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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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仕立て屋

 とりあえず彼女は坂を昇りながら、改めてカーシの街の中を見渡してみたのじゃが……人間の国や獣人の国とまったく違った造りをしていると心の底から思ったのじゃ。

 と言うか、樹の中で暮らす何ていう発想はまったく無かったんじゃよな……なに? アリスは色んな本を読んでて知識があったんじゃないのかじゃと? うむ、それはじゃな……実のところ、この森の国はエルフと妖精が住んでいて、巨大な木々が作り出す森林に覆われていると言う情報しか無かったんじゃよ……。

 要するに、行って見ないと判らないという状況じゃな。

 まず第一に、樹の中はくり貫かれているのか元からそうなっていたかは判らないが踏んで崩れるとかそんな心配はまったくないといった様子じゃった。

 そして、上へと向かう坂道は入口から見て左右にあって、そこからリボンをグルグルと螺旋状に巻くようにして、坂道が作られておった。更に坂道を少し登って行くと……外周に樹がくり貫かれている場所があったんじゃが、そこを覗くと等間隔にスペースが作られていて、そこでエルフや妖精たちが物を売り買いしているのが見えた……多分あれが市場なんじゃろうな。

 とか思っていると、その市場の中に服屋らしき物が見えたので、彼女は首を傾げた。


「えっと、あそこに服屋らしき店が見えるけど……そこで買わないのか?」

「ああ、あそこか。あそこはあたしたちエルフの一般的な体型に合わせた服ばかりが売られているんだが……その、アリスの体系だと……ごにょごにょ……」

「え……ア、アタシ、太ってる……?」

「いっ、いや! そんなことは無い、そんなことは無いぞ!! と言うか、あたしはこんなの見たことが無いしッ!!」

「そ……そうなんだ……」


 物凄い剣幕で顔を近づけてきたティアに引きながら、彼女は驚いたんじゃが……言われてみると、現在の姿がコン族の獣人であること以外、ちゃんと彼女は確認をしていなかったことに気がついたんじゃ。

 現在の自分はどんな風になっているのかと、気になりつつも見たくないという不安を抱き始めていると、ティアとフィーンは目的の場所へと辿り着いたのか立ち止まったんじゃよ。

 到着したのはカーシの街の中層に位置する場所で、周囲はあまり広い造りにはなっていないようじゃが……下の市場のようにくり貫かれた場所に店があるといったような造りではなく、一つ一つ木で作られた扉があるのう。見えるか? なに? 樹に樹の扉って変じゃと? まあ、変じゃな。じゃが、それが彼らの普通って言うことかも知れぬから、行くようなことがあったときは変などと言うんじゃないぞ。


「ついたぞ、アリス。ここが目的地だ」

「ここが……、ちなみにここって服屋で良い……のか?」

「ああ、あたしの友達が営んでいる仕立て屋だ。ここならキミに似合う服があるはずだ」

「おーい、アルトー。フィンが来たよー! ティアもいっしょだよー! とっととあけろー!」


 ティアが彼女にそう言ってる間に、フィーンが店の扉を力いっぱい叩いておった。……まあ、妖精の力いっぱいはコンコンという軽い音だったりするがな。

 あけろあけろー。と言いながらフィーンがコンコンと叩いていると、中から閂が外される音が聞こえ……ゆっくりと扉が開いたのじゃ。

 そして、中から物凄く眠そうに欠伸をしながら、眼鏡をかけたエルフの女性が姿を現しおった。


「ふぁぁあぁ~……何よぉ、フィーン……。こんな時間にぃ……あ、ティア。やほー……」

「おはよう、アル。大分眠そうだな、ちゃんと寝ているのか?」

「すっごく眠そー?」

「ん~~……、最後に寝たのは……24時間前かなぁ~……。良い感じに仕上がりそうだったから頑張っちゃったよ~……」

「そ、それって徹夜って言うんじゃ……」

「あはは、そうかもね~~…………あれ~? あれ、あれ、あれ~??」


 眠そうに話しているアルやアルトと呼ばれた女エルフは楽しそう(?)にティアたちと話していたが、彼女がついツッコミを入れてしまったところで漸く彼女の存在に気づいたのかこちらを見てきたのじゃ。

 そして、目をパチクリしながら一歩、また一歩と彼女へと近づき始めたんじゃが……眠たげだった瞳が何処か獲物を見つけたように見えておったんじゃよ……。

 そう思っていると、ティアとフィーンが彼女から距離を取っていることに気づいたんじゃ。そして、ティアへと女エルフは訊ねおった。


「ティア、この美人さんだれ? 何だか物凄くすっご~っく、創作意欲が湧いちゃうんだけど~!」

「アル。だったら、アリスに似合うのを超特急で仕立ててくれないか? この服装はかなりいただけないだろうし」

「いいのっ!? だったら、だったら~、すっごい似合うの浮かんじゃったから、着せて上げちゃうよ~~!!」

「え、えっと……ティ、ティア?」

「実はな……アル、アルトは……腕はいいのだが、その反面気分屋過ぎて仕事を引き受けてくれ難いんだ。けれどその分、自分の好みに合った人物が着る服は徹底的に満足が行く代物を作らないと気が済まないんだ……」


 物凄く言いよどみながら、ティアは女エルフことアルトの人柄を説明しておった。

 何処と無く嫌な予感を感じながら、彼女は「つまり……?」と問い掛けたんじゃが……。


「し、しばらく拘束されることになるだろうが、きっとキミに似合う素敵な服が出来るはずだ。だから、我慢してくれ!」

「ちょっ!? え、えぇっ!? って、は……放――ひぃぃぃぃっ!!」

「さ~、まずはあなたの体格を隅々まで調べないとね~、美人さん~♪ うふふふふ~、こんな素敵な逸材は久しぶり~! っと、その前にお風呂に入れて身体を綺麗にしたほうが良いかしら~? うふふふふふ~♪」


 楽しそうに笑いながらアルトは離れようとする彼女を引っ張って、扉の奥へと進んでいきおった。

 そして、そんな彼女へとティアは無事を祈り、フィーンは手を振っておった。

 そんな彼女たちに見送られながら……扉が閉まり、閂は下ろされたのじゃった。

こゆい人がまた出ました。

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