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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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最後の仕事

 パキリパキリと彼女の腹部辺りから音がしていたんだけれど、輝く布切れの中では彼女の身体はガラスのようにヒビが入り始めていたの。

 正直、無理かも知れないと言われていた方法を成功させた彼女だったけれど、やはり完璧ではなかったのね……。ゆっくりながらも徐々に彼女の身体は崩壊し始めていたわ。

 けれど、このままにはしておけない……その思いが彼女を動かし、ここまで頑張っていたわ……。


『じゃあ、始めるか……。はい……、始めましょう』


 そう呟くと彼女は自身と女神像を囲むように≪土壁≫を使って、光り輝く壁を作り出したわ。

 壁の中では超圧縮された『聖』属性の魔力で満たされており、女神像からはシュワシュワと瘴気の煙が立ち込めていたの。

 けれど煙はすぐに浄化されて、何も残らないけれど……女神像からは一向に黒い瘴気は取り払われなかったわ。

 そんな女神像を見つめながら……彼女は持ち手を握り締めて、ワンダーランドをソードフォームに切り替えたの。

 朱色に光り輝く刀身の切っ先を女神像に向けながら、彼女は目を瞑ったわ。


『これは斬るための行為だけど、本当に斬るわけじゃない……オレが斬りたいのは、瘴気。……アタシが斬りたいのは、起こり得る悲しい未来……』


 そう呟くと、刀身は朱色から徐々に銀色へと変化し始め……その光が全身を覆った瞬間、彼女はワンダーランドを素早く薙いだの。

 すると、刀身は女神像を砕く……ことはなく、スッと像を通り抜けて……黒い塊を引き剥がしたわ。そして、引き剥がされた黒い塊……瘴気はそのまま銀色に輝く刀身に切り裂かれ、シュワッと煙になって消えて行ったの。

 手ごたえを感じながら、女神像を見ると……黒い割合が一気に減り、白が目立っていたわ。そして、『聖』の魔力に焼かれるように黒は徐々に消滅して行き……元通りに戻ることはなかったの。

 これは成功だと、彼女は確信したわ。それを見ながら、彼女は安堵の息を吐いたわ。

 あとは、自分がここに居ることができる時間までに浄化できればそれで良し。そう考えながら、残り時間を静かに過ごそうとしたの。けれど、現実は甘くはなかったわ……。


『まだだぁぁぁぁ、まだ終わらぬのであるぅぅぅ!!』

『――っ!? そ、その声……【叡智】のクロウ!? 何でっ、塵も残さず消し去ったのにっ!!』

『そうだあぁぁぁぁぁ、我輩は死んだぁぁぁぁぁぁ! けれど、魂が消える前にぃぃぃぃ、貴様をぉぉぉぉ――この国をぉぉぉ――道連れにしてやるのであるぅぅぅぅぅぅぅ!!』


 【叡智】のクロウの怨嗟の声とともに、壁を隔てた上空に邪悪な気配を彼女は感じたわ。

 このまま出るべきではないと感じつつも、出ないと状況は分からないと考え、彼女は≪土壁≫の一部を開け……そこから外に出たの。

 そのまま空を見上げると、黒い霧のような物が上空を漂っていたんだけど……それが【叡智】のクロウの成れの果てであることが分かったわ。

 そして、その成れの果ては消えつつあった闇の柱に自らの身体を流し込んでいたの。その度に闇の柱は脈動し……嫌な気配が増していったの。


『この柱が完全に黒く染まったときぃぃぃぃぃ、地脈を穿つのであるぅぅぅぅぅぅ!! そうすればぁぁぁぁ、元々考えていた程ではないがぁぁぁ、この国は大打撃を受けるのであるぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!』

『ご丁寧様に解説ありがとうございます。だったら、その前にそれを何とかすれば良いんだろう?』

『その通りであるぅぅぅぅぅ!! けれどぉぉぉ、そう上手く行くと思うんじゃないのであるぅぅぅぅぅぅぅっ!!』

『そうですか……。だったら、その自信を叩きのめしてやるよ!』


 自信満々に叫ぶクロウの声に、彼女はワンダーランドを構え……上空に向けて、光の矢を撃ち出したの。

 放たれた光の矢は闇の柱に突き刺さると、光の球となって闇の柱を穿つはずだったわ……けれど、光の矢は闇の柱へと吸い込まれると光の球に変化することも、何の変化も見られなかったの……いえ、それどころか。


『あの、気のせいだと良いのですが……。いや、気のせいじゃないと思う……、あの柱、魔力を吸い込んで自分の物にしやがった』

『良く分かったのであるなぁぁぁぁぁ!! この闇の柱はぁぁぁぁ、今は魔力を溜めている最中なのであるぅぅぅぅぅ!! そうすることでぇぇぇぇ、穢れた魔力を地脈に一気に流し込むのであるぅぅぅぅぅぅぅ!!』

『……要するに、毒を一気に流し込もうとしてるってことだよな? たぶん、そうだと思います……昔、そんなことがあったと本に書かれていましたから……』


 つまりは見ていることしか出来ないと言うことだろうかと考えつつも、彼女は一方でロクでもない考えを巡らせていたわ。

 例えば……目の前の闇の柱が一種の貯水タンクだとして、それがどれだけ溜まるかは分からない。

 そして、それが満タンになった途端に、注がれる。

 だったら……そのタンクを無理矢理満タンにして、それなのにまだ注いだらどうなるのだろうか?

 もしかすると、パンパンに膨れた水風船のようになるのか? それとも、溢れて零れるだけなのか?

 どっちなのかは分からない。

 けれど、彼女は……前者であることを願いながら、ワンダーランドを構えたわ。

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