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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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神を超える

 そうそう、その調子で捏ねて行くのよ。

 うん、力いっぱい愛情込めてね。まあ、疲れたら言いなさい、アタシが捏ねるから。

 まだまだ頑張る? うん、だったら頑張って捏ねようか――って、飛び乗ったらダメだって言ってるでしょうが。

 うどんじゃないんだから、これはパンなんだからね。それにビニールなんて無いんだから不衛生だってば。

 ああ、うどんって言うのは太い麺をした食べ物よ。食べてみたいって? んー、それは今度ね。今はパンを大量に作って起きたいから。

 ぶー垂れないの、可愛い顔が台無しになるって言ってるでしょ? ……そんなに褒めないでくれって、調子に乗ってんじゃないわよ。

 ……ただのデコピンでここまで大げさに痛がるって、あんたは……え? そんがいばいしょーをようきゅーする? この子いったい何処でこの言葉を覚えんたんだか……。

 じゃあ、損害賠償として……話の続きってことでどう? ……あ、それでいいんだ。

 それじゃあ続きを始めるけど……確か、彼女が死んでしまったところからだったわよね。

 って、痛いのイヤだからそこは飛ばすわね。とりあえず、彼女は死んでしまって神様のところに行ったの。

 そこで、彼女の中に居た彼は神様に頼んで、彼女を生き返らせてもらったのよ。

 とりあえず、そこの辺りから話すことにするわね。


 真っ暗な空間の中で、神がドロドロに溶け切った2人の人間だった物を見ながら、溜息を吐いていたわ。

 理由は、折角別の世界から呼び出したゆうしゃだったのに、外身を救うために自身の身体を使った。……けれど失敗をしてしまって、外見と中身2つとも溶けてしまったからどうしようかって悩んでいたから出た溜息みたい。

 正直また、ゆうしゃを呼び出そうとしてもしばらく時間がかかって、人間の国の神がもう一度別の世界から違うゆうしゃを呼び出せるときになったときには、世界は殆ど魔族に物になっているだろうからね。


「仕方ありません。次のゆうしゃ様にはかなりハードモードですが、頑張っていただきましょうか」


 誰にも聞こえないけど、そう言いたいのか神はそう言って、その空間から立ち去ろうと後ろを向いたの。

 けれど、神は後に絶対後ろを向いたことを後悔したでしょうね。何故なら……後ろを向いた瞬間、背後から眩いほどの光が放たれたの。そして、その眩い光の中には神でさせ息を呑んでしまうほどの激しいほどの魔力が込められていたわ。

 それに気づいたから、神は即座に後ろを振り返ったの。この魔力の光は何処から放たれているのかを知るためにね。


「何ですかこの光は……!? いったい何処か――こ、これはっ!!?」


 振り返った女神は驚愕したわ。だって、魔力の光を放っているのはドロドロに溶けた2人だった物だったんですもの。

 ドロドロに溶けたと言うのに、いったい何が起きたのか。それがまったく判らずに、神は困惑したわ。

 その間にも、光り輝いていたゆうしゃだった物と、その受け皿となっていた少女の身体は混ざり合って行き……ひとつになっていったの。そして、混ざり合って行くと徐々にそれは人の形を取り始めたわ。

 そんな光景は神にとって初めて見ることだったから、神は目を見開いていたの。


「そ、そんな……まさか、これは生命の創造というのですかっ!? 私たち国を任せられた神ですら、出来ないはずのことを……ゆうしゃ様と一緒になったただの人間が出来るというのですかっ!!?」


 会社で言うところの課長クラス、工場で言うところの部署リーダーな立ち位置に居る人間の神はそう叫びながら、目の前の光景を見つめていたわ。

 目の前で映像が逆再生をするかのように、ドロドロに溶けた物が人の形を取っていき……段々と、少女の姿になり始めたの。そう、彼女の姿にね。

 完璧に彼女の形を取り終えると、光は徐々に弱まっていき……完全に光が消えると、そこには……彼女が目を閉じて立っていたの。

 ちなみに服は一切着ていない、真っ裸な状態でね。けれど、ティーガにズタボロにされた傷はまったく無くなっていて、生まれたばかりのようにスベスベとした肌をしていたわ。

 それを神は息を呑んでみていたけど、会話が出来るのかと疑問に思いつつ声をかけることにしたの。


「あ、あの……ゆ、ゆうしゃ、様……?」

『…………行かないと』

「え? ゆ、ゆうしゃ様? いったい何処へ――これっ!?」


 男と女の声が合わさったような声が彼女の口からポツリと出て、呆気に取られながら何処に行くのかと神が問い掛けると……返事をせずに、彼女は何かを使ったの。

 すると、彼女の頭の上に黒い円みたいな物が現れて、彼女ひとりが入れるサイズまで広がると広がるのをやめたわ。

 普通の人は何なのかと分からないだろうけど、神には理解出来ていたの。何故なら、その黒い円の性質は自分が行う『はじめから』と同等、もしくはそれ以上の力が込められているのが分かったから。

 驚き、身体を固める神を見ずに……彼女は光をマントのようにして身体を覆うと、その円へと入り込んでいったの。


「な、なんなんですか……あれは……?」


 今度こそ独りになった真っ暗な空間で、神は震えながら……消えた彼女のことを思い出しながら呟いたの。

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