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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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チェシャ猫

「これで、邪魔をする者は居なくなったのである!! 安心して、続きを始め――な、なんであるかこの魔力は!!」


 後ろを向いていた【叡智】のクロウだったけれど、突如感じた魔力に驚きながら振り返ったの。

 すると、そこには黒い円が宙に浮かんでいてね、中から何かが姿を現したの。

 姿を現した存在が誰なのかクロウは一瞬悩んだけれど、すぐに思い出したわ。だって、ティーガと面白いほどに接戦を繰り広げていた人間なんですものね。

 けれど、それを見たとき……クロウには疑問が浮かんだの。何故心臓を貫かれた人間が普通に動いて、さらには異常なほどの魔力を内に秘めてるのかってね。

 だから、クロウは理解が追いつかないまま、現れた人間に向けて叫んだの。


「き、貴様は何処から現れたのであるか!! それに、その魔力はなんであるか!! 早く答えるのである!!」

『サリー様、フォード様、ハスキー様……。間に合わなかったか……? いいえ、アタシは諦めません。そうだな、諦めるわけには行かないよな』

「答えるのである!! さもなければ、我輩の魔法で貴様も石にするのである!!」

『五月蝿い。でもそうか……ここで魔法は厄介だよな』


 鋭い瞳でクロウをにらみつけた彼女は、納得するようにそう呟くと持っていたワンダーランドを構えたわ。

 それを見たクロウはすぐにでも魔法を使える体勢を取りながらも、目の前の彼女がどんなことをするのかという興味もあってすぐに攻撃をしなかったの。だけど、それが【叡智】のクロウの最初で最後のチャンスだったのよ。


『掻き乱せ、【チェシャキャット】』


 そう呟いて、ワンダーランドの引金を引いた瞬間――彼女を中心に、仕掛けられていたトラップ魔法が激しい音を立てて、崩壊していったの。ただし、激しい音は立てたけど、魔法は発動しなかったわ。

 ちなみに沼のように軟らかくなっていた地面も元に戻って、その場に数名の冒険者たちが倒れているのが見えたの。

 そして更に、魔法を使おうとしていたクロウに溜められていた魔力が、バケツの水をひっくり返したように一気に消失してしまったわ。

 突然のことで驚きの表情をしながらも、これを行ったのは目の前の少女だということを理解してクロウは彼女を睨みつけながら何をしたのか問い質そうとしたけれど、きっと答えてくれないと理解して自分で推測することにしたみたい。

 ぶつぶつと呟くクロウを放っておいて、彼女は今度は石になってしまっている冒険者たちを見たわ。


『出来るかわからないけど……いや、やる。やってみせる……そのために、アタシには知識がある。オレには力がある』

「まさか、純粋な魔力を叩きつけて……周囲の魔法を叩き潰した? いや、それだと……しかし、それをするには魔力の量が人の身にはあまりにも少なすぎるのである……けれど――な、何をしようとしてるのであるか!!?」


 ぶつぶつ呟いていた【叡智】のクロウだったけれど、彼女の魔力が膨れ上がったことに気づき、驚愕の表情でこちらを見つめながら叫んできた。

 何をするかって? 決まってるでしょ、あなたが行ったことを台無しにしてあげるのよ。そう心で思いながら、口にはしなかったわ。


『聖なる治癒の光よ、風に宿りて彼の者らを呪縛から解き放て! ≪治癒の神風≫!!』


 彼女は叫ぶとともにワンダーランドの引金を引いたわ。すると、彼女を起点として周囲に光を纏った風が神殿内に吹き荒れたの。

 その光を見たクロウは悲鳴を上げながら、両目を押さえて蹲り……それとは逆に石になっていた者たちの身体がまるで逆再生するかのように、石になっていた肌が徐々に人間らしい色合いに戻り始めていき……沼のようになっていた地面に身体を潰されていた冒険者たちの肉体も回復していったのか、うっと言う声が聞こえたわ。

 その光景に一安心しながら、いったい何が起こったのか頭がまだ追いつかないサリーが焦点の合っていない目で彼女を見たの。


「え…………。し、しょう……? じゃあ……ここは……てんご、く?」

『残念だけど、天国じゃないです。というか、それは残念って言えばいいのか?』


 寝惚けているのか、呆然と問い掛けてくるサリーにそう言うとようやく現実を理解し始めたらしく……サリーは周りをキョロキョロと見始めたわ。

 サリーの視界にはフォードとハスキーを含む冒険者が驚いていたり、どうしたのか理解出来ていないといった様子が見えたの。そして、正面を見ると……彼女が立っていたの。

 それを見て、一瞬幻覚かと思ったのか目をパチパチとさせてもう一度見るとまだそれが幻覚だと思ったらしく、今度は眉間を揉み解し始めていたわ。


『えーっと……サリー様。これは夢でも幻でもないからな』

「……じゃ、じゃあ……本当に師匠……なん、ですか?」

『正真正銘、アタシはアリスですよ。現実が見えてきたか、サリー?』


 問い掛けると、呆然としていたサリーの目に涙が溢れ出し……彼女を抱き締めていたの。

 いきなりのことで驚いた彼女だったけれど、サリーは興奮しながら無くした宝物を見つけたようにしていたわ。


「師匠師匠、師匠!! 生きて、生きてたんですねっ!? でも、どうしてっ!? 【叡智】のクロウが見せた光景だと師匠は確かに【破壊】のティーガに胸を貫かれて……いえ、もしかしたらワタシたちを混乱させるための罠だったとか――って、師匠殆ど裸じゃないですかっ!?」

『あー、っと……ちょっと、落ち着いてくださいサリー様』

「お、落ち着いてなんていられませんっ!!」


 とりあえず、サリーが元に戻るまでしばらくはこのままだろうな。そう思いながら、彼女はいまだ攻撃せずに悩み続けている【叡智】のクロウの様子を見つつ、サリーに肩を揺すられていたわ。

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