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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
獣の章
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街に向かって

 ティアとフィーンに連れられて、しばらく森の中を歩き続けた彼女じゃった。道中には先程見たものと同じような苔むした地面から顔を出した木の根や、シーダ植物と呼ばれる種類の草。そして所々の若木であろう樹に蔦を巻いている植物など様々な植物が見られたんじゃ。

 ん? お花はなかったのかじゃと? おお、あったぞあったぞ。じゃが人間の国や獣人の国で見かけたような花ではなく、樹の根元に咲く、小さな鈴のような薄紫色の花……樹に巻きついた蔦の所々に夜だけに咲いて光を放つ花。見える景色で言うと、これとこれじゃな。

 そして、しばらく歩きティアが立ち止まり、宙を飛んでいたフィーンはティアの肩へと下り……彼女にわかるように1本の樹を指差したのじゃ。


「アリス。もう少しで街に着くぞ。見えるか? あそこの樹だ」

「え? き……樹?」

「お腹すいたー。早く行こうよティアー!」

「そうだな。さあ、アリス。早く行こう」

「え、あ……ああ……」


 どういうわけかまったく判らないまま、彼女は2人に着いて歩き出していったんじゃ……。そして、樹の近くまで近づくと……根元辺りに大きな穴が空いているのに気づいたんじゃよ。

 そしてそこには、男性のエルフが数名ほど立っていたんじゃ。

 その内の1人が彼女たちに気づき、仲間たちに何かを言って……一斉に駆けつけてきおったのじゃ……良く見ると、彼らの周りに小さい物が見え……それが数匹の妖精であることが近づいてきたことで漸く理解出来たのじゃ。


「「姫様ッ、ご無事でしたかっ!!」」

「「フィンー、だいじょうぶだったー?」」

「ああ、すまない。心配をかけたなみんな。あたしは無事だ」

「心配ありがとー。フィンも無事だよー」


 駆けつけてきたエルフの男性たちがティアの前で跪き、ティアは優しく微笑み……フィーンのほうも、仲間であろう妖精たちに笑顔を振り撒きながら、仲良く手を繋いでクルクルと宙を舞っておった。

 彼女は喜びを分かち合う彼らを静かに見ていた彼女だったが、突然エルフたちは持っていた槍を彼女に突きつけてきたんじゃ。いきなりの行動にちょっとばかり驚きながら、彼女は目蓋をパチクリした。


「お、おい。お前たちっ! 何のつもりだ!!」

「姫様はお下がりくださいっ! 貴様っ、いったい何者だ!! あの魔族どもの仲間かっ!?」

「え、えぇー? ちょ、ちょっと待て。こっちの話を聞いてくれませんか?!」

「五月蝿い黙れ! 魔族の言い訳など聞く気は無いっ! やれっ!!」


 ティアの話をまったく聞かないリーダー格であろうエルフは勝手に彼女を悪人と決め付けおったのじゃ。

 そして、こちらの話をまったく聞く気も無く、周囲に合図を送った……その直後、彼女に向けて無数の矢が飛んできたのじゃ。多分、弓を構えて様子見をしておったのじゃろうな……。

 全周から放たれた矢に気づき、ティアがやめるように叫ぶが既に遅く……矢は彼女に突き刺さり、針鼠か海栗のようになるはずであった。ただし、彼女でなかったらの場合……じゃがな。

 彼女の身体に突き刺さろうとした矢が彼女に刺さる寸前で動きを止め、一本また一本と地面へとパタパタと落ちていったのじゃ。それを見た彼らは驚きを隠せずに目を見開き、彼女を一斉に驚いた顔で見ていたが……妖精たちは目を輝かせながら彼女を見ていたんじゃ。


「――ッッ! っぶないなぁ……」

「「な――なんだとっ!?」」

「「すごーい! きれいきれいー!」」


 妖精たちは自分たちとは違う物が見えるみたいなことをティアから聞いていたから、多分自分の身体を被うように展開した『風』の属性の魔力の層が見えているのだろうと彼女は思うことにしたんじゃが、事実緑色の魔力が彼女を覆っているのは見えていたらしいんじゃ。

 そして、他のエルフたちと同じように呆気に取られながら彼女を見ていたティアだったんじゃが、何とかハッとして大きな声で彼らを制止させたのじゃ。


「お前たち、いい加減にしろ! アリスは魔族ではない、それはあたしとフィーンが保障する!! それどころか、オークの慰み者にされかけたあたしを助けてくれた恩人だ!!」

「うん、フィンのことも助けてくれたよー。それに、アリスはいい人だってフィンもほしょーするよー!」

「で、ですが姫様……!」

「でもでも何でもいいから、早くアリスに向けた槍を下ろせ! 隠れているお前たちもだ!! 聞こえなかったのかっ!!」


 ティアのその言葉を聞いて、エルフたちは幾ら姫であるティアの命令であろうと譲れないといった様子じゃったが、渋々と武器を下ろしたのじゃ。

 そして、それを見ていたティアとフィーンはホッと息を吐いたんじゃよ。

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