砕け散る魂
彼女視点から、●後はハスキー視点に移ります。
ワンダーランドを構えると、彼女は躊躇わずに両手で持ち手を握り締め――砲身を出現させて、バスターフォームへと変化させると共に前方に6つの魔方陣が展開されて……迷わず彼女は引金を引いたわ。
直後、6つの属性に包まれた高出力の魔力砲は放たれ……黒い柱に命中したの。
けれど、命中と同時に魔力砲の魔力は黒い柱へと吸い込まれて行き……魔力砲から力が抜けて行くのを彼女は感じたわ。
『無駄である、無駄であるぅぅぅぅぅぅっ!! 貴様のぉぉ、その行動は無駄であるぅぅぅぅぅぅぅっ!!』
『無駄かどうかなんて、あなたが決めるべきことじゃないです……! ああ、その無駄な自信に抱かれたまま、この世から消え去れっ!!』
そう叫び、彼女はワンダーランドにより魔力を込めて……魔力砲の威力を上げたわ。
同時に魔力を上げて行くに連れて……、彼女の耳には自身の身体から聞こえる音が大きくなっていたの。
そして、ある瞬間に……パキリと音が聞こえたと同時に――胴体が砕けたの……。
痛みはなかった。正直、こうなった瞬間から彼女は人の形をした何かになっていると理解していたわ。
それを見ていたであろう【叡智】のクロウは何かを叫んでいるけれど、彼女の耳には届かなかったの。それよりも大事なことがあるのだからね……。
『く、だけ――ちれぇぇぇぇぇっ!! い――っけぇぇぇぇぇっ!!』
まるで蝋燭の最後に炎が一気に燃える現象のように、ワンダーランドから放たれる魔力砲は激しくなったわ。
そして、魔力の津波に闇の柱は飲み込まれ……メキメキと音を立てたわ。良く見ると所々にヒビが入っていたの……けれど、破壊するには至らなかったわ。
それを見ていた【叡智】のクロウからは嘲笑とも呼ぶべき笑い声が聞こえたの。
『ふ、ふふ……やはり無駄な行為であったのであるぅぅぅ、魔王様ぁぁぁぁ! 我輩の最後の置き土産ぇぇぇ、受け取ってくださいませぇぇぇぇぇっ!!』
けたたましい叫び声を上げると同時に、闇の柱は動き出し……地面に向かって下がっていったわ。
それを見ながら、彼女は持ち手を変えて……刀身を出したの。
『魔力ももう無いです……。ああ、それに身体ももう動かない……だけど……。はい、これで終わりたくないです。ああ、ここで終われるわけが無い――! 最後に動いてくれ、オレの身体!!』
搾りかすほどの魔力を動かし、彼女は身体に『風』の魔力を通すと……浮かび上がり、黒い柱へと飛んで行ったの。
迫り来る黒い柱に、彼女は刀身を突き出すように構え……一気に加速したわ。
彼女の想いが届いたのか……刀身は、黒い柱へと突き刺さり……そこを起点としてヒビが広がり始めるのを見たの。
そして、柱の奥から光が見えたと思った瞬間……燃えるような熱さが襲い掛かってきたと感じたと同時に、彼女の意識は闇に消えたわ。
●
「……ここまで来れば、安心でしょうか……いえ、もう少し急ぎましょう」
サリーを抱き抱えながら、山の麓まで降りた私ですが……直感がまだ危険だと告げた気がしたので、息絶え絶えになっている皆さんには申し訳ないと思いますが、急ぐように指示をしました。
そして、その直感は当たっていたらしく……神殿がある上空に見えていた巨大な闇の柱へと、先程空に上っていった未知の魔法と同じ物が放たれるのが、後ろを見たときに見えました。
この魔法は、多分……いえ、どう考えても、アリスさんが放っている物ですよね……? いったい彼女は、どうなったのですか? いえ、【叡智】のクロウが見せた光景が本当だとすれば、死んで甦った……ということですよね?
けれど、あれは……人の形をした何かのように、私は思えました……。やはり、アリスさんは……。
「んっ――んんっ……おじ、さん…………?」
「っ! サリー、目が覚めたのですか……」
アリスさんの魔力に当てられたのか、気絶していたサリーが目を開け……完全に覚醒していないのか、ボーっとしながら私を見ました。
出来れば、このまま寝惚けていて欲しいと私は願いましたが……すぐに気絶する前の出来事を思い出したらしく、私を恨みがましく睨んできました。
いきなり気絶したのですから、当たり前でしょう……。
「叔父さん、放してください! ワタシは、ワタシは師匠のところに行かないとっ!!」
「サリー、あなたが行ってどうにかなるというのですか? 私が行ったとしても、邪魔にしかならないであろう状況に……」
「ッ! そ、それでも……それでも、ワタシは師匠をひとりにしたくないんですっ!」
そう言って、サリーは私をジッと見つめます。その瞳に、私はつい行かせそうになりましたが……心を鬼にして逃げないようにしました。
その直後、神殿のほうから昇っていた魔法は止み……空には闇の柱が残っているのが見えました。
やはり、ダメでしたか……。あの闇の柱が地面に届くと何かが起きる気がすると感じながら、私は後のことを天に任せることにしました。
そして、私が立ち止まったからか、他の方たちも歩くのを止め、闇の柱を見ています。
だからでしょう……、地上から空に向かって金色の軌跡を描いて、上って行く朱色の輝きが見え……。
「し……しょう? 師匠です。あれは……師匠です!」
「アリス……? アリスだって言うんですかあれがっ!? サリーさん!」
何時の間にか目が覚めたらしきフォード君の声が聞こえる中、朱色の輝きは闇の柱へと突撃するのが見えました。
直後、闇の柱に亀裂が走り――眩い光と共に激しい爆発が起きました。
咄嗟に手を前に出し、近づいてくる熱風から顔を防ぎ……恐る恐る目を開けると、爆発は中心に吸い込まれるように消えて行くのが見えました。
初めて見る現象に私は唖然としました。ですが、すぐに正気に戻るとどうするべきか考えます。街へと引き返すべきか、それとも……。
そう悩む私の袖が引っ張られているのに気が付き、そっちを見るとサリーが何かを期待するような眼差しで見ていました。
「……皆さん、動ける者は私に着いて来てください。そうでない者は動ける者を数名付けますので、モンスターに注意しつつ待機していてください」
と言うと、予想通りと言うべきか全員が立ち上がり……一緒に来てくれる意思を見せてくれました。
そんな彼らに感謝をしつつ、私は頭を下げました。