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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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番外:ライトの冒険~病室にて~

 冒険者ギルド2階の部屋に戻ったサリーは痛んだ拳を軽く治療し、手早く荷物を整え……革製のブーツを履いて、腰に2本の短剣を差すと、不恰好な形をした薄ぼんやりと朱色に輝く金属の首飾りを握り締めた。

 握り締めたそれは、まるで生きているかのようにほんのりと温かく、彼女の凍てついた心をほんの少しだけ溶かしてくれるような気がした。

 そして、そのときのサリーの表情はまるで神様に祈るかのような……それとも、無くした物を見つけられない子供といった表情をし、静かに首飾りに祈っていた。


「師匠、ワタシ……頑張ります。だから……見ていてください」


 小さくそう呟くと、サリーは首飾りを首に掛けると部屋から出ると、1階に降りてギルドホールに向かうと目的地までの移動用のホースを申請してから、ギルドがホースの貸し出しを行っている馬屋に向かうために歩き出したのだった。


 ●


 そして、一方その頃……気絶したライトは治療院で傷を治療してもらってから、個室のベッドに寝かされ……静かに眠っていた。……というか気絶していた。

 隣のベッドではシターが眠っており、そんな彼らを見守るように……ヒカリとルーナが椅子に座っていた。

 けれど2人の表情はまるで違っていた。ルーナは困ったといった表情をしており、ヒカリは苛立たしげな表情をしていた。


「あ~~……むかつくぅ~~っ!! 何なんだよ、あの女ぁ~~っ!!」

「ヒカリちゃん、腹が立っているのは分かったけど……もう少し静かにしないとライトが起きちゃうわよ」

「う……ごめん、ルーナ姉。でも、本当に腹が立ったんだよ。あのサリーって獣人……」

「サリー? そういえば、そんな名前の女性が少し前まで冒険者ギルドの受付に居たわね。元気にしてるかしら……あれ、でも……」


 苛立つヒカリの話を聞きながら、彼女の口から出た名前にルーナは冒険者時代にギルドでほんの少し話をした覚えがあるある人物を思い出したけれど、同時にその人物は指名手配を喰らっていたと言うのを思い出していた。

 と、そんなとき、部屋の扉が開かれ……中へとハスキーが入ってきた。

 入ってきた人物がハスキーだということに気が付き、ルーナはお辞儀をして……ヒカリは憎憎しげにハスキーを睨みつけていた。

 彼がサリーを紹介しなければライトがこんな目に会わずに済んだのだから……、ヒカリが憎憎しげに睨み付けるのは当たり前だろう。

 そしてその意味に気づいているのか、ハスキーは入って早々に2人に向けて頭を下げてきた。


「この度は、サリーが申し訳ありませんでした」

「いえいえ、気にしないでください。そのサリーって言う人も悪気があってこんなことをしたんじゃないんですよね?」

「ル、ルーナ姉!? 何勝手に許してるのさっ!! それに、何で本人じゃなくてギルドマスターが謝りに来るんだよっ!」

「そうですね。ですが、サリーは既に街から離れて、忘却草を取りに行っています。ですので、ギルドマスターではなく、叔父として謝りに来ています」

「お、叔父って……だったら、ちゃんと叔父なら叔父らしく、姪の暴走を止めてよっ!!」


 ハスキーのその言葉に、ヒカリはカッとなってそう怒鳴りつけた。

 それを聞いたハスキーは顔を曇らせ……何か理由があるのだろうとルーナが気づき、興奮しているヒカリを落ち着かせることにした。


「ヒカリちゃん、ちょっと落ち着きましょう。ハスキーさん……でしたっけ? あなたのその顔からして、何かあるってわたしは思ってるんですけど、どうなのかしら?」

「……分かりますか。すみません、私も少々疲れているみたいですね。顔に出るなんて……」

「良ければ、話を聞きますよ? 嫌でしたら別に構いませんが……」

「いえ、……これも何かの縁ですし、話すことにしましょうか。そうしたほうが、サリーがライトさんに容赦がなかった理由が分かると思いますしね……」


 そう言うと、ハスキーはサリーともう2人が、元々この国には客人としてやって来たのだけれど、魔族が起こした争いに巻き込まれてしまい、サリーともう一人……フォードが戦いに赴いている最中に、一緒にやって来た最後の一人である人間の少女が命を落としてしまったと言うことを告げた。

 そして、サリーは何も出来なかった自分を苛み、狂ったように依頼を受け続け……自らを壊そうとしているような振る舞いをしていると言う。

 それを聞いていた、ルーナはそうですか……と呟き、ヒカリは怒りのオーラが鎮火して行くのが分かった。


「あのまま、依頼を受けずに街に残っていたら妹みたいに可愛がっていた少女が助かったのではないかと心で思い続けて、その彼女を殺した魔族……ひいてはモンスターをも恨んでいるんです。いまのサリーは……」

「……そう。それなら、そのサリーさんもライくんに怒るのは頷けるわね……」

「ルーナ姉……?」

「わたしも、ライくんがゆうしゃなんだからって言う理由で、王様の命令を優先にしていたことと……シターちゃんがこうなった原因であるドブさんをゆうしゃだから悪いことをするわけがないって信じ切ってるのには、怒鳴りたいのを我慢していたのよ」


 怒鳴りたいけれど、我慢しなければいけない。だって、可愛いライくんが自分で気づいてくれないと……。だから、ごめんね、辛かったよね。

 そう言って、ルーナはヒカリの頭を撫でて、申し訳なさそうに眠るシターを見た。

 それを聞いて、ヒカリは涙を流しそうになったけれど、ハスキーが居るので必死に堪え……別のことに意識を向けることにした。

 要するに、サリーがライトに起こった原因。それは大事と言ってるなら、全てを放ってでも一緒に居てあげることが大事だと言うのに、ゆうしゃということを優先にしているのが腹が立ったということだろう。

 そう考えると、サリーの優しさが伝わってきた……けれど、ライトにしたことは酷すぎるのではないだろうか?


「ねえ、ルーナ姉。ボク、あのサリーって女に文句言わないと気が済まないんだけど……」

「奇遇ね、わたしもちょっとそのサリーさんに会ってみたいし……ついて行くわ」

「おや、何処かに出かけるのですか? ちなみに今だと普通のホースでは追いつかないので、ゼブラホースを使ったほうがいいですよ?」

「あ、ありがとう……ございます。行こっ、ルーナ姉!」

「ええ、すみません。ハスキーさん、ライくんとシターちゃんを見ていてもらえませんか?」


 そう言って、2人は飛び出すように部屋から出て行って、治療院を後にしていった。

 2人が通りを走っていくのを、窓から見てから静まり返った室内で、ハスキーは独り言のように呟いた。


「2人にはああ言って大部分は誤魔化しましたが、彼女と同じゆうしゃであるあなたには知っておいたほうが良いですよね。

 さ、寝たふりはそろそろやめて、話をしましょうか……ゆうしゃライトさん」

筆が進まないー。馬力をあげろー。

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