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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
134/496

番外:ライトの冒険~Sの覚醒~

この話はサリー視点で進みます。

 寒い、苦しい、痛い……。

 ぼんやりとしたワタシの頭の中ではそんな考えがグルグルと渦巻き、ぐらぐらしています。

 そんな中で、薄っすらと目蓋を上げると……フォード君とハツカさん、それとルーナさんたちが苦しそうに膝をついていました。

 いったい何が起きたのだろう? そう思いながら、少しだけ身体を動かそうとしたら……焼けるような激痛が脇腹から体中を駆け巡りました。

 ああ、そういえば……ワタシ……。

 その痛みで、自分はモンスベアーに殴り飛ばされたのだと言うことを思い出したけれど――口を開こうとした瞬間、周囲の空気を吸ったのが原因か、身体の中に血が溜まっているのが原因か判りませんが……焼け付くような痛みが喉を走り抜けました。


「ひゅ――、か――は――ぁ……かふっ!」

「っ!! サ、サリーさん……! しっかりしてくれ! くそっ……早く街のほうに連れて行かないと……!」

「それも、そうだが……フォード殿。我らもこの窮地をどう乗り切るかが問題だと思うぞ……っ」


 血を吐いたワタシに向けてフォード君が叫び、迫り来るモンスベアーに苦悶の表情を浮かべるハツカさん。

 ああ、これでワタシたちは終わりとなるのでしょうか……いえ、ワタシたちではなく、それよりも先にワタシが終わりますね……この傷だと。

 そう思うのは、痛かった脇腹が徐々に何も感じなくなって、更に熱かった身体が寒くなり始めているからです。

 多分、フォード君たちもそれを判っているのでしょう。だからあんなに必死になってるんですよね……?

 必死にワタシを見るフォード君に、掠れて声が出ない口をゆっくりと動かし……師匠が居なくなってからのフォード君への態度の謝罪をします。


 ご・め・ん・な・さ・い。


 言っている意味を理解したのか、フォード君は悔しそうな……悲しそうな……諦めたくないといった表情を見せます。

 ごめんなさい、フォード君。悲しい思いをさせて……そして、師匠。長生き出来なくて、ごめんなさい。

 そう思いながら、自身にやってくる最後のときを待つために目を閉じます。

 そんなワタシの耳元に、恋焦がれるほどに……ずっと聞きたかった声が聞こえました。


アタシの本体(オリジナル)が命を懸けて助けたのですから~、そんなあっさりと死なないでください。サリー様」

「………………え? ししょ、う……?」


 驚きながら、幻聴かと思いつつ目を開けると……周囲は灰色に染まっていて、ワタシと目の前に居る人形サイズの師匠以外が動いていません。

 え、どういうことですかこれ? と言うか、師匠がなんだか凄く小さいんですけど? 人形サイズの師匠……これは、ありですね!

 じゃなくて、これはいったいどういうことなんですかっ!?


「あー、驚くのも無理はありませんね~。サリー様、アタシはサリー様が首に掛けている欠片の中に残っている魔力の欠片です。改めてよろしくお願いしますね~」

「は、はあ……その、よろしくお願いしま――かはっ!?」

「うわ、すっかりと瀕死だったのを忘れていました~。サリー様、ちょっと痛いですけど我慢してくださいね~。――よいしょ~~っ」

「??!?!?!?!?!? ~~~~っ!!!??!>!>!にNIOんgふぉんで!!?」


 人形サイズの師匠……自称魔力の欠片がそう言って動くと、直後激しい痛みがワタシの脇腹を襲い……同時に何かが抜けていく感覚がありました。

 しかも、ちょっと痛いとか言っていましたが、これはかなり痛いです! 痛い、痛いから!!

 奇声じみた叫び声が口から洩れます。そして、脇腹辺りでは師匠の声で楽しそうな鼻歌が聞こえてきます。


「大丈夫大丈夫、痛いのはほんの一瞬だから~。ええのんか、ここがええのんか~、ふんふふ~ん♪

 よし、抜けた~っ! ってことで、仕上げに……それ~~っ♪」


 満足気な声が聞こえたと思った瞬間、暖かい光がワタシを包み込み……痛みが身体から消えて行きました。

 いったい何が起きたのかと思いながら、脇腹を指でなぞってみると服は破れているけれど、傷と呼べる物はありません。

 高度な回復……ということでしょうか? そう思いながら、改めて師匠の魔力の欠片を見ると満足気に汗を拭っていました。


「ふぅ、回復完了~。どう? 傷はない、サリー様?」

「は、はい……大丈夫、です……。えっと、ありがとう……ございます?」

「はい、どういたしまして~♪」


 ワタシがお礼を言うと、師匠の魔力の欠片は……いえ、もうちっちゃい師匠。略して天使師匠と呼ぶべきですね! というか、今決めました。誰がどう言おうと今ワタシが決めました! 文句があるなら掛かってきなさい!!

 ――はっ!? 脱線してしまいましたね。天使師匠はワタシがお礼を言うと、その愛らしい笑顔をワタシに向けてくれました。この笑顔を見たから、ワタシも暴走してしまったんですね。

 そう思いながら、天使師匠をじっと見ていると……そんなことをしてる場合じゃなかったんでした~。と言って、天使師匠はワタシの前に立ちました。


「サリー様。あなた様方は今とっても危険な状況にあります~。それは判っていますか~?」

「ほわぁ~~……――はっ! は、はい。師匠!」

「ですから、アタシの残っている魔力を使ってここら一帯を五分だけですが浄化します~。その間に、あのモンスターを倒してください~」

「えっと……ご、五分、ですか? 流石に厳しいんじゃないんでしょうか?」

「はい~。少し厳しいと思いますので、サリー様の今のままだと開かないけど、若干開きかけている扉を無理矢理開けさせていただきます~♪」


 開きかけている扉って何ですかっ!? そう聞こうとした瞬間、天使師匠が「よいしょ~♪」と言って、ワタシに突撃して来ました。

 ぶつかる!? そう思い、身構えた瞬間――擦り抜けるように天使師匠がワタシの中へと入っていくのが見えました。

 呆気に取られて、何が起きたのかと思った瞬間……身体、いえ身体のはずですが……そうでない何かが、無理矢理内側から開かれる痛みを覚え、ワタシは声にならない悲鳴を上げました。

 悲鳴が上がる度に、内側が開かれていき――その度に、ワタシの身体を何かが駆け巡っていきます。

 バリバリと、ビリビリと、パチパチと、身体を駆け巡り……痛みに精神が限界に来そうになった瞬間。


「ふ~。扉を開く作業完了~♪ 我ながら、いい仕事したよ~!」


 そんな、能天気かつ愛らしい天使師匠の声が聞こえました……。

 同時に……ワタシの中にどう言い表せば良いのかわかりませんが、何かが目覚めた感覚を感じました。

人形サイズのアリスと出会った際のサリーの頭の中、ちょっとやばいことになっていました。

顔文字で言う所の下な感じです。

(▼△▼) → (@q@)

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