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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
132/496

番外:ライトの冒険~ほんの一握りの勇気~

 サリーがモンスベアーによって吹き飛ばされるのを、ヒカリとルーナは漠然と見ていた。

 同時に、ヒカリの頭の中はどうするべきか、どう動くべきか? サリーを助けるべきなのかと考えており、ルーナの頭の中では残酷ではあるが、サリーを捕食している間に……自分たちはどれだけ逃げることが出来るのかと助かることを考えていた。

 そして、ルーナは一瞬躊躇ったけれど……残酷な行動に出ることに決めた。そうするのは、サリーよりもヒカリのほうが大事であるからと言う現われでもあった。


「ル、ルーナ姉……どうしよう……あの人が――」

「……ヒカリちゃん、早く逃げるわよ」

「え? ル、ルーナ姉?? も、もしかして見捨てるつもりなわけっ!?」

「可哀想だし、悪いとは思うわ……でもね、わたしはヒカリちゃんやライくんたちのほうが大事なの。だから、酷い女だって罵ってくれても構わないわ」


 そうルーナは、真剣な顔をしながら辛そうに言った。

 そんな彼女を睨みつけていたヒカリだったが、頭では目の前のモンスターに立ち向かっても自分たちが犠牲になるというのを理解してはいた……けれど、心は認めたくなかった。

 このまま自分たちが逃げ出したら、あの人は……サリーは死んでしまう。そう理解していたから、ヒカリの身体は動けなかった。

 そんなヒカリの心境を知ってか知らずか、逃げるように促しながらルーナは彼女の腕を引いたが……頑として動こうとはしなかった。


「何してるの、ヒカリちゃん! 早く……早く逃げないと――」

「……ごめん、ルーナ姉。やっぱりボク、あの人を置いていけないっ。それに……ここで逃げたら、ライトの仲間だって胸を張って言えなくなるよ……だからっ」

「言えなくても良いから、早く逃げて! ヒカリちゃんっ!!」

「てりゃああああああぁぁぁぁっ!!」


 必死に叫ぶルーナの手を振り払い、ヒカリは地面に落ちていたサリーの短剣を拾うとモンスベアーに向けて駆け出した。

 正直、怖くて今すぐにでも逃げ出したかったけれど、勇気を奮い立たせながら短剣を構えて、サリーに近づくモンスベアーの背中へと突き刺した。

 そのとき、ヒカリにとっては少しでもモンスベアーの注意をこちらに向けることが出来ればと思ったの行動であった。けれど、彼女の予想は大いに裏切ってくれた……それも予想外の方向へと。


「――え? え、なにこれ?」

『GGGGGGGGGGGGRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRROOOOOOOOO!!?』


 突き刺した短剣は突き刺さらなくても良い、そう思っていた。それなのに、短剣は何の重みを持ち手に感じさせずに……スルリとモンスベアーの背中に突き刺さった。

 いったい何が起きたのかと目が点になりながら、背中から血を流して叫ぶモンスベアーを前に短剣の異常さに驚いてしまった。

 動きが止まったヒカリへとルーナが張り裂けそうなほどの声で叫んだ。


「ヒカリちゃんっ! 危ないっ!!」

「っ!? しま――くぁっ!?」


 ルーナの声でハッとしたヒカリだったが、次の行動に移ろうとした瞬間――背中の痛みに暴れるモンスベアーに巻き込まれて、ヒカリは跳ね飛ばされてしまった。

 バッファローホースに正面衝突を食らわされたような衝撃がヒカリを襲い、ヒカリの身体は宙を舞い地面に落下しようとしていた。

 けれど、地面に近づいたヒカリの身体が一瞬だけふわりと重力に逆らうように浮いた。どうやら、ルーナが素早く魔法を詠唱して、ヒカリを助けたのだろう。だが、受けた衝撃は強かったのか、ヒカリの意識は朦朧としていて動くことが出来なかった。

 遠くから、ルーナが逃げるように叫ぶがヒカリは動くに動けなかった。そして、モンスベアーは自分を痛い目に合わせた人物はコイツだと理解し……荒い息を吐きながらヒカリに向かって突進してきた。


「だめっ、間に合わないっ!!」

「ならば、間に合うように動けば良いだろうっ!!」

「えっ?」


 顔を覆ったルーナだったが、不意に横から声が聞こえ……同時に一陣の風通り過ぎて行くのを感じた。

 いったい何が起きたのかとルーナが目を開けると、槍を携えた小柄な……チュー族の女性が駆けて行くのが見えた。


「はぁっ!! <パワーブレイクッ!!>」


 槍を構えると共に、チュー族女性はそう叫びながら突進してくるモンスベアーの次に踏み出そうとしていた足に槍を突き刺した。

 その攻撃に体勢が崩れてモンスベアーの身体は地面を揺らしながら、激しい音を立てて倒れ込んだ。

 いきなり現れたチュー族の女性をルーナは驚いた顔をして見ていたが、すぐにハッとして倒れこんでいるヒカリを抱えて後ろへと下がっていった。

 後ろに下がりきると、ルーナはホッと一息ついたが……背後に気配を感じ振り返るとライトに近い年齢の男性が一人立っていた。

 元気そうな見た目で、何処か調子に乗りやすいような顔をした少年……。


「はぁ……はぁ……、は……速いですよハツカさん……」

「何を言うか、フォード殿! 貴様もアリス様と共に旅をして、ハスキー殿に鍛えられたのだろう!」

「そ、それはそうですけど……って、あれ? ルーナ……さん?」

「え? え、えーーっと…………? ……え、フォードくんっ!? 調子に乗ってよく依頼を失敗していたあのフォードくんっ!!?」


 ルーナが必死に思い出した結果、目の前の少年は冒険者時代に会っていたことを思い出したのだった。

 そして、そんな覚えられかたをしていたフォードはガクリと膝を突くのだった……。

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