番外:ライトの冒険~OHANASHI~
ハスキーの言葉に、ベッドに眠るライトは動かなかったが……ハスキーの視線に耐えれなくなったのか、しばらくして彼はベッドから起き上がった。
そして、少し照れくさそうに頭を掻きつつ、ハスキーへと向いた。
「気づいていたのですか……? ぼくがもう目覚めていたって」
「はい。ですが、2人には気づかれたく無さそうだったので、何も言いませんでした」
「そうですか。……ありがとうございます」
「気にしないでください。あなたには色々と話をしたいと思っていましたので、彼女たちはしばらくの間……席を外してもらいました」
座らせてもらいます。と言って、ハスキーはルーナが座っていた椅子に座るとライトを見た。
そして、開口一番――。
「お二人には言いましたが、サリーが申し訳ありませんでした」
「いえ、気にしないでください……ぼくが弱かったのが原因ですから」
そうライトは言うが、心のどこかでは「いえいえ、あなたは弱くなんかないですよ」とか言われるのを期待していたのだろう。
なぜなら、ハスキーが言った言葉の反応がそう物語っているのだから……。
「はい、ライトさん。あなたは本当に弱いですね、正直サリーがあなたにゆうしゃなんて名乗るなと言うのは同感します」
「…………それは、どういう意味でしょうか……?」
「どうもこうも、あなたははっきり言って弱すぎます。聞いた話だと、【最強の矛】ハガネに手も足も出なかった上に手加減されていたらしいじゃないですか」
「――っ!! そ、それは……でも、あれからぼくらは強くなったんだ! だから、他の四天王が相手だろうとぼくは負けな――」
少しハスキーの言葉に苛立ったのか、ライトは言葉に怒りが混じりながらハスキーを睨みつけようとしたが……ハスキーが手で制して言葉を続けるのを遮った。
「いいえ、それは無理です。たとえ、あなたがたが頑張って強くなったとしても、四天王にはまったく届くことはないでしょう……彼女ほどの力が無いと……」
「彼女……? もしかして、サリーさんがあのときに言ってた、師匠と呼ばれていた人……ですか?」
悲しい目をしたハスキーが呟くように言うと、ライトがもしかしてと思いながらサリーが言っていた人物を思い出して言うと……静かに頷かれた。
サリーの心の傷はその師匠が原因なのだろうが、ハスキーもその影響を受けているのだろう……。
そう思っていると、彼は思い出すように静かに語り始めた。
「彼女もゆうしゃだったのですが、ライトさんのように普通のゆうしゃではなく、特別なゆうしゃでした。
彼女は全てが異常であり、並み居る敵を捻じ伏せて行きました。彼女の力は山をも砕き、彼女の魔法は天を貫くほどの威力でした。
そして、底知れぬ魔力を使っての武器作成……だからでしょうね、目指す頂上に彼女が立っているのを見て、サリーが師匠と呼ぶようになったのは……」
「……その彼女って何者なんですか……? どう聞いても人間じゃないように思えるんですけど……」
「いえ、人間ですよ。それも、あなたがたの王様は役立たず認定したって言う」
ニコニコと笑みを浮かべるハスキーの表情は何処か嬉しそうであった。まるで、物の価値を見出すことが出来なかったことに感謝しているといったような風に。
そんなハスキーの表情を見ながら、ライトはしばらく前に王城で擦れ違った、ボロボロの少女を思い出した。けれど、それは違うだろうと考えて、すぐに頭を振るって除外した。
「どうしたんですか、頭を振り出したりなんかして?」
「いえ、気にしないでください……でも、2人に話していた話を聞くかぎり、その彼女は亡くなったと思うのですが……」
「はい、亡くなりました……。【破壊】と【叡智】を倒してね……」
「…………え? い、いま、なんて……?」
ハスキーの言葉にライトは聞き捨てなら無いものが含まれていることに気づき、間抜け面を晒しながらハスキーを見た。
彼の聞き間違いなら良いのだけれど、【破壊】と【叡智】と聞こえた。それを意味するのは、残っている四天王である【破壊】のティーガと【叡智】のクロウのはずだ。
その表情のままハスキーを見ると、ライトの考えたことが当たっていると告げるかのように首を頷かせた。
「正直、彼女が居なければ……この国は終わっていたことでしょう。だから、話は戻りますが……それだけの力しかないあなたがゆうしゃを名乗るのだから、サリーは怒ったのですよ」
「そう……だったんですか」
そう呟いて、ライトは落ち込んだのか顔を下に向けて、ジッと何かを考えているように見えた。
そんな彼に何も語りかけずに、ハスキーは静かに椅子に座っていた。
(さて……、彼はどんな答えに辿り着くか……気になりますね。それと、サリーも……どうにか立ち直って欲しいですが、今はまだ無理でしょうか……。アリスさん、あなたは色んな物を残し過ぎて行きましたよ……)
心でそう思いながら、ハスキーは窓から見える空を見上げるのだった。