故郷より愛を込めて
「うぅ……もうお嫁にいけません……」
「ふっは~、堪能した堪能した~♪ サイズもバッチリ、興奮度マ~ックス! それじゃあ、始めるから椅子にでも座ってて~♪」
ぐったりするアリスと、お肌ツヤツヤのアルトという風呂上りの対極な2人が居る部屋でアルトの鼻歌が聞こえる中で、シャーッシャーッ! と生地の上に炭を走らせる音が聞こえていたのじゃ。デザインは頭の中で描いて、即座に一発勝負で創ると言うタイプなんじゃろうな。
とりあえず、色んなところを触られまくって、揉まれまくって……ぐったりしていたアリスじゃったが、少しだけ落ち着いてきたからか部屋の中を見る余裕が出来ておったから、見てみることにしたようじゃ。
グルグルと巻かれた服の生地であろう物が幾つも収められた棚、アルトが作業を行っている作業台、そしてついさっきティアとの会話に出ていたであろうドレスなどが掛けられたハンガーのような物。
「これがティアが着るっていうドレスですか? 綺麗ですね」
「ん~? そだよ~。よし、ここはこんな風にしてっと~! インスピレ~ションが止まらない~♪」
彼女が問い掛けると、作業をしながらアルトは頷いた。
それを聞いて、彼女はもう一度ドレスを見てみた。草木で染められたであろう、薄緑色をしたマーメイドドレス。
きっと、スレンダーな体型で銀髪翠眼をしたティアにはとてもよく似合うだろうと考えながら、彼女は他に掛けられている服があることに気づき……あからさまに嫌な顔をしてしまったのじゃ。
「え、えーっと……ねえ、アルト? これって何かしら?」
「これ? あ~、これだね~。これはね、わたしが昔から頭の中に度々浮かんだデザインを形にした物だよ~?」
「そ……そうなんだ……。でもこれって、幾らなんでもスリットが深すぎない……?」
「うん~、どうしてこんなにスリットが深いんだろうね~? これだけ深かったら、丸見えになっちゃうよ~、浮かんで作ったのはわたしだけどさ~」
楽しそうに笑いながら、アルトは壁に掛けられたこれ……チャイナドレスのことを言ったんじゃが、他にも何故かセーラー服やらブレザー、ゴスロリ、チアガール、ナース、アキバ系メイド服などが掛けられておったのじゃ。
何というか、素敵な仕立て屋だったのが一気にイロモノと化してしまったんじゃよ……。
まあ、本人はどんな服なのかは分かっていないだろうし、この世界の住人にとってはこれらは革命的なデザインということじゃろうな……。
けれど、彼女は色々と不安になってきたのか……声を掛けることにしたんじゃよ。
「あの、アルト……作業中悪いんだけど、お願いだからどんな服を作ろうとしているのかをデザイン画で描いてもらえないでしょうか……?」
「え~? まあ、いっか~。サラサラサラ~のふんふふ~ん♪ はい出来た~!」
「ありがとうございま――うっ、ゴ……ゴス浴衣風……いや、キツネだから似合いそうだけど……」
「ごすゆかた? もしかして、アリスって、わたしの服が何なのかわかったりする?」
微妙そうな顔をしながら、描かれたデザイン画を見た彼女じゃったが……そこにはミニ丈のヒラヒラがついたような着物とスカートという奇抜だけれど、この世界だとやっぱり革命的なデザインをしておったのじゃ。
そして、アルトは何処か期待するようであると同時に、怯えを感じさせるような瞳で彼女を見ておった。
そんなアルトの視線に耐え切れず、彼女は目を逸らしたが……諦めて溜息を軽く吐いてから、アルトへと向き直ったのじゃ。
「アタシ自身、詳しく答えられるわけじゃないからね。これらが何て名前で、どの用途で着てるかぐらいしか言えないから……」
「あ、ありがとうございます~♪ それでも構いません~!」
喜ぶアルトを見ながら、彼女はとりあえずではあるが自分が判る範囲でこの服は何て名前であるだとか、どういう場所で使われているかとかを説明してったんじゃ。
まあ、簡単に言うとこの服がどう呼ばれているかを説明して、セーラー服やブレザーは学校……学び舎で生徒たちが着る服だとか、ナースは病院……治療院で職員が着ている服だとか、着物は各所の名前は知らないけれど……本当はこんな感じであるとか言う説明をしていったのじゃ。
その度にアルトは、長年頭の中で浮かんでいた服の名前が判って物凄く嬉しそうにしておった。
そして最後に、彼女は自分が転生ゆうしゃであることを告げると、アルトは納得したように静かに頷いたんじゃ。
「なるほど……わたしの浮かんでいる服のイメージは、異世界の物だったんですね~。でも、わたしはゆうしゃじゃありませんよ?」
「もしかして、だけど……そういう種類の記憶だけが流れ込んできたとかじゃないでしょうか? 知識だけが与えられたとか……」
「なるほど~。じゃあ、差し詰め……『異界知識所有者』ってことでしょうか~?」
「多分、そんな感――ふぇくちっ!」
彼女がそう言って頷こうとした瞬間、クシャミをしたのじゃ。まあ、そうなるのも当たり前じゃろう……何せ、彼女はバスタオルを巻いている状態なだけ何じゃから……。
そのクシャミで漸く彼女の服装に気がついたアルトはハッとして、申し訳なさそうに彼女を見たのじゃ。
「あ~、ご……ごめんね~。話に夢中になりすぎちゃった~! でも、お陰で益々凄いのが浮かんじゃったから、期待してて~! でも、何か着ないと~! えっと、えっと~……これを着てて~!」
「え、こ……これ? 色々ときつくないですか……?」
「大丈夫だよ~、それにこれが今のところ、仕立てる以外で着れそうな服のサイズだから~」
にっこりと微笑むアルトは、彼女へと……スリットがかなり深いチャイナドレスを差し出したんじゃよ。子供は見ちゃダメ系の衣装じゃぞ。
まあ、もしもそんな服装を着てる人に会った場合は、せくしー。とでも言っておけば良いぞ。
その衣装を見ながら、彼女は心の底から……早くアルトが考えたであろう新たな服が出来ることを心から願っておった。
その場しのぎでチャイナドレスになりましたが、かなりパツパツになる予想。
チャイナドレスは太股ちょーせくしー。