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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
133/496

番外:ライトの冒険~絶体絶命~

「そ、その覚えられかたは無いですよ、ルーナさん……」

「そうね……ごめんなさい」

「いえ、本当のことなので謝らないでください……」

「フォード殿! 世間話はそのくらいにして、早くこのモンスベアーを倒すぞっ!」


 膝を突くフォードにルーナが謝ると言う一コマがあったが、即座にチュー族の女性――ハツカが大きな声でそう言うと、ハッとして剣を抜いて前に出た。

 その姿は、ルーナが一度だけ見た何処か情けないといった雰囲気は無く、それどころか一人前の冒険者といった風格を持っていた。その姿に本当に目の前に居るのはフォードなのかと疑いたくなったが、それは紛れも無くフォードだった。


「ルーナさんは早く下がって、森の入口まで避難してくださいっ。コイツは俺たちが引き受けますから」

「え、えぇ……でも、向こうにもう一人……わたしたちの依頼を受けてくれた冒険者が居て、その……モンスベアーの攻撃で吹き飛ばされてしまったの……」

「え……? ル、ルーナ……さん。もしかして、その冒険者って……サリーって名前じゃ……」


 振り返って顔を青白くしながら、フォードが問い掛けると……ルーナは静かに頷いた。

 その頷きを見てから、フォードはゆっくりと振り返り……構えていた剣を鞘に収めると……それを冒険者のカバンに入れて、彼は別の剣を取り出した。

 そして、軽く深呼吸して呼吸を整えると――気を高めた。


「すんません。ハツカさん……こいつの相手は俺がしますんで、サリーさんをお願いできませんか……?」

「わかった。その表情を見る限り、馬鹿なことはしないと見える。サリー殿のことは任せろ」

「ありがとうございます。ルーナさん、ハツカさんがサリーさんを助けたら……お願いします」

「フォードくん、わたしも――」

「いえ、こいつは……俺がやらないと気がすまないので……俺一人で」


 そう言って、フォードは新たに取り出した剣を鞘から抜いて、構えた。

 それは見る人を魅了するかのような朱色に光り輝く刀身を持った剣だった。多分、サリーが持っている短剣と同じ物だろうとそれを見たルーナは思った。

 そんな中、倒れていたモンスベアーが雄叫びを上げながら立ち上がった。その雄叫びにルーナは恐怖し、気絶しているヒカリを抱き締めた。

 ギョロリとした瞳が周囲を見渡し、一箇所に集まっているフォードたちに狙いを定めると口から荒い息を吐き出した。

 若干黒く濁ったような吐息だ……。


「それじゃあ、ハツカさん。お願いします」

「うむ、任されたっ! では……行くぞっ!!」


 2人は頷き合うと、モンスベアーへと駆け出し……ある程度近づいたところで、ハツカは素早く横に跳んだ。そして、フォードのほうは真正面から戦うのか、モンスベアーへと突っ込んで行った。

 一方、モンスベアーのほうは分かれた2つの餌のどちらを狙うべきかと考えた。

 正直、目の前から突っ込んでくる男は餌としては狩り易いだろうが、筋張っていて美味しくないだろう。けれど、横に跳んでいった小さい女は餌としては嬉しいのだが、小さいので味気ないだろう。だから、どっちを狙うべきかと悩んだ。

 結果……モンスベアーは隙が産まれ、フォードは懐へと入り込むことに成功した。


「お前は許す気は、俺には無いッ! くらえ! <スラッシュ!!>」

『GA!? GGGGGRRRRRRRRRRRRRRRROOOOOOOOOOOOO!?!?!?!』


 モンスベアーが驚く顔を見せたが、そんな些細なことは無視してフォードは素早く剣を斜めに振るった。

 その剣筋は、数百回、数千回、数万回……それ以上の回数を同じ動作で降り続けて得たであろう一撃だった。

 剣の軌跡として、朱色の軌跡が描かれ――剣筋に沿うようにして、モンスベアーの身体が裂けて行き……角が断たれ、鼻が落ち、血が噴出しながら……地面に倒れた。

 それを見届け、フォードが周囲を見渡すと……ハツカがサリーを抱え上げているのが見え、そのままルーナのところへと連れて行くのを見て……安心した。

 ルーナに任せればきっと、サリーは大丈夫だ。そう考えての安心だったが……サリーを前にしたルーナは手を出すことが出来なかった。

 回復は、魔法使いであるルーナよりも僧侶であるシターの領分であるが、彼女も簡単な回復は行えた。けれど、けれどサリーの現在の様子を見る限り……シターでさえも、回復は難しいと言えるだろう。


「これは、もう……手遅れよ……」


 震える声で、ルーナは呟いた。

 何故なら、サリーの顔色は既に青くなっており……脇腹には、殴り飛ばされたときに刺さったのであろうモンスベアーの爪が突き刺さっていたのだ。

 そして、状況はなおも最悪な方向へと向かうらしく……倒れていたモンスベアーから、黒い煙が漏れ出し……身体を包み始めていったのだ。

 そのモンスベアーの変化に逸早く気づいたのはハツカだった。彼女はすぐにフォードにモンスベアーの息の根を止めるように叫んだ。


「フォード殿! 何か嫌な予感がするっ! 早くモンスベアーを倒――ぐっ!?」

「っ!? これって、まさか瘴気か……!?」

「くっ……うぐ……」

「くる……しぃ」


 ハツカの言葉にモンスベアーにトドメを誘うとしたフォードだったが、モンスベアーを包み終えた黒い煙は周囲に噴出すようにして煙を撒き散らした。

 その煙を吸った彼らは苦悶の表情を浮かべながら、膝を突いた。

 モンスベアーから噴出された瘴気は人体には毒であり、逆にモンスターであるモンスベアーにとっては回復薬であり、強化剤でもあった。その言葉の示すように、裂かれた傷跡は塞がっていき……身体つきもついさっきと比べると毛皮越しの筋肉はパンパンに膨れ上がっていた。

 そして、獰猛な牙を光らせた口は涎を垂らし……膝を突いて動けない獲物に舌なめずりしていた。

やばい、ちょうねむい……。

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