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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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番外:ライトの冒険~豚は出荷~

「おかえりなさい。どうでしたか、忘却草は見つかり……大漁みたいですね」


 病室に戻った彼らにハスキーが声を掛け、袋一杯の忘却草を見て頷いた。

 そして、彼らをもう一度見渡し……フォードとサリーに視線を止めた。


「……サリーとフォード君は大丈夫ですか?」

「調べてみましたが、命に別状はありませんでした。ですが、少し安静にして置いたほうが良いと思うのでベッドに寝かせます」

「そうですか。では、ハツカさん。サリーをお願いできませんか?」

「うむ、任されよ。それではまた後で、ゆうしゃライト殿」

「ありがとうございました。ハツカさん」

「では私はフォード君を……っと、ついでに忘却草を薬師の元に持って行きましょうか? 持って行けば、すぐに忘却薬が出来ると思いますよ?」


 サリーを抱えたハツカが部屋を出て、ハスキーもフォードを抱え上げながらそう言った。

 忘却草だけでは忘却を行うことは難しいが、他の材料と混ぜ合わせることで本当に忘れたい記憶のみを忘れることが出来る忘却薬となり……現在シターが必要としている薬であった。

 けれど、ライトはハスキーに忘却草を渡さず……静かに首を振った。


「いえ、これは最後の手段にしておきます。それに、これに頼ろうとしていたのはぼくが逃げていただけだったのかも知れません。だから、ぼくも向き合わなくちゃいけないんです」

「そうですか……っと、来たみたいですね。それでは私たちは隣の部屋に居ますので、あなたの覚悟を見させてもらいますね。では……」


 そう言って、ハスキーは部屋から出て行き……隣の部屋の扉が閉まると同時に、ライトたちの居る部屋の扉がノックもなしに開かれた。

 そして、その訪れた人物を見て、ヒカリは露骨に嫌な顔を一瞬だけして、すぐに向こうに視線を移し……ルーナは笑みを浮かべつつも、瞳は蔑みの感情を宿していた。

 そんな彼女たちの視線などお構い無しに、やって来た人物はふひふひ言いながら、ライトへと近づいてきた。


「ふひひっ、ライト殿。無事でござったか!? 拙者、危険な場所にライト殿が行ったと聞いて胸がキドキドでしたでござるよ! ややっ、その袋一杯に入ってるのが忘却草でござるか! ささ、ライト殿っ。早く忘却薬を調合してシターたんから嫌な記憶を消し去りましょう!」

「そうですね。ですが、ドブさん。少し聞きたいことがあるのですが、宜しいでしょうか?」

「ふひっ? 何でござるか? 拙者のスリーサイズなら喜んでお教えするでござるよ」

「いえ、そのすりーさいずは何のことかはわかりませんが、聞きたいのはそれではありません」

「おお、では何でござるか?」


 にやついた笑みを浮かべるドブを一度見てから、ライトは静かに目を閉じ……意を決したように目を開くと聞きたかったことを口にした。


「初めてドブさんに会った日の夜。トイレに目が覚めたとき……ドブさんが居なかったのはどうしてですか?」

「ふ、ふひっ!? な、何のことでござるかっ!?」

「最初は見回りにでも行ってくれているのかと思いました。けれど、シターの悲鳴を聞いて……もしかしてと思う心がありましたが、ドブさんもゆうしゃだからそんなことはするはずが無いと思っていました」

「ふひっ、そ……そうでござる! 拙者はゆうしゃでござるよ。そんな拙者が破廉恥なマネをするはずが無いでござろう!」


 そう言って、ライトの爆弾発言に脂汗を流しながら、ドブは名誉毀損だのどうだのと彼らにわからないことを叫んでいた。

 そして一方、ライトは静かに話を続けていた。


「ぼくもそう思っていました。ですが、この国に来て、色々と考える機会が出来て……ゆうしゃでも嘘を付いたりもすると、ぼくも漸く自覚しました。だから、シターがあの夜のことを話してくれたら、ぼくはシターの言うことを信じます」

「ふひひっ!? な、何を言ってるのでござるかライト殿! 同じゆうしゃである拙者の言葉よりも、ロリ僧侶であるシターたんの言葉を信じると言うのでござるか!?」

「ドブさんがゆうしゃでも……、やっぱりぼくはシターを信じますっ! だって、彼女はぼくの仲間なんですからっ!!」


 シターの手を握り締めながら、ライトは心の底からそう叫んだ。

 すると、ピクッと握り締めていたシターの手がライトの手を握り返してきた。

 そして……眠っていたシターはゆっくりとその目蓋を開いた。


「ライトさま……、ありがとう……ございます」

「シターッ? 目を覚ましたのかい? 何処か悪いところは無いか?」

「大丈夫、です……。それに、ライト様たちの声は……聞こえてました」

「シターちゃん。だったら、答えてもらえるかしら? あの夜、私たちの馬車の中で何を見たのかを……」

「は、はい……あのとき、あのとき、シターが見たのは……」


 少し震えながら、シターはたどたどしく口を開いた。あの夜に彼女が見たものの正体を……。


「シターの……下着を顔に被って、……ルーナ様とヒカリ様の下着を両手に持った……ドブ様でした……」

「ふ、ふひふっ!!」

「あっ、逃げた! てか、速っ!!?」


 シターがそう言った瞬間、ドブはまるで台所にいる黒いヤツな感じのスピードで素早く部屋の入口まで逃げ、扉を開け――。


「何処に行こうというのだ、ドブ」

「ふひっ!? ハ、ハツカ殿っ!? 何故ここに居るのでござるかっ!!」

「そんなことはどうでもいい……とは言いたいが、ハスキー殿の元への護送途中に逃げた貴様を見つけたから、ハスキー殿と共に張り込ませて貰ったぞ」

「ふひっ! 拙者ピンチ、ピンチでござる!! けれど、ピンチな拙者は急いで逃げるのである!!」


 そう言って、ドブは素早くハツカを通り抜けて、ドアから出ようと――。


「逃がしませんよ」

「ぶひっ!」

「すまない、ハスキー殿。油断した」


 顔を踏みつけて、ハスキーがドブを動けなくし……その間にハツカがドブをロープで雁字搦めに縛りつけた。

 その際、ドブは「キッコウシバリ、キッコウシバリが良いでござる!!」と訳のわからないことを言っていたが無視をした。


「さて、この人の矯正は大分時間がかかりそうですね……。ですが、スナさんの頼みですから、出来る限りのことはしましょう……さ、行きますよ」

「うむ、ハスキー殿。それでは失礼する」

「むひっ! むひぃぃぃぃぃっ!!」


 売られていく豚のように鳴くロープで縛り付けたドブを棒で運ぶために、ハスキーとハツカは部屋から出て行った。

 それを彼らは一瞬の出来事で、呆然と見ていたのだった。

 1時間前までは、このドブを自らゆうしゃの称号を捨てて、怪傑オパンツ仮面って言って変態紳士として、窓から飛び出て行くという考えもありました。

 だから若干、不完全燃焼。

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