溶け合う身体、重なる心
真っ白い空間が広がっていた。……目を開けているのかと聞かれたら、閉じているのかも分からない。
けれど、周りは何も無い……真っ白な空間だけだった。
さっきまで自分が居たあの真っ暗な空間は何処に行ったのか? 首を捻るけれど、首を捻っているのかさえ判らない。
どうして判らないのかと問われると……何せ、身体が無いのだからだ……。
そこにあるのは何もない真っ白な空間。けれど、自分はそこに居る。それだけは何故か分かった。
そして身体が無い理由は、確か――を生き返らせようとした結果こうなったんだ。
あれ? けど、――って誰だったっけ? いや、そもそも……。
『オレは、誰だ……?』
『アタシは、誰なの……?』
ポツリと呟いた瞬間、オレの声に重なるようにして別の声がした。
この真っ白い空間に居るのはオレだけじゃないのか?
そう思いながら、オレは声の主に呼びかけた。
『お前は、誰だ?』
『あなたは、誰なの?』
すると、同じように声の主からオレに問いかける声が聞こえた。
誰かと聞かれても、オレは自分が誰なのか判らない。
そう声の主に伝えると、一拍置いてから声の主から返事があった。
『そう、同じだね。アタシも、自分が誰なのか判らないの。だから、あなたとアタシは同じ』
『ああ、そうだな。オレとお前は同じだな……。あれ? 前にも同じことを聞いたような気がするのは何でだろう……』
『……そう言われてみると、そんな気がするね。どうしてかな?』
クスクスと、声の主が嬉しそうに笑う声が聞こえた。
他愛も無い話をするような感じなのに、オレにはそれがとても嬉しく感じられた。
多分、オレはこの声の主を知ってる。見たい。オレはこの声の主を見てみたい、そして触れたい……。
そう思いながら、オレは腕を前へと伸ばすようにしてみた。すると……手に温かく柔らい感触が伝わってきた。きっと声の主の温もりなんだ。
その感触をより感じようと、優しく指を曲げる。すると、その手もオレの手を握り返してきた。ああ、これは声の主の手だったんだ。
……どうしてだろう。姿が見えないのに、声だけしか聞こえないはずなのに、オレにはこの温もりが誰のものなのか判るようだった。
だからだろうか……、自然とオレの口から……声の主、この手の人物の名前がスルリと出てきた。
すると、浮き出るようにして真っ白な空間に金髪碧眼の少女が姿が浮き出てきた。
その少女の姿を見た瞬間、霞みがかっていた頭がクリアになった。
『アリスなの……か?』
『はい、アリスです。……あなたは、そんな顔をしていたんですね』
『え? 顔って……あ』
泣きそうな、嬉しそうな……そんな表情をしながら、アリスはオレを見ていた。
そこでオレも自分の身体が透明でなくなっていることに気が付いた。それも、アリスの写し身のような身体ではなく、元々のオレ自身の姿でだ。何ていうか、久しぶりに見た。
そう思っていると、不意にアリスがオレへと身体を密着させてきた。
生きている温かさと柔らかさ、そして女の子特有の何処か甘い匂いが鼻を擽った。
「ア、アリス……?」
「バカです……、あなたはバカです。何時もアタシを見ていてくれていたのに……その上、命を差し出そうとするなんて……本当、バカです」
「聞こえていたのか? あの神との会話を……悪かったな。痛い思いをさせてしまって」
「いえ……、ここだと何故か手に取るようにしてあなたの考えていることが分かるんです。それに、あなたは悪くないですから」
「そうか。ありがとな……」
抱きついて……涙を流すアリスの顔にそっと指を近づけ、流れる涙を拭うとオレは謝る。
けれどアリスは首を横に振って、オレを苛もうとはしなかった。
だからだろう、オレはアリスに問いかけることにした。
「アリス……、オレはお前が良い。だけど、たとえ生き返ったとしてもお前は戦いから逃れることは出来なくなると思う」
「はい……ですが、サリー様とフォード様、ハスキー様……いえ、獣人の国が危なくなっているのに、もう何も出来ないなんて言いたくありません。それに……今は獣人の国だけだとしても、他の国にも魔族の手が伸びないなんて思えません」
「……そう、だな。じゃあ、もう一度聞かせてくれ。オレはお前とひとつになるけど、それで良いのか?」
「はい。迷いなんて、ありません。ですから、アタシはあなたと死ぬまで一緒に居ます……あなたの世界で言うところの、死が二人を分かつまで……ですか?」
確かそれはプロポーズだったか結婚のときの言葉だったりするけど……まあ、良いか。
そう思いながら、オレはアリスを抱き締めた。
ビクリとアリスの身体が震え……、目を閉じ緊張するアリスへと、オレは……キスをした。
その瞬間、真っ白な空間が光り輝くのが見えた。
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