてアタシがこの国に来たことが怪しまれているのですか?」

「……君は、獣人の国から森の国への行きかたはどんな方法があるか知ってるかね?」

「行きかた……ですか? えっと、一番安全な方法は人間の国などを通って、外周からの移動ですよね? そしてもうひとつは、危険だけれど魔族の国……もしくは魔族の国ギリギリの山のほうを通る。でしたっけ?」


 彼女は思い出しながら言うと、当たっていたらしく。カーシは頷いたんじゃ。


「そうだ。そして、来るとしても安全な方法で来るというのが主流になっているため、この国には出る者は居ても、入る者はあまり居ない。だが、その安全な方法が使えなかった場合はどうする?」

「えっと……、そこに行かないといけないという場合は、危険な方法で行く。けれどそこまで必要が無いと思ったら、その国には行かない……でしょうか?」

「そう。そのため、獣人の冒険者がこの国にやってくる可能性は果てしなく低いと言うことだ。いや、たまには来るが……それは3年前に人間の国を通っていた獣人ぐらいなものだろう」

「3年前……いったいこの世界で何があったんですか?」


 重々しく言った言葉に、彼女は何処と無く嫌な予感を感じたが……話してくれるまで待っていたんじゃ。

 すると、カーシは話を始めた。


「3年前に獣人の国が壊滅的な被害を受けたと言うのは君も知っているだろう?」

「え、ええ……【破壊】が王都を攻め込んで、【叡智】が地脈を狙ったと言う二重作戦ですよね?」

「……そのことを知ってると言うことは君も参加していたと考えるのが良いだろうな。その戦いと、少し前の人間の国で【最強の矛】と【無敵の盾】が……魔族の四天王がすべて倒されたと言うのも……知ってるみたいだな」


 カーシの問い掛けに、彼女は頷いたんじゃが……知ってるどころか魔族四天王全員を倒してしまったのは自分だなんて言えるわけが無いので黙っていたんじゃ。

 そんな彼女の胸中を知らぬまま、カーシは話を続けおった。


「魔族四天王を倒したのだから、魔王を護る上の者は居なくなったと判断し……人間の国のバカ王は各国に要請を求め、魔族の国へと攻め入ったのだ。けれど、彼らはあっさりと負け……どうした? 頭を抱えて」

「い、いえ……、あの王様は本当に無能だと感じ始めて……。と言うよりも、【叡智】が自身を『元』と強調していたから心のどこかでまさかと思ってましたが、新たな魔族四天王が居たんですよね?」

「よく分かったな。どのような魔族なのかは判らないが新たなる魔族四天王が、攻め入った者たちを一網打尽にしたらしく……あの強さで何時攻められたら溜まったものではないと考えたバカ王は人間の国を完全に封鎖したのだ。そのお陰で、獣人の国は孤立してしまったらしいが……あの国は自分たちで賄えるほどの食料などの生産を行えるので特に問題は無いようだ」


 そのカーシの言葉に彼女はまず増す頭を抱えおった。正直、あの王様はバカで無能と思ってたけれどこれは予想をはるかに超えておったんじゃよ……。

 そう思っていると、カーシはさて……、と言ってもう一度彼女へと視線を向けたんじゃ。


「そんな理由で、現在この周囲に居る獣人というのは誰であるかは街々に伝わっている。けれど、その中には君のような外見をした獣人、またはアリスと名乗る獣人に覚えは無い。だから君はいったい何処から来たんだ?」

「アタシは……その……、本当に……どう言えば良いのか、その……自分でもわからな――」


 沈黙の中、彼女が自分のことを言おうとした瞬間、カーシの街全体に聞こえるほどの大きさで鐘のような音が鳴り響き、ハッとしたようにティアが立ち上がった。

 すると、部屋の扉が開かれ、先程彼女を囲んでいた男エルフの中に見た1人が姿を現したんじゃ。


「カーシ様、姫様! 敵襲です! オークどもが群れを成してやってきました!! 現在は見張りたちが対処をしていますが、大分劣勢に追い込まれていますっ!!」

「くそっ、懲りない奴らめ! あれだけ痛い目を見たというのに、まだ襲おうと言うのかっ!?」

「またフィンがやっつけてやるー!」

「――って、フィーン! キミは大人しくしているんだ! また捕まっても今度は助けることが出来ないかも知れないんだぞ!!」

「それを言うなら、ティア……お前もそうだ。ティア、フィーン。カーシの長として君たち2人は待機を命ずる」

「えー、つまんないー!」

「なっ!? と、父さんっ! 何故ですかっ!!」


 カーシの命令に、フィーンは頬を膨らませ……ティアは反論する。じゃが、普通数時間ほど前まで窮地に陥ってたというのに、また飛び出そうとしていたら、父親として止めるのは当たり前じゃろうな。

 そして、カーシは彼女のほうへと振り返ると、頭を下げた。


「アリス、君がどうやって来たかはわからない。そして、今だ疑っている私がお願いするのも酷い話だと思うが……どうか街を護るために力を貸してもらえないだろうか?」

森の国の長の名前は長となった時点から、代々その街となっている樹の名前を受け継いでいます。

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