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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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カーシの長

 それからしばらくして、チャイナドレスの軽い手直しが終了し彼女たちはティアの家に向かって坂を昇り始めたんじゃが……彼女は落ち着かないのかソワソワしながら、周りを見ていたんじゃ。

 何というか、自分の現在の体型がわかったからなのか、着ている服が着ている服だからなのか……物凄く彼女は顔を赤くしながら落ち着かないでおった。


「ね、ねえ……まだつかないの……?」

「ああ、とりあえず、家は街の上層のほうにあるから、もう少しだな。その……やはり恥かしいのか?」

「は、はい……正直に言うと、冒険者の服で良かったと思っています……」

「なっ! 何を馬鹿なことをッ!! アリス、キミの外見は冒険者の服のような一般的に出回っている物よりも、アルトが創った一点物で華やかにしたほうが素晴らしいんだっ!! きっと、男性がそれを見たら胸を撃ち抜かれてしまうことだろう――って、何を言ってるんだあたしは……」


 物凄い剣幕で近づいてきたティアに若干引きながら、彼女はどう反応すれば良いのか分からなかった。

 だってそうじゃろ? この獣人としての姿は、今の彼女ではあるのだが、彼女ではないのじゃから……。何というか、騙しているみたいで悪いと思っているのじゃろうな。

 そんな彼女の表情にフィーンが気づいているのか、だいじょうぶ? と言って、ふよふよと彼女の隣を飛んでおった。

 それに対して彼女は大丈夫です。と言って笑いかけると、元気出してーと言って励ましてからティアのほうへと飛んでいきおった。

 それから少し歩くと、坂が段々となだらかになり始め……最終的に1つの樹と蔦で造られた門の前へと辿り着いたのじゃが、その前ではエルフが門番をしており、ティアたちに気づき頭を下げ――不意に固まったんじゃ。けれどすぐに慌てて、体勢を立て直して挨拶をし直し、門を開けて中に入るように促した。


「うむ、ごくろー! なんちゃってー、あははー」

「フィーン……、まあ見張りご苦労。余所見は大概にするように、ただし自慢はしても良いぞ」

「え、えーっと……? 何を言ってるんですか? あの、何かついていますか?」

「いっ、いえっ! その、獣人が珍しくて……ただそれだけですはいっ!」

「……そう言うことにしておくか、キミは無愛想だと思っていたが良かったよ」

「よかったよー!」


 直立する門番エルフにティアが笑いかけながら、門を潜って行く。それに続いてティアの真似をしながら入って行くフィーン。そして最後に恥かしそうにお辞儀をしていった彼女が中へと入って行ったんじゃ。

 ちなみに門番エルフは無愛想で色恋沙汰なんかまったく聞いたことは無いどころか、あまりの無愛想さに同性趣味ではないのかと噂されていたのだが、彼女は知るよしも無かったのじゃ。

 そして、門の奥に進むと扉があり、中に入ると玄関らしき場所に辿り着いた。正直な話、樹の中に家があること事態驚きなのだが、どう考えても樹の幹よりも遥かに幅を超えすぎていないかと心から思っていると、どうやら枝もくり貫かれており、住居になってるとのことじゃった。


「さ、こっちだアリス。……父さん、戻ってきたよ」

『……ティアか、入りなさい』

「失礼します。フィーンは大人しくするんだぞ」

「もー、わかってるよー!」


 一番奥にある扉を叩くと、入るように促す声が聞こえ、ティアは扉を開けて……彼女たちを招き入れた。ちなみにフィーンは大人しく口は塞いでいるのだが、動き回っている。それはもう激しくな……。

 大人しくってなんて意味じゃったかのう……。そう思いながら、フィーンから視線を前のほうに移すと椅子の前に人間にすると30代ほどの金色の髪をした中年エルフが立っていたんじゃ。

 厳しそうでありながら、何処か確固たる芯が通ってるような雰囲気をした人物。そのエルフを見たとき、彼女はそう感じた。その人物を見ていると、目が合った瞬間……深々と頭を下げてきおったのじゃ。

 その反応に戸惑いながら、彼女は驚いた顔をしつつ……目の前の人物が顔を上げるまで動けなかったんじゃ。


「…………この度は、娘とその友人を助けていただき、本当にありがとうございました。この子の親として礼を言わせていただきたい」

「い、いえ……アタシも偶然だったので、気にしないでくださいっ」

「……そうですか。では、カーシの街の長であるカーシとして問わせていただこう。アリス、といったな。君はどうやってこの森の国へとやってきたんだ? 正直に答えてもらおう」

「と――父さんっ! アリスを疑うと言うのかっ!?」

「お前は疑うよりも信じるべきだろう。けれど、私はこの街の長でもある。だから、疑わしき者は疑うべきなのだ」


 殺気にも似た視線を彼女へと向けながら、娘からの怒りの声を何処吹く風といったように受け流しておった。

 けれど、いったいどんな事情があるのかまったく分からない彼女はどう言えば良いのか分からなかったんじゃが……、この空気は迂闊なことを言ったら碌なことにはならないということだけは理解できたのじゃ。

 じゃから彼女は……。


「えっと、何がどうして、こういうことを問い質されてしまっているのかを聞いても良いですか? アタシにはその理由が本当にわからないので……」


 そう言ったのじゃった。

次回、3年間に起きたことを少しだけ語る予定。

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