番外:ライトの冒険~未知との遭遇~
「ゆうしゃ様、今日はこの辺りで休むことにしましょうか」
獣人の国に入り、ある程度馬車に揺られていたライトたちだが、夕陽が昇り始めたところで従者が馬車を止めるとそう言った。
馬車から外を見ると、荒れ果てた荒野ばかりが目に付き……いや、少しだけ整地された道があるのに気が付き、それが街道であると言うことを彼らは理解した。
何時もは何処かの村の宿屋で泊まったりする彼らなので、こういうのは良く解っていないので従者に任せることにし、任された従者は野営の準備を始め、ライトたちもそれぞれの役割を行うことにした。
「それじゃあ、ボクは周辺を見ながら燃えそうな焚き木を拾ってくるよ」
「じゃあ、わたしは晩御飯の準備をしておくわね。美味しいご飯期待しててね、ライくん」
「シターはモンスター避けの結界を張っておきますっ」
「じゃあ、ぼくは――」
「あ、ごめんなさい、ライくん。ヒカリちゃんと一緒に行って、土台を作るのに手頃な大きさの石を持ってきてくれない?」
「えっ、ええっ!? ちょ、ちょっとルーナ姉!!」
ルーナの一言に、ヒカリが戸惑いながらもいきなり何を言うといった風に顔を赤くしながら抗議する。
けれど、ライトはそれに気づかずに頷いて、ヒカリへと手を差し出した。
「わかったよ、ルーナ。じゃあちょっと行って来るよ。行こうか、ヒカリ」
「う……わ、わかったよ……うぅ……」
「いってらっしゃーい。さ、シターちゃん。わたしたちも仕事をしましょうか」
「は、はい。でも、ルーナ様がライト様とヒカリ様を2人きりにするだなんて珍しいですね」
「まあ、たまにはこういうときもあって良いかなって思ったのよ。だけど、王都に帰ったらわたしたちも容赦はしないようにしましょう、ね? シターちゃん」
「シ、シターにはまだ早いですよぉ……はうぅ……」
悪戯っぽい笑みをシターに向けて、ルーナがそう言うとシターは顔を真っ赤にして俯いた。
それから少しして、気持ちの整理が付いたのかシターも自らの作業を始めるのだった。
そして、一方でまったく落ち着けていないのはヒカリのほうであった。
ライトは普通にルーナが言った石を探しているので、まったく気づかないのだがヒカリはライトと二人きりで歩いているという事実に喜びのあまり飛び跳ねたいとさえ思っていた。
だけどそこまで行くとちょっと変な感じに見えてしまうだろうと考えて、どうにか自制出来ていた。
(は、初めての外国旅行……それに、二人きり……そ、それでチューとかしちゃったりとかして……キャ~~!! って、ダメダメ。そういうのはボクだけじゃなくてルーナ姉とシターと一緒じゃないと)
「あ、これなんていい感じの大きさの石だね。どう思う、ヒカリ?」
「え――っ!? あ、う……うん、いい感じじゃないかな?」
「うん、じゃあこれとあと数個探そうか。それとヒカリ、具合でも悪いのかい? さっきからボーっとしてるけど」
心配そうな表情でライトがヒカリのおでこを触ろうと手を伸ばした。けれど、ヒカリはビクリとして距離を取った。
明らかにあからさま過ぎる拒絶っぷりに、ヒカリは心の中で「やっちゃったー!」と叫んでいるけれど、それを隠して手を前に突き出してブンブンと振る。
「だ、大丈夫だよライト! じゃ、じゃあ、ボクも焚き木の枝を探さないと!」
「まあ、元気なら良いか。それじゃあ、ヒカリもしっかり見つけるんだよ」
「うんっ!」
ライトの輝くような笑みに頬を染めながら、ヒカリは枝を捜しにもう少し歩き始めるのだった。
しばらく歩いて、ライトとヒカリが互いに見えるか見えないかの距離まで歩くと、ヒカリはしゃがみ込んだ。
やっぱり先程の行動はやり過ぎたのではないかとか、ライトに嫌われていないよね。とかぶつぶつ呟いて自分を諌めていた。
そんなヒカリに突然声が掛けられた。
「うひひ、いきなり拙者の腹にお尻が圧し掛かったと思ったら、悩めるボクっ子だったでござる!」
「えっ!? だ、誰!! って、は……腹? うわっ!!?」
「ああ、温かい感触が離れて行ったでござる。まだ圧し掛かられていて欲しかったでござるぅぅ!」
良くわからない、けれど寒気が奔るような声を放ちながら、ヒカリの目の前に一匹の小柄なデブが姿を現した。
いや、ただ単に寝転がっていただけだったのだろう。そしてそれが起き上がっただけだ。
目の前の小柄なデブはいったい誰なのかと、混乱するヒカリだったが頭の上に見える耳と、地面から見える細長い尻尾で獣人であることが理解出来てしまった。
これが、獣人と会うのが楽しみと言っていたヒカリの初めての獣人との遭遇だった。
当然、膝を突いて落ち込んだのだった……。
こ、このチビデブ獣人はだれなんだー?(棒