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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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かすかな呟きは虚空に消えて

 数時間前に上り、気絶している間に下った山を……ワタシは一歩一歩歩いていきます。

 体力が回復しきっていないのか、頭がくらくらしますが……一刻も早く神殿がある場所まで向かいたいので、休憩はしません。

 途中、ハスキー叔父さんが何か言いたそうな顔をしてこちらを見ましたが、目を反らしました。

 そして、その甲斐あってか、神殿がある場所まで辿り着きました……いえ、正確には神殿があった場所……です。

 いったいどれだけの爆発に巻き込まれたのかは分かりません。ですが、ボロボロになっていた神殿前の石畳も……入るのに苦労するはずだったのにあっさりと入ることが出来た神殿も、目の前にはありません。


「これは……ひでぇな……」


 冒険者の一人が呻くようにそう呟きます。

 周囲に溜まった熱も抜けきっていないのか、地面からは湯気が立ち……立っているだけでも汗が零れてきます。

 そんな中、ワタシは……師匠を探していました。

 師匠は生きている。きっと生きているんだ……そう心で信じながら、それを支えにしてワタシは周囲を見渡します。

 すると、【叡智】のクロウが立っていた高台があった場所に、黒ずんでいながらも薄っすらと光り輝く壁が見えるのに気が付きました。

 恐る恐る近づいていくと、他の冒険者たちもそれに気づいたのか近づいてくるのが見えました。


「し、師匠? 居るなら、返事をしてください……」


 恐る恐る訊ねるけれど、壁の中からは何も聞こえません。……もしかしたら、気絶してるんじゃないのだろうかと思い、壁を叩いてみると……脆いガラス細工のように壁は砕けていきました。

 そして、中には……純白に輝く女神像が鎮座するだけで……師匠は居ません。

 ど、どうしてですか? 師匠? 何処に行ったんですか? まさかあの爆発に……いえ、そんなはずはありません。あの師匠が簡単に――。

 そんな中で、不意に背後から呼ばれる声が聞こえ……振り返ると、フォード君が立っていました。


「サ、サリーさん……あの、その……えっと……」

「ごめんなさい、フォード君。今は相手をする暇は無いんです」

「いやっ、違う! 違うんですっ! その……こ、これ……」

「だから、これって――え……?」


 フォード君から視線を反らそうとしたワタシですが、必死にフォード君は手に持っている物を見せようとします。

 正直、鬱陶しくなりそうでしたが……諦めて、フォード君が持っている物を見た瞬間、ワタシは固まりました。

 それは……煤けて光が失われていますが……師匠にしか作ることが出来ないであろう、アダマンタートルとオリハルコンタートルの甲羅の欠片を合わせて作られた物でした。

 それを見た瞬間、ワタシは理解しました。師匠は……もう、居ないんだと……。

 けれど、頭では理解したとしても……心はそれを認めようとはせず、フラフラとまだ師匠を探そうとしました。

 ですが……歩き出そうとした瞬間、乾いた音が耳元で響き……直後、頬が熱を持ち始め……ワタシが叩かれたのだということに気づきました。


「叔父、さん……?」

「サリー……現実を認めてください。アリスさんは、私たちを救うために犠牲になったんです」

「犠牲……に、師匠……師匠……ししょぉ……」

「サリーさん……泣きたいときは泣いて良いんですよ。がばん、ぜずに……」


 壊れたように師匠と連呼するワタシにフォード君がそう言います。

 でも、子供みたいな真似は出来るわけがないと思いましたが……、フォード君も涙を零しているのを見ると……自然と涙が零れ落ちました。

 師匠、会いたい……会いたいですよ……。

 けれど、ワタシの言葉に返事を返してくれる声はありませんでした……。


 ●


 そんな風に考えているサリーの心の声が、彼女には聞こえていたわ。

 もしかしたらだけど、魂だけになったからそう言うのに敏感になったのか……それとも、そう思っていて欲しいって言う彼女の願望だったのかは分からないわ。

 でもね、サリーやフォードの涙を見ていると……彼女は諦めながらも少しだけ悔しそうな顔をしてから、何時の間にか隣に居た彼へと笑ったの。


『お別れ、言えなかったですね……』

『ああ……、けど……いつかまた会えると思う』

『……そうですね』

『だから、また会えたときには……笑ってあげようぜ』

『はい……。サリー様、フォード様……いつか、また……』


 そう呟きながら、彼女と彼の身体は消えて行ったわ。


 これが、彼女の物語の終わり。

 ……って、泣きそうな顔をしないの。まあ、こんな終わりは酷いって思うし、彼女もサリーたちも可哀想よね。

 っと、いい感じに膨らんでる。それじゃあ、石窯で焼こうか。

 まあ……一応続きはあると言えばあるけど――って、喰い付かないの! でも、これからの話をするのはアタシよりも別の人が適任かなー……。

 ん? ああ、こっちの話しこっちの話。

 まあ、続きが気になるって言うんだったら、考えておくわね。

 あはは、はしゃがないのはしゃがないの。

 じゃあ、パンを焼き終わったら、母さんはちょっと出かけてくるわね。あんたはちょっとお昼寝でもしていなさいね。

 付いて行ったらダメかって? んー、ちょっとダメかなー……淑女の嗜みってヤツだからね。

人間終了。

とりあえず、数日ほど番外編を行ってから、続きを始めたいと思います。

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